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おまけその2 トリック・オア・トリート。




「よし、準備完了だよ!」


 ひらひらとマントをたなびかせて、鏡の前で改めてポーズを取る。

 ワタシにとっても非常に珍しい事態だ。そう、ワタシは今、自分の意志でメイド服以外のコスプレをしている。


 何故かって? 今日は――ハロウィンなのだ!


「…………異世界でもハロウィンってあるんだね」


 ワタシ/俺が暮らしていた世界では、十月三十一日がハロウィンの日となっていた。

 様々な仮装をして、お菓子をねだりにいく催しだった。町内とかでは子供たちが仮装しながら家を回るのが通例だったし。


 ワタシはあんまり仮装したことはないけど、今は違う。


 だって今年は……違う、今は、お姉ちゃんがいるからね!


「喜んでくれるかなぁ」


 喜んでくれるとは思う。だってお姉ちゃんだし。ワタシのことが大好きなお姉ちゃんだし。


「えへへ。いつもとは違う魔女っこだぞー」


 いつもは学院の制服の上にローブを羽織る、『魔法使い』の衣装だ。

 でも今日は、今日だけは違う。

 黒のマントと白のシャツ、紫のミニスカートに加えて、帽子には蝙蝠を模したアクセサリー。


 何処からどう見ても魔女だ。魔法使いじゃなくて、魔女だ。


「これで鍋でもかき混ぜれば雰囲気出るかな?」


 ワタシは魔法学院の中でも落ちこぼれで大した魔法も使えないから、(ロッド)も持っていない。

 レアルくらい優秀なら持っていても絵になるんだけど、ワタシ程度じゃなー。


 とはいえ今日は特別だ。魔具でもなんでもない変哲のないただの杖だけど、用意した。


 ふふん、これで完璧な魔女っこだね!


「魔女っこシアン、華麗に参上! なーんちゃっ――」

「シアちゃんただいまー! お姉ちゃん頑張ったよ褒めて褒めてー――――魔女っこきた!!!!!!!!」

「しまった相変わらずお姉ちゃんの行動が迅速すぎる!?」


 お姉ちゃんは今日、ユアン王子の依頼で森に出た希少種の討伐を任されていた。

 流石のお姉ちゃんでもあと二時間くらいは掛かると思ったけど(移動時間的な意味で)、さすがワタシのお姉ちゃんでSSSランク冒険者。常の予想を裏切ってくる!


「ねえねえシアちゃん。それってハロウィンの衣装なの? 魔法使いじゃなくて魔女っこなの? お姉ちゃん普段と違うシアちゃんにときめききゅんきゅんだよ!?」


 あ、やばい。普段と違う衣装にもうお姉ちゃんのボルテージがクライマックスだ。


「お姉ちゃん、どうどう。落ち着いて、ね?」

「これが落ち着いていられるかー!」

「ですよねー」


 とはいえお姉ちゃんも衣装をしわくちゃにしない為に自制してくれている。いつもなら真っ先に抱きついてくるのに、今日はやってこない。


 それはつまり、『ハロウィン』を楽しもうとしてくれているのだ。

 だったらワタシは、それに応えないとね。


「こほん。――プリム、トリック・オア・トリート」


 少しでも普段とイメージを変えたくて、声を絞る。絞る? なんだろう、こう、ちょっとイケメンな感じの声で!


 キリッと声を出して、お姉ちゃんの「トリック」の言葉を待つ。

 ふふ、わかっているよ。今日はワタシがハロウィンにかこつけてお姉ちゃんを攻めるって流れくらい。むしろそうするために用意したと言っても過言ではない。


 さあお姉ちゃん、いつも以上にワタシにメロメロになるがいい!


「トリート!」

「へ?」


 ……トリート(おもてなし)


 いやいや。聞き間違いだよね。このお姉ちゃんがこの絶好のタイミングでトリック(いたずら)を選ばないわけがないよね?


「……えーと、とりっく、おあ、とりーと?」

「トリート!」

「ええええええええ」


 ふんふんとお姉ちゃんが鼻息荒く机を叩いている。

 え、おもてなしって。え?


「え、え、え。……晩ご飯のリクエスト?」

「トリート! トリート! トリート!」

「トリックじゃなくて?」

「とりとりとりとりとりーと!」

「おもてなし?」

「とりーと!」


 お姉ちゃんが口角を吊り上げた――しまったこのお姉ちゃん最初っからそのつもりか!?


 ワタシがいたずらを仕掛けて上位に立とうとするのを止めてきた!

