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ざぶーん・はぷにんぐ。




 馬車に同乗して数時間も経つ頃には、大きな街が見えてきた。

 巨大な外壁と、高さは四メートルくらいある門だ。

 この王国の中でもかなり栄えている街の一つ、フラウロス。

 もう少ししたら、国中から覇を競い武を磨く大会、武術大会が開かれる、らしい。


「あー、ひっさしぶりだなー」


 フラウロスの街中は盛況である。

 中心に構えている円形の闘技場(コロッセオ)こそが武術大会の会場であり、街の中はいろんな人でごった返している。

 お姉ちゃんは背中を伸ばしながら、昔を思い出して、懐かしんでいる。


「お姉ちゃんは何回も来てるの?」


「うんっ。出場禁止になってからは来てないけどね~」


 ワタシの知らないお姉ちゃん。

 ワタシのために、お金を稼ぐためにいろんなことを頑張ってくれたお姉ちゃん。

 ワタシはそんなお姉ちゃんの過去を、全然知らない。


「あはは……」


 だからつい、苦笑いでしか返せない。


 フラウロスの街は中央のコロッセオを囲むように、ちょっと大きめの水路が存在していた。

 わー、けっこう深そうだ。

 レンガ造りの建物も多くて、ワタシが生まれ育った街より若干発展している。


「このままユリアルの別宅まで直行しますが、よろしいですか?」


「はい。お姉ちゃんもそれで問題ないよね?」


「大丈夫だよ~」


 入り口に馬車を預けてきたランさんが合流して、お姉ちゃんを先頭にして街を歩き出した。

 ふーちゃんたちは一度、フラウロスの街にある別宅に向かう。

 助けて貰った謝礼などのために、ワタシたちも同行する。


 それから武術大会に申し込むらしいので、そこでお別れする予定だ。


「むぅ。プリムの活躍も見たかったのじゃ」


「あはは~。ごめんね、お姉ちゃん運営さんに怒られちゃうから」


「むーむーむー! お主もプリムの勇姿を見たいじゃろう、シアン!」


「うぇ? わ、ワタシ?」


 急に話を振られても、答えに戸惑ってしまう。


 ……お姉ちゃんは強すぎて、試合にならない。

 だから、武術大会への出場を禁止された。


 運営にとってはSSSランクのお姉ちゃんが出場することは、そのまま売り文句になるからプラスにはなる、はずだ。


『あのSSSランク、プリム・ソフィアが参戦! 腕に覚えのある奴は、彼女に挑戦だ!』


 ……とかね?


 でも、試合内容があまりにも一方的であったり速すぎれば、売り文句も台無しだ。




 前世の記憶を思い出す。

 『俺』の世界――日本では、プロレスとかボクシングといった格闘技がお茶の間を賑わせていた。

 いや、格闘技だけではない。

 サッカーとか野球とか、スポーツ全般だ。

 とにかく人は競い合うモノを見て興奮し、熱狂する。

 結果のわからない勝負の行く末を、手に汗握りながら、見守るんだ。


 それと同じなら、プリム――お姉ちゃんが出場して、一方的な試合を見せても盛り上がらないのは明白だ。


 いくら挑戦、と銘打っても、お姉ちゃんは手加減が下手だからすぐに決着を着けてしまう。


 結果が見えてしまえば興醒めする。

 だからこそ運営は、お姉ちゃんの出場を禁止にした。


「むぅ」


 理屈はわかる。過去の記憶と照らし合わせても、納得……するしかない。

 でも……。


「大会で活躍するお姉ちゃん、見てみたかったな――っは!?」


「シアちゃ~~~~んっ!」


 見 ら れ て た !

 聞 か れ て た !


「そうだよねそうだよねシアちゃんお姉ちゃんの勇姿みたいよね! ああもう私もシアちゃんにかっこいいとこ見せたいよ~~~!」


 ぽつりと零れた本音を拾ったお姉ちゃんの興奮がやばい!


