お姉ちゃんはガーディアン。
『転生者の守護者』
ランク:EX
備考:
所有者が保有しているスキルを、契約者へ貸し出すスキル。
このスキルは所有者に死が迫った場合、自動で契約者を召喚する。
その際、限定的処置として付与したスキルを一定時間強化する。
EXスキルは『鑑定』スキルがSランク以上でなければ視認することが出来ない。
頭の中に突如として浮かんできたスキルは、ワタシの知らないものだった。
でも、胸の中にストン、とハマった。
間違いなくこれは、ワタシのスキル。
神様がくれた、『転生神からの贈り物』に並ぶ、チートスキル。
「お姉ちゃん、これって……」
「そうだよ。シアちゃんが生まれる日に、神様が私に教えてくれたの。シアちゃんを守るために、シアちゃんの力を借りてるの」
お姉ちゃんはテオフィラを睨め付けながら、スキルのことを説明してくれる。
ワタシが生まれた日、お姉ちゃんがまだ四歳だった頃――お姉ちゃんの夢に出てきた、神様の話を。
「そうなんだ」
転生すれば、当然、赤子だ。
スキルがあっても使えない、ましてや記憶を継承していなかったワタシでは、力をきちんと使いこなせるかもわからない。
力に溺れ、狂ってしまうかもしれなかった。前世を思い出して、何か大切な事が欠けてしまうかもしれなかった。
神様はその予防線として、お姉ちゃんを選んだ。
このスキルによって、ワタシに与えたスキルを、お姉ちゃんに貸し出した。
そしてお姉ちゃんは、この力で守ってくれた。
「おいおーい。二人の密談はあとにしてくれよぅー。というかプリムさぁー。どうやってこの空間に来た? 向こうには僕の影も置いてきたんだけどぅー」
「私はシアちゃんを守るためなら奇跡だって起こすんだからね!」
「……っはは。奇跡、ね。笑えないねぇ!」
問答はそれまでとばかりに、お姉ちゃんが地面を蹴った。
雷を纏っているお姉ちゃんは、いつも以上に速いどころか――ワタシの目では追えないくらい、速い。
「え、ちょ、ちょ、なんだよぅ!?」
聞こえてくる声だけでも状況がわかる。
以前は平然としていたテオフィラが、焦っている。お姉ちゃんが、テオフィラを追い込んでいる。
「雷神の加護:SSS……」
限定的に底上げされた四神スキルは、本来であればSランクが上限。お姉ちゃんですら、Sランクで止まっている。それが最高ランクである、はずだった。
『転生者の守護者』スキルによって強引に引き上げられた、本来存在しないスキルとなったその力は、当然の如く、圧倒的な力を見せている。
そのスキルの力は、単純明快。
「"SSSランクであるならば、雷の神と同義である。全てのステータスを上限値まで上昇させ、全ての攻撃に雷属性を付与する"……」
スキルを端的に言葉にしても、その凄まじさがよくわかる。
Sランクでも二段階上昇だったステータス補正が、限界値、つまり普通の人の限界にまで、達している。
お姉ちゃんの場合、他の四神スキルによってさらにステータスが上昇するから、実質的には――完全に人間を越えたステータス、まさに、神様の状態だ。
紫電を纏い、何よりも速いその動きは、雷神と言っても過言ではない。
「お姉ちゃん、頑張れーっ!」
「まっかせてー!」
今のお姉ちゃんは、超・絶好調だ。
「なんだよ、なんだよプリムゥ! お前の攻撃というか、僕は不死スキル持ちなんだ、ぞぅ!?」
「不死ってようするに怪我しなかったり死なない程度でしょ! なら、この雷で麻痺させるだけ!」
「ま、待て待て待て待て――!?」
お姉ちゃんは雷の剣を片手に持ち、もう片方の手でも攻撃を繰り出している、ようだ。
その攻撃全てに付与された雷の属性は、一撃毎にテオフィラの行動を鈍らせていく。
つまり、戦えば戦うほど、お姉ちゃんとテオフィラの間で速度が広がっていく。
そうなれば、一方的な戦いになる。
「っく、この、この、だったら阿修羅やキメラを――」
「遅いよっ!」
「んなぁ!?」
テオフィラが地面に手をかざすと、真っ黒な穴が出来上がる――けれど、出来上がった瞬間に、お姉ちゃんがその穴を破壊する。
あれはきっと、さっきワタシを閉じ込めた穴でもあり、テオフィラの口ぶりからすれば、キメラを呼び出す手段なのだろう。
「これで、終わりっ!」
「――っ」
すかさず距離を詰めたお姉ちゃんが、テオフィラの頭を掴んだ。
だらん、と力を失って崩れるテオフィラを、お姉ちゃんはすぐさま魔法で拘束する。
「……死んじゃった?」
「テオは死なないよ~。頭に思いっきり雷を流したから、一時的に気絶してるだけ」
あ、本当だ。お姉ちゃんがテオフィラを起こすと、白目を向いてピクピク痙攣してる。
「逃げられないように、ちょっと細工しておかないとね~」
そう言ってお姉ちゃんは、テオフィラの首根っこに手を当てた。
さらに何度か流れた電気に、さらにテオフィラが痙攣する。
「よし、首に数時間だけど封印式を書き込んだから、これで大丈夫!」
「つ、つまり?」
「テオフィラの賞金は私たちのものだよ!」
「お、おぉー!」
……いまいち実感が湧かないんだけど、勝った、んだよね。
お姉ちゃんの言葉通り、テオフィラをこのまま王都に連れて行けば、賞金が貰える。
その額は――三百万ゴールド!?