 何のためか? それはいつも通りお姉ちゃんが上位に立ち振る舞うためだ。


 っく、さすがワタシのお姉ちゃんだ。でも、今日のワタシはそんな簡単には屈しない――。


「あっれー。もしかしてシアちゃん、お姉ちゃんに"いたずら"したいの~?」

「ぬぅっ!?」


 違う。違った。お姉ちゃんはもっと手強かった!

 上位に立ち振る舞う? 違う。お姉ちゃんの狙いはもっと業の深いものだ。


 このお姉ちゃん、『ワタシ()がいたずらしたいと懇願する』のを見たがってる!

 なんて羞恥プレイだ!


 でもそんなお姉ちゃんが大好きだ!


「ねえねえどうなの~? シアちゃんがちゃ~んと言葉にしてくれたら、お姉ちゃん、なんでも叶えちゃうよ~?」

「ぐ、ぐ、ぐぅ……!」


 ぐぅの音もでない。出たけど。

 このままじゃお姉ちゃんのペースだ。なんとかしてワタシのペースを取り戻さないと。

 今日はワタシが攻めるって決めたんだから!


「……そうだよ。ワタシはお姉ちゃんにいたずらしたいんだ。ね、プリム。……"いたずら"していい?」

「いいよいいよ~。っふふ。シアちゃんかーわい~!」


 敢えてお姉ちゃんの言葉に乗って、お姉ちゃんが望む言葉をそのまま口にする。

 でもそれだけじゃ終わらない。


 ぐい、とお姉ちゃんに近づく。密着するまで近づいて、お姉ちゃんの綺麗な瞳を覗き込む。

 ……ぷっくりした可愛らしい唇が見える。本当だったら、このまま吸い込まれるようにキスしたい、けど。


「シアちゃん?」

「やっぱり不公平だよね」

「へ?」

「……はむっ」

「ひゃ!?」


 ずっと唇を見つめてたから、お姉ちゃんもすっかりキスするつもりでいたみたい。

 でもざーんねん。ワタシが吸い付くのは唇じゃないでーす。


 お姉ちゃんの、鎖骨ッッッッッ!!!!


「ん、ちゅ、ぺろ……」

「ひゃ、シアちゃ、そこ、ちがっ」

「ん~……? だって、ワタシがいたずら、するんだよ? あ~。もしかしてお姉ちゃん、キスしたかったの~?」


 ぺろぺろ。ちょっと汗の味もするけど、むしろより一層興奮する。

 ぺろぺろ。ちゅー。はむっ。


「う、ううん。それ、ひゃうっ!」

「お姉ちゃんかっわいー! ……ね、してほしい、っておねだりしてくれれば、ワタシはちゃーんと叶えるよ?」


 いしゅがえし。

 お姉ちゃんは不意を突かれて鎖骨をぺろぺろされたから、もういつもの余裕はない。


「きす! きすしたいの! シアちゃんとちゅーしたいのっ!」

「よく言えました~。あむっ!」

「んんんーーーー!!!?」


 いつものように吸い付くキス――ではなく、お姉ちゃんの唇を甘噛みする。

 これにはお姉ちゃんも想像以上だったのだろう。全身から力を抜いて、へにゃへにゃとワタシに寄りかかってくる。


 よし、お姉ちゃんに勝った!


「はぁ、はぁ、はぁ……し、しあちゃん~……」

「どうしたのお姉ちゃん。ちゃーんと、お姉ちゃんがしたいって言ったキス、したよ?」

「……もー」

「えっへへー。たまには、ね?」

「…………もー」

「お姉ちゃん可愛い~! さすがワタシの大好きな人!」

「………………もー!」

「へ?」


 ぐるん。

 世界が一回転した。


 ぼふん。

 気付けばベッドの上にいた。


 ……あれ? リビングから部屋までどうやって移動したの?


「魔女っこ服をしわくちゃにしないように加減してたのに。もう、シアちゃんは……シアちゃんは……どれだけお姉ちゃんを誘惑すれば気が済むの!?」

「待ってお姉ちゃん。それより今何をどうして移動――」

「シアちゃんへの愛があれば瞬間移動くらい簡単だよ!」


 なにそれやばい。


「……って、待ってワタシ押し倒されてる!?」

「ふふ。もう手遅れだよ。散々お姉ちゃんを弄ぼうとしたんだから、今度はシアちゃんがお姉ちゃんに"いたずら"される番だよ……!」

「い、いたずら……!」


 ごくり……。

 っは、ワタシは何を期待しているんだ。ワタシがお姉ちゃんにいたずらする日なのに!?


「さ、シアン。だーい好きなお姉ちゃんが、た~~~~~~っぷり、"いぢめて"あげるからね?」

「え、あ、あ、あ……ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 やっぱりお姉ちゃんには敵わなかったよ。


 めっちゃ盛り上がりました。これ以上を日記に残すことは出来ません。


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