「お、おね、お姉ちゃん、ここ、街中だからぁ!?」


「じゃあ宿屋! 宿屋行く!? 大丈夫だよお姉ちゃんが優しく抱き枕にしてあげるから!」


「すとーっぷ! すとーーーーっぷ!」


 抱きしめようとしてくるお姉ちゃんに必死に抵抗するんだ、け、ど……!

 何これ力強すぎる! いやこれでも加減してくれるってのはわかるけど!

 こ、これが筋力:SSS++……!


「これプリム、あまりシアンを困らすでない!」


「プリム様、さすがに街中ですからもう少し控えた方が……!」


 つる。 え?


「あ」


「シアちゃ――」


 ふーちゃんとランさんが流石に、とお姉ちゃんを止めようとして。

 お姉ちゃんはうっかりワタシを離してしまって。

 ワタシは後ろによろめきながら、足を踏み外して。

 あれ、道が、ない――?



 ざばーんっ。


 景気の良い音を立てながら、ワタシは水路に落下した。

 幸運だったのは、水路はそこまで深くなかったこと。

 一瞬沈んだけど、高低差が酷いわけではなかったから、怪我はしなかったこと。


「……びちゃびちゃだ」


 ランさんたちに手伝って貰って水路からあがれば、それはもうワタシの服はびちゃびちゃなわけで。


「シアちゃんごめんなさいっ。大丈夫? 怪我してない?」


「大丈夫。ちょっと寒いけど……くしゅんっ」


 全身ずぶ濡れとなってしまっては身体も冷えてしまう。

 『俺』とは思えない可愛らしいくしゃみをしながら、改めて『ワタシ』であることを再認識する。

 うぅ、こんなことで再認識しなくていいのに……。


「大変っ。風邪引いちゃう!」


「ここからなら衣服を買うよりユリアルの別宅に向かいましょう。浴室も用意させます」


「お願いします!」


「ひゃぁ!?」


 ひょい、と簡単にお姉ちゃんに抱きかかえられた。

 お、お姫様抱っこですと……!?


「ラン、急ぐのじゃ。シアンに風邪を引かれたらユリアル家の沽券に関わるぞ!」


 いやあのワタシ自分から落ちただけだからね!?

 おおげさにしーなーいーでー!


 ………

 ……

 …


「……あのー、お風呂、ありがとうございました」


 されるがままに連れてこられたのは、フラウロスの中にある、巨大な屋敷。

 ここは、ユリアル家の別宅らしい。

 屋敷に入るや否や沢山のメイドさんが頭を下げてくる光景は圧巻だった。


 そしてお姉ちゃんからメイドさんにワタシは引き渡され、流されるようにお風呂へ押し込まれた。


 お風呂広かった! 足を伸ばせるどころか泳げるレベル! ワタシ泳げないけど!


 肩まで浸かって百数えて、そして脱衣場に戻ってきた。

 出たところにタオルが置かれていて、それで身体を隠して。

 服は、どうすればいいのだろう。

 びしょびしょの服の代わりを用意した、って説明は受けたけど。


 ……これ?


 まさか、これを着ないといけないの?


 まじ? まじですか?


「着替え方わからないのであればこのメイド長に任せてください。大丈夫です。シアン様の肌をちょこっとだけ触らせて頂ければそれで十分ですので」


「ぴゃあ!?」


 だ、誰!? 眼鏡をかけたメイド服の人が――メイド長とか名乗っていたけど。


「では、始めさせて頂きます」


「あ、ちょ、ど、どこ触ってるんですかぁーーーーー!?」


「大丈夫です。ちょっとだけ、ちょっとだけですから」


 あーーーーーーーーーれーーーーーーーーーーーーーーーー。




 そしてワタシは、それを半ば強引に着させられて食堂に連れてこられた。


「シアちゃんだいじょ――メイドきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ……そう。用意してもらった代わりの服は、魔法使いの衣装ではなく。

 メイド服、だった……!

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