「お、お金持ちだよお姉ちゃん!?」
「これでシアちゃんを養えるよ!」
「やったーっ!」
「わ~いっ!」
丁度時間切れだったみたいで、お姉ちゃんの強化が解けた。そのまま抱き締め合って、頬ずりする。
これでしばらくはお姉ちゃんが稼ぎに行かなくてもいい。ということは、ずっとお姉ちゃんと家でいちゃいちゃできるってこと!
えへへ。えへへ……!
「さて、と。テオが呼び出した阿修羅ってのも全部倒してあるから、村の人を助けに行こっか」
「うん、そうだね」
そういえば、最初の目的はそうだった。いきなり分断されたり、お姉ちゃんの力の秘密が明らかになったりですっかり忘れてしまっていた。
でも、お姉ちゃんが言うにはもう脅威は全部排除しているようだ。
だから後は、この山のどこかに捕われているギレメ村の人を解放するだけ、ということだ。
「テオは……引きずっていけばいいよね」
「そ、そうだね」
魔法で拘束したままだと、魔力を余計に消費してしまう。
鞄から取り出したロープでテオフィラを簀巻きにして、お姉ちゃんが引っ張る。
ワタシはそんなお姉ちゃんの、空いてる方の腕に抱きつくことにした。
はぁー。密着してるとお姉ちゃんの匂いがして、大好きだなー。
「あはは。シアちゃんくすぐったいよ~」
「え~……だめ?」
「ダメじゃないよむしろもっとどんどん押しつけてきてはぁぁぁシアちゃん可愛いなぁ~っ!」
「えへへ~」
テオフィラっていう、一番警戒していた脅威が終わって、すっかり気が抜けてしまった。
お姉ちゃんに抱きついて、頬が緩んでしまう。もう際限がないくらいに緩んでしまう。
山の奥に向かって歩き出す。ごつんごつん、と何度かテオフィラが岩に頭をぶつけ、意識を取り戻した。
「おいちょっと痛い痛い痛い痛いよぅー魔法も使えないしおいおいプリム捕虜の扱いはもっと丁重にしてくれよぅー」
「テオ、いいから黙って捕まえた人たちのところに案内しなさい」
「…………どうしても?」
「ど・う・し・て・も」
「ぐぬぬぅー。……はぁ。逆らっても抜け出せるわけじゃないし、仕方ないか」
ぴょん、とテオフィラが器用に立ち上がった。……え、足首まで簀巻き状態なのに立ち上がれたの?
「ほら、ここを真っ直ぐだ。そうしたら、阿修羅がいるよ」
まだいるの!?
「ふっふっふ。これまでに出していた阿修羅はただの雑魚よ。知能も持たない最弱さ。僕の最高傑作であるグレート阿修羅アルティメットスカイこそ、プリムにぶつけるべく強化と実験を重ねた最強の――」
「テオと戦ってる間に雷落としておいたからもう気配しないからね?」
「なんだよそれぇ!?」
……どうやらあの状態のお姉ちゃんはチートを越えるチート状態だったようだ。
どこかの戦闘民族が金髪から赤髪になって青髪になった状態のような。
「ううう、僕のグレート阿修羅アルティメットスカイぃー」
泣きながらうな垂れるテオは、ぴょんぴょんと跳ねながらワタシたちの前を進んでいく。
いやだからどうやって動けるの!?




