表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バーティー・グーンのファンタジア  作者: 目安ぼくす
序章:ワールドスワップ
1/22

猿は木から落ちる

初投稿です。ストック10話分。

 月が陰る下弦の夜に、さる小さな若者は廃墟を駆けていた。


 押し寄せる亡者の影から逃げ続けて。


「あぁ、クソ。ホラーじゃねえか、こんなの。」


 唸りを上げる幽鬼の隙間をくぐり抜けて小人は進み続ける。


 全ては力を、手に入れるため。


 そのためには命さえ惜しまないほどの勇気を、彼は持ち合わせていたのだ。


「やっぱり来なきゃよかったぜ…」


 それでも泣き言は漏れるというものだ。


 彼は、根は臆病であったのだから。


「聞いてねえよ、ゾンビに、グールまでいるじゃねえか。あんなの腐肉の塊だ、クソ。」


 掴みかかってくる吸血鬼のなり損ない、グール、避けて早々、ゾンビが少年に食らいつく。


 籠手を犠牲に彼は逃れるが、一度落ちた速度は早々戻らない。


 あっという間に亡霊たちに囲まれて、少年は慌てふためく。


「やっべえな。おい、あっち行け!」


 彼の頼みの綱は、短刀と腰に吊り下げた不恰好な石ころだけ。


 それでも巧みな投石で死霊の視力を奪うが、多勢に無勢で、遂には一つの崩れた壁のすぐそばにまで追い詰められてしまう。


「くっ、もはやこれまでってヤツか…」


 諦めかけた少年が、短刀を掲げて亡者の大群目掛けて玉砕しようとした時、奇跡的なハプニングは起こった。


 ぐいっと踏み込んだ右足が、地面にぬめり込んだのだ。


 その様相、まるで水面を踏むが如し。


 うおおと叫ぶ少年の行動は少しばかり遅かった。


「にゅるり。」


「うおおっ、なんでだ!?」


 そして虚空に吸い込まれた彼は、悪鬼の巣窟から救われ、その姿はすっかり残らなかった。


 突然消えた獲物に悪霊のどれもが困惑したが、突いても突いても、それは硬い地面だったのだ—


 ところで、少年の名はバーティー・グーン。


 文字通り、地面に呑まれたバーティーは、空中を真っ逆さまに落ちていた。


 宙で不様にもがくその様は、とても人とは言えぬ、正にカエルだった。


  「うわああああ、ぐべっ。」


 幸いなるかな、バーティーは運良く骨も折らず、打ち身だけで無事に着地した。


 大の字になって底にぶち当たった少年は、目を回しながらも立ち上がる。


 キラキラ輝く星が見えるような見えないような。そんな地の底深くまで来たとは知らずに彼は呑気に思う。


「あー、危なかったぜ。全く、あんなのが沢山いるなんて聞いてねえよ…」


 あぁ、悲劇、彼は少々危機感が欠けていた。


『この私を起こすものは幾度となく貴様であるな。』


「お、誰だ!こんにちは。なんか知らねえが腹減った。飯食わせてくれ!」


 そして少しばかり頭のネジも外れていたのだ。


 正に厚顔無恥の体現者、さすがに謎の声も絶句し、言葉が出ない。


「腹空いたぜ。メシくれメシ!」


『…やはり恥知らず、そして愚物でもあるか。始末したいところだが見逃さねばならぬ…』


「んー?ありがとうって言えばいいのか?とりあえずメシくれよ〜。」


 恥を知らない野生児は、糧食を見知りもしない人物に要求する。


 さて、恥を知らない少年バーティー、腹をすっかり空かせて、ぐーたらごろごろして謎の声を挑発する。


 人の居間に乗り込んでくつろぐなど、とことん態度のデカい小人である。


『良かろう。そちにムスビをやる。その代わり、約束してもらおう。』


 謎の声は厳粛に告げる。


 ポンと転がってきたおにぎりに、むしゃぶりつくバーティーも真剣に耳を傾ける。


『世界を救え、その飽くなき野望とともにな。』


「そうすれば、俺は強くなれるのか?」


『なれるとも、この私が力を貸すのだから。』


 謎の声がフハハと不気味に笑う。


『私は震撃の使徒、ネプチューン。そなたの右手となりて力を貸そう。誓いはここに果たされた。』


 ギューンと暗闇の中で光が突然、集まり凝縮し、真夜中の満月のように煌めいて、バーティーの目を焼く。


「うがああああ、痛え!?」


『誓約をその目に焼き付けた。契約は完了したのだ。では赴こう。」


「ぐ、どこへだよ?」


 痛む目を必死に擦りながら、バーティーは聞いた。


 ただ彼は、黒かったその目が、赤く真紅に燃え盛るのに気がつかなかったのだ。


『旅の出発点。最初のファンタジア。』


 荘厳な響きをもってして、謎の声【ネプチューン】は言い放った。


『ミッズガルズへ!』


 キュキュキュキュキュと渦巻き出した光は、辺りを白く包んで—


 バーティーは、それに呑み込まれた。




次回をお待ち?

一時間後ですよ。

時間になったら次のページへ!

伏線多量だから気をつけるんだぞ…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