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お姉ちゃんは協力する。




 アルンフィードの洞窟で、何かしらの異常が起きている――。

 鋭くそれを察したお姉ちゃんは、ルイスさんとの勝負よりも冒険者としての務めを優先した。

 負けない前提で魔石も集めてあるから、あとはルイスさんサイドの数次第だけど、お姉ちゃんはもう勝敗を気にしていない。


「……シアちゃん、この奥だね」


「う、うん」


 お姉ちゃんがぴたりと足を止めると、洞窟の奥で何かがもぞ、と身体を動かしたことに気が付いた。

 暗くて奥にいる何かを視認することは出来ないけど、確実に、これまでとは違う何かがいる。

 そして、向こうもお姉ちゃんに気付いた。

 鬼が出るか邪が出るか……まあ、どんなのが来てもお姉ちゃんなら攻略できるだろうけど。


「フラッシュ」


 お姉ちゃんがそう呟くと、ワタシたちの背後に小さな火球が出現した。

 ワタシの手帳でも使える、火と雷の魔法を合わせて発動する、照明用の魔法だ。

 ワタシのは、お姉ちゃんの魔法を参考にして術式を組んでいる。

 火属性の適正を持っていないワタシでも、フラッシュ程度の魔法なら術式次第で使うことが出来る。

 まあその分威力も範囲も小さいんだけどね。

 だから、お姉ちゃんが使うフラッシュとは別物だ。


「グルル……ッ!」


 フラッシュによって姿を露わにした存在は、とても既視感のある魔物だった。

 普段よりもかなり巨大なゴブリンだった。

 でも、その身体はとてもじゃないが筋肉質なゴブリンの身体ではなかった。

 どちらかというと、スライムのような、半固形。

 ゴブリンとスライムが混ざったようなその魔物は、とてもじゃないが普通に存在する魔物には見えなかった。


「キメラ、なの?」


「多分そうだよね~。この洞窟でこんな魔物の出現なんて聞いたことも見たこともないしね~。まーたテオの嫌がらせ? あの子は暇なの?」


 お姉ちゃんが悪態を吐くが、声は帰ってこない。それどころか聞こえてくるのはやっぱりキメラの声だけだった。

 つまり、この場にいるのはお姉ちゃんとワタシとゴブリンっぽいスライムだけ。

 ゴブリムって呼べばいいのかな。うん、それでいいや。


「まあ、さくっと倒しちゃおうか~」


「そうだね」


 以前のレッドドラゴン+オーガ+ベノムスネークよりは下位の魔物の合成体だ。

 ゴブリンとスライムは、成り立ての冒険者が相手にするような魔物。

 だからその二体を合わせた程度なら、お姉ちゃんにとって脅威でもなんでもないだろう。


 と、ワタシは思い込んでいた。


「ファイヤー・アロー!」


 狭い空間を考慮して、お姉ちゃんが炎の矢をゴブリムに命中させる。

 そのままお腹を貫いた。


「あっ」


 ゴブリムは確かにお腹を貫かれた。でも、その傷は見る見る内に塞がっていく。

 あ、そうか……スライムが混ざっているから、コアを壊さないといけないんだ。


「グルアーーーーーーッ!」


 ゴブリムが吠えると、洞窟の奥からわらわらとゴブリンたちが一斉に集まってきた。

 ゴブリムが、ゴブリンたちを呼んでいる……まさか、操ってるとでも言うのか。

 有り得ない話ではない。目の前にいるのはあのテオフィラが造った人造魔物。なにかしらの特性を持っていても、不思議ではない。


「ゴブ!」

「ゴブ!」

「ゴブ!」

「ゴブ!」


 大量に現れたゴブリンたちは、ゴブリムの号令に合わせて一斉に襲いかかってくる。


「サンダーケージ!」


 咄嗟にお姉ちゃんが雷の魔法でガードする。雷の檻がワタシたちを包み込み、ゴブリンたちを寄せ付けない。


「ゴ、ゴブブ!」

「ゴブー!」

「ゴーブゴーブ!」


「グォォォブ!」


 ゴブリンたちは一瞬怯んだけれど、ゴブリムの咆哮を受けて再び突進してくる。


 ――お姉ちゃん一人なら、切り抜けられるよね?


「え……?」


 頭の中に響いてきた声に、思わず振り向いてしまう。

 でも、そこには誰もいない。

 帽子を深く被って、浮かんだ言葉を振り払う。


 ――ワタシは足手纏いだから。


 うるさい。


 ――ワタシはお荷物だから。


 うるさい。


 ――ワタシは落ちこぼれだから。


 うるさい。


 ――何でワタシは力がないんだろう。


 うるさい……っ!


