お姉ちゃんとの永遠の誓い。
グレーティアの中央、王家が管理している施設は大きく分けて二つあった。
一つは王宮。
王族の人たちが住んでいる場所であり、政などもここが中心で行われるらしい。
もう一つが、教会だ。
屋根に大きな十字架が立てられている、由緒正しい聖堂教会だ。
王族直轄区画にあるというだけあって、装飾も凄いしとにかく大きい。
そしてワタシは、なぜだかそこに押し込まれた。
お姉ちゃんと別の部屋に分けられ、通された部屋で何故か目隠しをさせられた。
その場にいたメイドさんたちに着替えさせられ、なにがなんだかわからないまま、ワタシは部屋で待ちぼうけをくらっている。
いったい、なにが起きるんだ。
お姉ちゃんと離ればなれになってしまったが、心が通じ合っている今なら、ワタシが祈ればお姉ちゃんは飛んでこれる。
ユアン王子の「プレゼントのためだ」という言葉を信じることにして、今は待つことにしよう。
……いや、離れたら離れたでやっぱり不安だ。
目隠しを外さないでと言われたのが余計に不安を増幅させる。
なにに着替えさせられたかもわからない。ふりっふりのふわっふわ、ということだけは手探りでわかるんだけど。
「シアン君、準備はいいようだね」
「えっと……は、はい」
びっくりした。
突然声が聞こえてきたかと思えば、ユアン王子だったようだ。
手を取って立ち上がり、ユアン王子に手を引かれて歩き出す。
「申し訳ないね、こんな風にして」
「いえ……お姉ちゃんが、王子は信用できる、って言ってましたから」
別れ際にお姉ちゃんが言ってくれた言葉があったから、ワタシはされるがままに着替えさせられた。
お姉ちゃんがそれほど信頼しているのなら、悪いことはないだろう。
それに――もしワタシになにかが起きれば、お姉ちゃんが黙っていない。
その安心感があるから、大丈夫。
「っはは。プリムには助けられてばっかりだね。立派な女性だよ」
「はい。自慢のお姉ちゃんです」
「そうだね。私もバルドがいなかったら、きっと見惚れていただろう」
「ちょっ」
「冗談だよ、っふふ」
ユアン王子の楽しそうな声は、姿が見えない事も相まってどこか子供らしさを感じてしまう。
お姉ちゃんと年齢は近いそうだけど、なんだろう。お姉ちゃんにどことなく雰囲気が似てるなぁ。
「さ、着いたよ」
「は、はい」
ギィ、と扉が開いた音が聞こえて、そのままワタシは連れて行かれる。
扉の先は、驚くほど静まり返っている。人の気配も全然ない――いや。
一人だけ……いる。
それも、すぐ近くに。
「シアちゃん」
お姉ちゃんだ。
お姉ちゃんの声が聞こえた。
それと同時に、ユアン王子がワタシの手を離して、その手をお姉ちゃんが握りしめた。
「えっと、お姉ちゃんは、目隠し、してるの?」
「してないよ~。だから、今のシアちゃんをじっくり独占しているよ~」
「え、なにそれ恥ずかしいんだけど!?」
ワタシは今の格好がどんなものかもわからないのに。
わかるのは、ユアン王子もお姉ちゃんも楽しそうなことだけだ。
お姉ちゃんなんか、楽しいだけじゃ済まなそうなくらい、そわそわしているようだ。
繋いだ手から、そんな気持ちが伝わってくる。
「じゃあプリム、私は先に戻っているよ」
「ありがとね~」
「ああ」
一つの足音が遠ざかっていく。声通りであるとすれば、ユアン王子が出て行ったのだろう。
残されたのは、ワタシとお姉ちゃんだけ。
二人っきりで、どこかにいる。
お姉ちゃんに手を引っ張って貰って、数メートルくらいゆっくり歩いて、止まる。
「はい、ご開帳~っ」
「わっ!?」
お姉ちゃんと向き合って、真っ正面から頭の後ろに手を回されて、目隠しが外された。
真っ先に目の前に飛び込んできたのは、真っ白な衣装のお姉ちゃん。
麗人が着るような、スーツ姿だ。胸元がちょっと苦しそうだけど……それでも、凄く凜々しい……!
