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お姉ちゃん、村人奪還成功!




 テオフィラの案内のままたどり着いた場所には、ぷすぷすと煙を上げて倒れている阿修羅と、阿修羅が守るように洞窟が存在していた。


「あぁぁぁぁ僕の阿修羅ぁ~」


「ほら、いいから行くよ~」


「あしゅらー。あしゅらーっ」


 ……この人本当に長い年月を生きたダークエルフなのだろうか。

 その割には言葉の節々が若いというか、幼いというか。

 簀巻き状態で泣きついてるのは見てるこっちがなんだか悪いことをしてる気分だ。


 お姉ちゃんがテオフィラを引っ張って、洞窟へ進む。中は思ったよりも広く、すぐに鉄の檻が見えてきた。

 中には沢山の人が捕えられていた。

 間違いなく、ギレメ村の人々だろう。


「あ……あなたは?」


「こんにちは~。助けに来ました!」


 ぐい、とお姉ちゃんが無力化させたテオフィラを見せて安全性をアピールすると、一斉に村人さんたちが湧き上がった。

 すぐに鍵を壊すと、流れ込むように村人さんたちが逃げ出していく。

 次々にお礼を言う人を、お姉ちゃんは村へと誘導していく。

 山奥だけあって、何か魔物が出てくるかもしれない。あまり長居したくない、という判断だ。


「……で、テオ。あなたはどうして村人を捕まえてたの?」


 ほどなくして、村人さんたちが去って行った。道中の護衛をしなくちゃいけないんだけど、お姉ちゃんはその前に、と言わんばかりにテオフィラを問い詰めている。

 村人を捕まえた理由だ。嫌な予感が頭を過ぎる。

 テオフィラは魔物を掛け合わせてキメラを作っている。そんなテオフィラが、人間を集めている――だとすれば、答えは一つしかない。


「人間は阿修羅が勝手に集めたんだよぅー! 僕は『合成に使う動物をゆっくり集めておけ』って指示しか出してないんだよぅー!」


「阿修羅の独断、って言いたいの?」


「そうだよぅー! 僕は無実ぅー!」


「で、捕まえた人をどう使おうとしたの?」


「それは勿論キメラに――ッハ!?」


 あー……うん、同情の余地無し。

 お姉ちゃんはわかっていたとばかりにテオフィラを地面に転がせて、頭をぐりぐりと踏んでいる。


「あーあー痛い痛いぃー!」


「あの阿修羅、ってのも人を使ったの?」


「ちーがーうーよー。阿修羅はいろんな魔物を使って多腕の人間っぽく造っただけだよぅー」


「まあキメラ使ってる時点であなたは有罪なんだけどね!」


「プリムひーどーいー!」


 酷いのはどっちなのだろうか。

 少なくともテオフィラが全面的に悪い。ワタシたちだけじゃなく、村人さんまで巻き込んでいるのだから。


 ……テオフィラに吸血された場所を撫でる。


 痛みはない。でも、嫌な感じが残っている。


「シアちゃん、どうしたの?」


「え? さっきテオフィラに吸血された場所がむず痒くて……」


「吸血されたの!?」


「ご馳走でした!」


 お姉ちゃんが般若の表情を見せたのはわかりきっていたことだ。

 それはもう凄い光景だった。上下に振り回されるテオフィラは、ダメージはないが目を回している。


「ぐぬぬぬ……っ」


「お、お姉ちゃん? ワタシはほら、大丈夫だったから。さ、早く村人さんを守りに行こ?」


 テオフィラの吸血は確かに許さないけど、今はそれどころじゃない。

 村人さんの道中を守って、村まで送り届けないと。そこまでしなくちゃ、守ったことにならない。

 これで村人が道中で魔物に襲われたりしたら、助けた意味がないからね。

 だから、ワタシが吸血されたってことは二の次にして――。


「あむっ!」


「ひゃん!?」


「あむあむあむあむ……ちゅ~」


「ちょ、ちょっとおね、ひゃっ。そ、そこらめ……!」


 いきなりお姉ちゃんが正面から首筋に噛み付いてきた!?

 痛くは無い。甘噛みだ。痛くないけど、くすぐったい!

 しかも吸われてるよ!? テオフィラに吸われた所をピンポイントに!


