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旅立ちの前に。




「ん、ふわ………………って!」


 小鳥のさえずりで目が覚めるなんて、ワタシは本当に異世界に来たんだなーって実感する。

 実感したのはいいんだけど、お、お姉ちゃんが隣で寝てるー!


「いや、一緒に寝たんだ。寝たんだけど」


 ワタシはすっかりお姉ちゃんの抱き枕にされてしまった。

 両手足でしっかり抱き締められてすぐに寝付いたお姉ちゃん。

 一方ワタシは、密着した影響でよりお姉ちゃんの匂いと柔らかさを感じてしまい、くらくらしてとてもじゃないが寝付けなかった。

 いつの間にか気絶するように眠っていたようだけど、どれくらい眠れたんだろう。

 あー、身体だるい。


 ひとまず身体を起こして、お姉ちゃんを起こして、朝ご飯の準備を進めたいんだけど。


 ……でも、動けない。

 ワタシはまだがっしりお姉ちゃんに捕まっていた。

 ワタシの薄っぺらい胸板に頬ずりするように抱きついている。


 すやすやと幸せそうな寝顔を眺められるのは非常に最高に役得なんだけども。

 その、近すぎて。

 いや幸せなんだけど。幸せすぎる。お姉ちゃん可愛い。お姉ちゃんまじジャスティス。

 さすがに意識してしまう。どくんどくんと心臓が早鐘を打つ。


「……お姉ちゃんっ。起きて、朝だよ!」


「……う~ん。あとご、ご……」


「五分? 五分くらいならまだ――」


「五時間……」


「寝過ぎーーーーー! 今日出発するんでしょ!?」


 寝惚けているお姉ちゃんは抱き締める力を強くしてくる。

 あ、ちょ、ちょっとむにゅって凄い弾力が! のー! のーたっち!


「……えへへー。シアちゃんだ~」


「お、お姉ちゃん待って待ってそんな抱き締めないでー!?」


 そしてワタシはさらにお姉ちゃんに捕まってしまう。

 抜け出そうとしてもお姉ちゃんの力には敵わない。

 すっぽりと、お姉ちゃんの胸元に頭まで引きずり込まれてしまう。


 あーもう。あーもう!


「……ぎゅー」


 でもこんなチャンスは中々ないからワタシからもしっかり抱き締めておこう。


 くんくん。むにむに。

 あーお姉ちゃんの匂い大好き。柔らかい身体も大好き。というか全部好き。

 ……なんだかワタシも眠くなってきてしまった。

 もーいいか。お姉ちゃんの結婚さえ邪魔できれば、ワタシは満足なのだ。

 おやすみー……。


 ぐぅ。すやすや。




   *




「ふえぇ~~~~。寝坊しちゃったよシアちゃん~~~~!」


「……うん。まあワタシも悪かったけど自業自得だよね」


 お姉ちゃんが目覚めた時にはもうお日様が頂点にいた。


 ちなみに、ワタシなんかあれから三回くらい目を覚ました。

 その都度お姉ちゃんにホールドされて、いくらもがいても脱出できなかった。

 だから諦めて眠り直した。

 その間お姉ちゃんは、一度も目覚めることがなかった。


「まあ寝坊と言っても別に時間に指定があるわけじゃないんだよね?」


「うん。そうだけど……」


 お姉ちゃんはどこか歯切れが悪い。何かを隠しているような。


「お姉ちゃん、どうかしたの?」


「……えっと、ね。シアちゃんとお出かけ出来るんだから、早い内から出発すれば長い間お喋り出来るでしょ? 夜寝る時もお喋り出来るし。たーくさん、話したいことあったんだよね」