白いスーツ、白いシャツ、そして、胸元には一輪の百合の花。
「お、お姉ちゃん、凄く綺麗……っ」
「ありがとっ。っふふ。でもね~? ほら、自分の姿を見てみて~」
そういってお姉ちゃんが背中から鏡を持ち出して、ワタシを映した。
鏡に映ったのは、いつもの青髪でツインテールなワタシ――ではなく。
「こ、これは……?」
青い髪を下ろした、ウエディングドレスの美少女――ワタシが、そこに映っていた。
お姉ちゃんと同じ、純白のドレスで。歩きづらさは感じていたけど、まさかドレスだなんて思ってもいなかったよ!?
「じゃじゃ~ん。ユアンがね、教会を貸し切らせてくれたの~」
「あ、本当だ……」
まだ思考が落ち着かないものの、周囲を見れば確かに教会だった。
並べられた椅子には、誰もいない。二人っきりの、教会だ。
今、ワタシたちは、神様に祈りを捧げる祭壇の前に立っている。
この衣装。そして、お姉ちゃんから感じる、熱の篭もった視線。
まるで、まるで――。
「シアちゃん」
すっ、とお姉ちゃんがワタシの左手を取って、銀色に光るなにかを、指にはめた。
なにか、ではない。そんなもの、一目瞭然だ。
それがなにかをハッキリ認識する前に、お姉ちゃんが口を開く。
「お姉ちゃんと、結婚しよ」
「――――うん」
混乱しているはずなんだけど、すぐに返事が出てきた。
だって。
だって……っ。
「ワタシは、お姉ちゃんが、大好きです。だから、だから……」
「うんっ。お姉ちゃんが、シアちゃんを幸せにするよっ!」
「~~~っ!」
ワタシが言おうとした言葉を、お姉ちゃんはすぐに拾って、繋げてくれる。
もう、堪らなくて。お姉ちゃんに飛びつく。
お姉ちゃんはしっかりと受け止めてくれる。
それがまた嬉しくて。堪らないほど、嬉しくて。
「お姉ちゃん……――」
「シアちゃん。――ん」
見つめ合って、どちらからともなく、キスをする。
何度もしてきたけど、いつも以上に、熱く、想いが繋がるキス。
唇と何度も重ね、ゆっくりと離す。
ああ、きっと今、ワタシはもの凄く顔が赤いのだろう。
でも、二人っきりなのもあって、全然恥ずかしくない。
むしろ、むしろ……もっと、お姉ちゃんに、熱くして貰いたいくらいだ。
「私、プリム・ソフィアは誓います。幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで。シアン・ソフィアを愛し、守り抜くことを誓います」
「ワタシも……ワタシも、誓います。お姉ちゃん……プリムさんを、愛し、支えることを、誓いますっ!」
ぐいっ、とお姉ちゃんに顎を持ち上げられ、もう一度キスを交わす。
誓いを交えて、ワタシたちの想いは一つになる。
心が満たされていく。暖かい、暖かすぎて、ぽかぽかして、胸の奥から、お姉ちゃんが好き、って感情が溢れていく!
「よ~し。めいいっぱいシアちゃんを愛しちゃうぞ~!」
「きゃっ」
お姉ちゃんがひょい、とワタシを横向きに抱き抱える――お姫様抱っこだ。
凜々しいお姉ちゃんは、かっこいい。
でも、……うん。
「ねえ、お姉ちゃん。お願い事一つ、いい?」
「一つじゃなくて何個でもいいよ~っ」
「うん。あのね……いつか、いつか……ワタシが、お姉ちゃんに、ウエディングドレス、着させてあげるっ」
ワタシはお姉ちゃんが大好きだ。かっこよくて、可愛いお姉ちゃんが大好きだ。
だから、今のかっこいいお姉ちゃんはワタシだけが独占する。
そしていつか、可愛いお姉ちゃんも独占するんだ。
「うんっ! 楽しみにしてるよ!」
ワタシのお願いに、お姉ちゃんはお日様のような笑顔を向けてくれた――。
本編はこれにて完結となります。
近いうちにたぶんテオについての後日談は書きますが、今回を持って完結とさせていただきます。
ご愛読ありがとうございました。