「ちゅー、ちゅー、ちゅ~っ!」


「お、おねえちゃ、たんま。たんまー!」


「っは!? つい錯乱しちゃった……!」


 くすぐったくてもどかしくて、というかテオフィラが見てる! こっち凝視してるから! なんでそんな満足そうな笑顔してるあーこらお姉ちゃんすとーーーっぷ!


 正気を取り戻したお姉ちゃんが離れると、照れたように可愛らしく頬を掻く。

 かわいい……ってそうじゃなく!


「も、もうお姉ちゃん! いきなり何するの!」


「だ、だってシアちゃんが吸血されたってことはテオにキスされたってことでしょ? シアちゃんはお姉ちゃんのものなんだよ? 上書きしなくちゃダメでしょ?」


「う、それはそうなんだけど……」


 いや、まあワタシも、お姉ちゃんが上書きしてくれるなら嬉しいけど。

 そ、それでもやっぱり、両思いになったからといっても、誰かに見られてるのは、恥ずかしい。


「ふ、二人っきりの時に……もっとして、ほしい、な……?」


「……………………~~~~~~~っ!」


 あ、お姉ちゃんが顔を真っ赤にしてよろめいた。


「あーもうご馳走様だよお前たちぃー。さっさと村に行かないか? 僕もお腹が減ったよぅー」


 ……どの口が言うんだか。




   *




「ありがとう、ありがとうございます! ああ、なんとお礼を言っていいのやら……!」


 道中魔物に襲われることはなく、無事にギレメ村に戻ることが出来た。

 残されていた村人たちと再会した皆は、泣いたり抱き締め合ったりしている。

 生きて再会できて、本当によかった。


「そんな~。お礼なんていいですよ~」


 最初に出会ったおじいちゃんとお姉ちゃんはにこやかに会話をしている。

 テオフィラは軒先に吊されている。あそこまでされれば、流石に悪さも出来ないだろう。

 お姉ちゃんの提案で、目隠しもしている。

 テオフィラは魔眼も使えるから、念のため、ということだ。


「っふふ。エルフの血のおかげで日照耐性はあるものの、吊されて目隠しプレイだなんて僕もかなり特殊な性癖に付き合わされてるぜぇー。いいぜプリム、お前の性癖なんて全て受け止めてやるよぅー。止まるんじゃねえぞぉー……!」


 ……うん、全然懲りてないから放置しておこう。


「本当に、報酬はいいのですか?」


「ええ。大丈夫です」


「ですが……あなた様は村の救世主なのです。せめて、何かできませんか?」


 お姉ちゃんとおじいちゃんはずっと話をしていて、ワタシが入り込む暇がない。

 もうちょっとかかるだろうから、村の様子を眺めてるとしよう。


 助けに来た冒険者さんも、牢屋の中に閉じ込められていた。

 お姉ちゃんが傷を治して、その人はもう帰っている。けっこうな間牢屋にいたからか、お姉ちゃんの噂は聞いてなかったようだ。

 ほっ、と一安心だ。せっかく助けても、噂の悪影響で村の人たちに悪印象を持たれたら、この村に逃げてきた意味がない。


「シアちゃ~ん。せめてものお礼にって野菜とかお米とかたくさんくれるって~!」


「本当に? いいんですか?」


「ああ、倉庫から持ってこさせよう」


 お姉ちゃんはワタシが考え事をしている間に、しっかり目的の野菜などを交渉してくれていた。

 おじいちゃんもかなり気前がいい。あー、これで心配していた一つが潰れてくれた。

 出来れば、最低でも数日はこの村に滞在したいけど……あんまり長居しちゃ、村人さんにも迷惑かなぁ。


「プリムさん、これから村を挙げて宴を開こうと思うのじゃが……参加、してくれますかのう」


 と、ここでおじいちゃんからの提案。

 お姉ちゃんがちらり、とワタシを見てくる。

 ワタシは当然頷いた。噂が消えるまで時間稼ぎもしたいしね。


「それじゃあ、お言葉に甘えます」


 お姉ちゃんは、にっこりと微笑んだ。




「おーい僕もそろそろ下ろしていいんだよぅー?」


「声が聞こえなくなる魔法掛けておくから、好きに騒いでていいよ?」


「いえーいプリムの放置プレイがはっかどっるよぅー!」

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