お姉ちゃんは手加減が出来ない。
「それじゃあ、王都に向けてー!」
「しゅっぱーつ」
ワタシは初めて生まれ育った街を旅立つ。
お父さんやお母さん、そしてお姉ちゃんと過ごした街。
お別れではないし、魔法学院に通ってた頃も離れてたけど、旅立つ、という意味では初めてだ。
ワタシは初めて、自分の意思でこの街から旅立った。
……それがお姉ちゃんの結婚を妨害するって目的じゃなければ、もうちょっと胸を張れたかもしれないけど。
「胸か……」
拘ってるわけじゃないしコンプレックスってわけでもない。
でも女の子としてもうちょっとスタイルが豊かだったらなぁ……!
って、違う違う。『俺』としての意識もあるから、スタイルを意識してどうするんだよ。
うーん。でもなー。
十六年も女の子として生きてきたから、今更男の頃の記憶を思い出してもなぁ。
違和感はあるけど、そのうち慣れるでしょ。
「シアちゃん、どうかした?」
「なんでもないよ」
いけないいけない、お姉ちゃんに心配かけちゃダメだよね。
「はい、シアちゃん」
「……?」
「はい、シアちゃん」
にこにこしながらお姉ちゃんが手を出してきた。
お姉ちゃんが何を求めているのかはよーくわかる。
手を繋ぎたいのだ。というかワタシも繋ぎたい。
「え、えー……」
なんだろう。街の中なら全然気にしなかったのに。
なんだかすっごく、恥ずかしい!
街なら顔見知りの人が大半だったからいつもの光景って感じだったけど。
外だと、そうじゃないんだ。
街道を進む人はけっこういる。そんな人たちに見られてると思うと。
~~~っ。
「ぎゅー」
「あぅ」
戸惑っている内にお姉ちゃんに手を掴まれた。
お姉ちゃんは本当に嬉しそうにニコニコしている。
ここでワタシが恥ずかしがって手を離したら、お姉ちゃんは寂しがる。
「……もー。お姉ちゃんは甘えん坊だなー」
ワタシも恥ずかしいけど、精一杯強がろう。
えへへ、とはにかむお姉ちゃんは本当に可愛い。
どうですかこのお姉ちゃん! ワタシのお姉ちゃんなんですよ!?
本当は腕に抱きつきたいしがみつきたいんだけど、さすがに恥ずかしすぎるからあうと。
「ふふっ。シアちゃんとお出かけ嬉しいな~」
「お出かけって……」
「お出掛けなの。うん、そう考えると婚約申し込まれたのも悪くないねっ」
……それはワタシにとっては悪いことなんだけどなぁ。
確かにちょっと家かな出なかったけど。
ううん、それでお姉ちゃんを心配させたのは事実なんだ。
「ほらシアちゃん。ゴブリンが出てきたよー」
考え込んでいるのを邪魔するように、ゴブリンたちが草むらから飛び出してきた。
小鬼、と言われるゴブリンはその名の通り小さな鬼だ。一本角をはやしたちょっと賢い魔物。
スライムの次に弱い魔物ってお姉ちゃんから話は聞いてるけど。
「グヤッグヤッグヤッ」
ゴブリン語なのだろうか、ゴブリンたちはワタシたちを見て話し合っている。
「えいっ」
「あっ」
「グエーーーーッ!?」
ゴブリンたちの話し合いを無視してお姉ちゃんが指先から雷を放って一気に蹴散らした。
今のは「サンダー」っていう雷属性の一番簡単な魔法だ。
消費する魔力も少ないし、使い勝手はいいんだけど威力が低い魔法だ。
「全滅してるね」
「えっ。弱らせてシアちゃんにトドメさして貰おうと思ったのに!?」
ゴブリンたちはプスプスと煙を吐きながら沈黙してしまった。
うーん、見事に焼け焦げている。
ただの初級魔法でも、お姉ちゃんが使えば一気にAランク以上の魔法になる。