「シアちゃん、大丈夫?」


「だ、大丈夫……」


 顔を覗き込んできたお姉ちゃんを心配させないように、慌てて取り繕う。

 聞こえてきた変な声は、ひとまず全部無視する。

 確かに考えたことはある。でも、それらは全部ワタシの中で精算した答えなんだ。

 今更、今更考える必要なんてないんだ。


「さ~て、どうしよっかな~」


 ワタシの無事を確認するとお姉ちゃんは現状の打開策を考え始めた。


「全部纏めて倒しちゃう、とかは」


 ゴブリムはスライム同様コアを壊さなければならない。

 だがそのコアの位置は不明。あれだけの巨体だと、コアの位置すら把握するのが難しい。

 なら、コアを貫くのではなく、ゴブリムの全体ごと吹き飛ばしてしまうのは。


「う~ん。それでもいいんだけど……」


 珍しく、お姉ちゃんにしては歯切れが悪い。

 何か悪手なのだろうか。


「それをやるには、ちょっと狭いんだよね~」


「……あ」


 アルンフィードの洞窟は、狭くはないが、広すぎるわけでもない。

 光りゴケが生えてる訳でもないし、背の高い人がジャンプすれば天井に手が届いてしまいそうなほどだ。

 そんな場所でゴブリムを消滅させれるほどの魔法を使えば、まずダンジョン自体が持たない。

 咄嗟の判断でダンジョンを破壊してしまうと、魔物の生態系が崩れてしまう。

 それだけは、冒険者としてしてはならないことだ。

 だからダンジョンには適正ランクがあるし、クエストに挑む冒険者にはダンジョンを守る義務もある。

 何事やり過ぎはダメなんだ。


 なら、どうすればいいのだろうか。


「あ、プリム・ソフィア!」


「あ~。二人もこっち来たんだね~」


 お姉ちゃんが考えていると、レアルとルイスさんがやってきた。どうやらどこかで合流する道があったようで、二人ともワタシたちが来た方から駆け寄ってきた。

 お姉ちゃんがすぐにサンダーケージの魔法を広げ、二人を包み込む。


「なんだこのゴブリンの数は! ってうわなんだあの奥にいるゴブリンみたいなスライムみたいなのは!」


「うわぶるんぶるんしてなんか気持ちわりー。大丈夫かシアン。変なことされてないか?」


「う、うん。大丈夫だよ」


 レアルはお姉ちゃんくらいワタシを気に掛けてくれる。優しいんだけど、ワタシにはお姉ちゃんがいるから大丈夫だよ……?


「なあレアル、あれも『キメラ』なのか?」


「あ、ああ。多分そうだと……思う」


「そうだね~。スライムみたいにコア破壊しないと再生するし、おまけにゴブリンたちを操れるみたいだよ~」


「まじかよやべえな。そんなの放置してたらここに来る冒険者が危ないな」


「そうだね~」


「なら、やることは一つだな」


 お姉ちゃんとルイスさんが、向かい合って拳をぶつけ合う。

 ろくに話し合うこともせず、二人はお互いのやるべきことを理解したのだろう。

 ……これが、Sランク冒険者。


「レアルー。お前はシアンちゃんを守ってろよ」


「わ、わかった。でも、何をするんだ?」


「ん? 狭くて戦いづらいんだったら広くすれば良いだけだろ?」


「は?」


 レアルの戸惑いの声も聞き流して、ルイスさんが剣を引き抜いた。

 青い宝石が輝く片手剣を、ルイスさんは何の気なしに地面に突き立てる。


「大地よ応えろ。大地よ従え――グランドアース!」


「それじゃレアルちゃん、一緒にやっちゃおうね~」


「え、は、はい!」


 突き立てた剣を、鍵を回すように捻った。その瞬間地面が揺れていく。


「か、壁がっ。壁が動いてる!?」


「壁だけじゃないさ。地面も天井もだよ!」


 ルイスさんの言葉で天井を見上げると、地鳴りが聞こえながら天井が遠く離れていく。


「俺はレアスキル:豊穣神の観測の適合者! 大地は俺の、独壇場だ!」


 言葉通り、天井も床も、壁すらも押し広げられていく。洞窟自体が変化していく。

 た、確かに壊してないけど……これってありなの!?

 ダンジョン自体を作り替えたりして、ギルドに怒られないの!?


「ウルスラちゃんは優しいから報告して直しておけばセーフセーフ! さ、お膳立ては整えたぞプリム・ソフィア!」


「まっかせて~!」


 意気揚々とお姉ちゃんがサンダーケージを解除する。

 一斉に襲いかかるゴブリンたち。いつの間にか四方の全てから、ゴブリンたちが迫ってくる。


「サンダー・バーストっ!!!」


「「「ゴブー!?」」」


「ゴアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」


 お姉ちゃんが放ったサンダー・バーストが、ゴブリンたちを飲み込んだ。

 そして、ゴブリムをも飲み込んで、一撃で、倒した。


「ぶいっ」


 眩しい笑顔を浮かべながら、お姉ちゃんは勝利のVサインを見せてきた。

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