 ……ああもう、本当に。

 お姉ちゃんが可愛すぎる。そしてこんなにもワタシを大事にしてくれて、嬉しい。


「そっか。お姉ちゃんはかわいいね」


「~~~っ。もう、お姉ちゃんをからかうんじゃありませんっ」


「はーい」


 顔を真っ赤にするお姉ちゃんはそれだけで可愛い。うん。それしか言えてない。

 でも仕方ないんだ。お姉ちゃんが可愛いのはもうこの世界の法則だ。

 お姉ちゃん=可愛いんだ。

 プリム・ソフィアは可愛い。

 略してぷりかわだ。


「シアちゃん、準備は終わった?」


「うん。大丈夫だよ」


 シャツのボタンをして、ネクタイを結ぶ。

 短いスカートはいつまで経っても慣れない……というか、男であったことを思い出してなんか気恥ずかしい。

 大きめのマントのように黒いローブを羽織って、黒い魔女帽子を被る。

 ……うん、よし。


 小さく一回転すると、ローブとスカートがふわり、と舞う。

 ちょっと恥ずかしいけど、これがワタシの正装だ。

 魔法学院、魔法科の制服。


「うんうん。やっぱりシアちゃんの魔法服は可愛いねっ!」


「そんなことないよ」


「い~えっ! シアちゃんは可愛いの! これは世界共通なんだから!」


 じゃあ「しあかわ」とか言うのかな。

 お姉ちゃんが思いつかないことを祈りつつ、ワタシから告げるようなことはしない。

 恥ずかしいだけだしね。


「じゃ、行こっか!」


「うんっ!」


 お姉ちゃんが扉を開けたまま、もう片方の手を伸ばしてきた。

 ワタシはその手に自分の手を重ねて、しっかりと掴む。

 すべすべつやつやのお姉ちゃんの手は、いつ握っても気持ちが良い。


「最初に冒険者ギルドに行くんだよね?」


「うん。王都までは遠いから、日銭も稼いでおかないとねー」


 ここから王都までの道程はおおよそ三十日。姉妹二人で旅するにしてはけっこうな距離だし時間もかかる。

 だからお姉ちゃんは、その道中で路銀を稼ぐつもりだ。


「あらプリムさん、こんにちは」


「こんにちは~」


「……こんにちは」


 何の変哲もない酒場の一角が、この街の冒険者ギルド。

 魔王も勇者もいない世界だけど、魔物だけはしっかりいるからねー。

 開拓や暮らしを妨害する魔物は、ギルドを通して冒険者へ依頼される。


「あら? プリムさん、その子」


「びくっ」


 受付のお姉さんがワタシを見つけた。

 咄嗟にワタシはお姉ちゃんの背中に隠れる。

 知らない人にはあまり関わりたくないのに。


「はい、自慢の妹のシアンです!」


「お姉ちゃん!?」


 ぐい、とお姉ちゃんに正面に引きずり出された。

 受付のお姉さんは微笑ましい目でワタシを見てくる。

 お姉さんのクセなんだろうけど、観察されてるようですっごく落ち着かない……!


「へー、いっつもプリムさんが喋ってた子よね?」


「こ、こんにちは」


 い、いつも話題にされてるんだ。

 嬉しいような恥ずかしいような……じゃなくて!


「貴女も冒険者になるの?」


「い、いえ。ワタシは、ならないです」


 ワタシは、誰よりも自分の実力を把握している。

 一般人の域を出れないワタシには、冒険者は向いてない。

 お姉ちゃんを独占するためにも、今回は特別なんだ。


「お、お姉ちゃんほら! 早くクエストもらってきなよ!」


「あんっ。もー、シアちゃんはせっかちだなー」


 さっきまで寝坊した~~って後悔してたのはお姉ちゃんでしょ!


「うーん。ゴブリンとかスライム退治ばっかだねぇ」


 壁に備え付けられた板には、様々なクエストが貼られている。

 冒険者はこの中から好きなものを剥がし、受付で受注する。

 そうしてクエストをこなし、冒険者ギルドから報酬を受け取る。


 『俺』が知ってる冒険者ギルドと同じだ。

 よく読んでたラノベも冒険者ギルドが登場していた。

 だからか、初めてここを訪れたけど仕組みはなんとなくわかる。


 お姉ちゃんは十件ほどクエストを受注してきた。

 そのどれもが王都へ繋がる街道でこなせる簡単なクエストだ。

 ゴブリンやスライムなどの魔物退治。

 たくさん倒せばそれだけ報酬も貰えるわかりやすいクエストだ。


「シアちゃんもいるし、数をこなして地道に稼いでいこうって思うんだー」


「ワタシがいるから?」


「うんっ。今回はシアちゃんにも手伝って貰うしね!」


「……うん?」


 何を言ってるのかなこのお姉ちゃんは。

 ワタシは魔法を学んでいるとはいえ一般人の域を出ない。というかステータスがそれを物語っている。

 ワタシはお姉ちゃんの無双が見たいだけでワタシは戦いたくないんだよ!?


「だいじょーぶ! シアちゃんが怪我するようなことだけはお姉ちゃんがぜーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーったいさせないから!」

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