それはお姉ちゃんが持っているスキル、『転生神からの贈り物:S』の恩恵だ。
一度のアクションが三回攻撃だし、全体攻撃だし。
威力の低い魔法も、全体に、しかも三回も同時にヒットすれば威力は桁違いになる。
さらにお姉ちゃんには『雷神の加護:S』まで持っている。
威力が一段階上昇する。
そればかりかお姉ちゃんはそのスキルもSランクだ。
Sランクとなれば、威力の上昇は二段階になる。
ただのゴブリンが耐えられるわけがない。
「お姉ちゃんは手加減が下手なんだから、弱らせるとかは向いてないよ?」
「そ、そんなことないよ! お姉ちゃんは凄いんだから余裕だよ?」
取り繕ってるお姉ちゃんだけど、きっとこれまでにも同じ失敗を繰り返してきたのだろう。
今回はワタシが同行していてつい、やってしまったのだろう。
「うんそうだね。ワタシのお姉ちゃんがそんなミスするわけないもんね」
「そうだよ! お姉ちゃんは凄いんだから!」
「じゃあお姉ちゃん、倒したゴブリンの角を回収しちゃおうか」
「うん!」
からかえばお姉ちゃんの可愛い反応が見られるんだけど、そうするとたまに拗ねちゃう。
だから咄嗟に予定を変更して、お姉ちゃんをおだてる作戦にシフトする。
予想通り、お姉ちゃんはワタシの言葉に乗せられる。
ゴブリンを退治した証拠として、角を切り落とす。
ゴブリンには一本しか角が生えてないから、この角の数がそのままゴブリンを狩った数になる。
「ふぅ。全部回収できたね」
「それじゃあシアちゃん、お姉ちゃんの鞄に入れてね」
「はーい」
お姉ちゃんが腰に付けている小さな鞄を借りて、ゴブリンの角を放り込んでいく。
「便利だよね、その魔法」
「えっへん。冒険者には必要な魔法なんだよっ」
自信満々に胸を張るお姉ちゃんだけど、おっぱいが揺れたことをワタシは指摘しない。
眼福眼福……ふぅ。
相変わらず凄いボリュームだ。ぽよよんでふよよんでむにむにだ。
揉みた……っは!?
ぶんぶん、と首を振って思考を振り払う。
……ふー。落ち着こう。
「マジックボックス、か。羨ましいなー」
マジックボックスという魔法は、ありとあらゆるものを収納できる魔法だ。
お姉ちゃんは鞄にその魔法を施している。そうすれば身軽に動けるから、と教えられた。
いろんな魔物の素材を回収するのが楽になる。
初めて使ったけど、本当に便利だなー。
「ちなみにお姉ちゃんはマジックボックスの熟練度もSランクだから、収納できるものに限界はありません」
「おー!」
「だからその気になったらシアちゃんを仕舞って運ぶことも出来ちゃうよ!」
「え、なにそれこわい」
「……っふふ。可愛いシアちゃんをずっと養っていけるんだよ……」
「こわいよ。こわいから!」
流石に冗談だろうけど、お姉ちゃんが舌なめずりしながら言うと妙に迫力がある。
お姉ちゃんとずっと一緒にいられるならそれも悪くない、と思っちゃうけど。
そんなことされたらお姉ちゃんの結婚を妨害できない!
「冗談だよー。じょーだん」
「っほ……」
はにかむお姉ちゃんにはいつもいろんな意味でドキドキさせられる。
びく、とお姉ちゃんが突然身体を震わせた。
キョロキョロと辺りを見渡すと、瞬きをするように瞼を閉じて、すぐに開く。
「シアちゃん、こっち!」
「え? ちょ、置いてっていいのにぃ~~~~!?」
ガシ、とこれまでにない勢いで手を掴まれたと思ったら、お姉ちゃんが走り出した!
なにかが聞こえたらしいんだけど、ちょ、ちょっと待って腕が痛いよーーー!?