お姉ちゃんと魔石集め。
「よし、こっから二手に分かれようじゃないか」
なぜだか発生してしまったお姉ちゃんとルイスさんの勝負は、サンダルフォンから近いダンジョン『アルンフィードの洞窟』で行われることになった。
立会人はワタシとレアル。
ルイスさんの経過を観察するために、レアルは渋々ルイスさんに同行する。
「ったく、なんでオレが兄貴のほうに。シアンのほうにいたかったのに……」
ぶつぶつと文句を言いながらも、レアルはしっかりルイスさんの隣にいる。
なんだかんだ仲がいいんだろうなー。
お姉ちゃんとワタシと、レアルとルイスさん。四人でアルンフィードの洞窟を進み、道が分かれたところで勝負を開始することとなった。
「制限時間はどうするの~?」
お姉ちゃんのふとした疑問に、ルイスさんが不敵に笑った。
鞄から取り出したのは、時計だ。手の平に乗せれるサイズの時計は、とてもワタシの記憶にある『目覚まし時計』そのものだった。
えっ、あるんだ。
「こいつは指定した時間になると騒ぎ出す時計でな。サンダルフォンの新商品なんだよ。目覚ましにも使える優れ物だ」
ルイスさんは目覚まし時計をセットして、地面に置く。
これから洞窟の奥に潜るのに地面に置くってことは、大分騒がしく鳴るのかな。
でないと用意した意味がないし。
「便利なものがあるんだね~。さすがサンダルフォンの魔道具だね~」
お姉ちゃんはそんなのお構いなしとばかりにのほほんとしている。
さっきまで違ってすっかりマイペースだ。あまりにのほほんとしているお姉ちゃんに、ルイスさんも毒気を抜かれている。
「集める種類は、魔石にカテゴライズされるのならなんでもいい」
「おっけ~」
「シアン。気を付けろよ。なにか危ない目に遭ったらすぐにオレを呼べ。兄貴なんて置いて助けに行くからな!」
「あはは。レアルは心配性だよ。お姉ちゃんがいるから大丈夫だよ」
「……オレがそうしたいんだよ」
「あっれー。レアルー。お兄ちゃんの扱いちょっと雑じゃないかー?」
「うっせ。兄貴はちょっと黙ってろ」
「反抗期……うぅぅ」
打ちひしがれているルイスさんを見て苦笑しながら、分かれ道の片方にお姉ちゃんと二人で並ぶ。
なんとか正気に戻ったルイスさんとレアルはもう片方の入り口に立った。
分かれ道を前にして、お姉ちゃんとルイスさんが顔を見合わせて笑い合う。
SSSランクのお姉ちゃんと、Sランクのルイスさん。
真っ正面から戦えば勝敗は決まっているけれど、戦闘ではなく採取であれば、ルイスさんにも勝ちの目はあるだろう。
それに向こうにとっては地の利がある。むしろルイスさんのほうが有利なのかもしれない。
まあ、ワタシはお姉ちゃんの勝利を信じて付いていくだけだけど。
*
アルンフィードの洞窟は、魔石が豊富に採取できる場所……らしい。
その証拠に、洞窟を歩いているだけでもそこら中から魔力を感じる。
ワタシでも感じ取れるんだから、かなり質の良い魔石なのだろう。
「あ、まただね~」
バシュ、とお姉ちゃんが雷の魔法を放つと、遠くで「グェッ」と悲鳴が聞こえた。
この洞窟で暮らしているゴブリンたちの鳴き声だ。
アルンフィードの洞窟はどうにも魔物が大量に棲息しているようで、だから採掘ギルドではなく冒険者ギルドに採掘の依頼が回されている。
「まったくもう。数だけは多いんだから」
とはいえゴブリン程度じゃお姉ちゃんに傷を与えるどころか近づくことすら出来やしない。
が、それでも数はかなりいる。全体攻撃で三回攻撃の明らかにオーバーキルなお姉ちゃんでも、数が増えすぎれば自然と攻撃一辺倒になってしまう。
だから、ワタシが採掘するしかない。
「お姉ちゃーん。どこにあるか教えてくれるー?」
ちょっと離れた所にいるお姉ちゃんに声を掛けると、お姉ちゃんは嬉しそうに頷いた。
「探索! えーと、検索対象は『魔力鉱石』っと」
お姉ちゃんがサーチの魔法を使うと、途端に洞窟の至る所に赤い点がいくつも現れた。
サーチで指定した対象を可視化した、お姉ちゃんの特別な魔法だ。
これならワタシでも採掘が出来る。
とはいえ非力な身だから、固すぎるものとか地中に潜っている魔石はあんまり採掘できないけど。
「よろしくね~」
お姉ちゃんは両手から雷と火の魔法を次々と洞窟の奥へと向けて放っている。
聞こえてくるゴブリンの鳴き声をBGMに、ピッケルとスコップを駆使して魔石を集める。
お姉ちゃんから預かった鞄にどんどん放り込んでいく。びっくりするほど簡単に量を稼げる。
「たくさん集められるけど、その分稼ぎも薄いクエストだからね~。その日暮らしの冒険者さんはあんまりやらないみたいだね~」
「そうなんだ」
これだけ集まるのだから、さぞかし儲けも期待できると思ったんだけど、どうやら現実はそんなに甘くないらしい。
まあそこは依頼人の事情もあるのだろう。そもそも仕入れ値をある程度抑えないと値段は維持できないし。そこら辺は、前世の知識である程度は理解できる。
「しっかし、魔石も色々あるよね」
「そうだね~。四属性だけでも八つくらいは魔石があるし、そこにレアな魔石も絡めたらもっと増えるからね~」
ワタシはそこまで魔石の種類に詳しくない。そういうのは魔法学院の魔道具研究科が得意とする分野だ。
変人の集まりとも噂されてる研究科。関わっちゃいけないって言われるくらいだったしなぁ。
とりあえず手当たり次第に見つけた魔石を掘っていく。
かつかつこつんこつん。なんだか楽しくなってきたぞ。
「ふんふんふふーん」
鼻歌交じりに作業を続けて行く。
掘れば掘るだけ魔石が取れていくから簡単なものである。
色彩豊かな魔石は眺めるだけでも綺麗で楽しい。
「シアちゃん、楽しいの?」
「こういう黙々と出来る作業って楽しいよねー」
「っふふ。シアちゃんかーわいいー」
「っ!?」
いきなり何を言い出すのか。お姉ちゃんは相変わらず魔物を追い払っているからこちらを向いてるだけだけど。
「うんうん。シアちゃんが楽しんでくれてるなら、この勝負引き受けてよかったなー」
「も、もう何恥ずかしいこと言ってるの……」
「だって今は二人っきりだしね~。シアちゃんも二人っきりだといつも甘えてくれるし~」
うっ。
どうやらワタシが二人っきりならお姉ちゃんに甘えるということは、すっかりバレているようだ。
「……だって、恥ずかしいだもん」
「~~~~~~~~~ああもうシアちゃん可愛いよ~~~~っ!」
「わぁっ!?」
我慢の限界が訪れたのか、お姉ちゃんがいきなり抱き締めてきた。
「ちょ、お姉ちゃん。ほら、魔物来ちゃうから! 抱き締めてないで早く追い払ってよ!」
抱き締められて嬉しいし、なんなら抱き締めたい気持ちもあるけど!
今は姉妹の抱擁に夢中になっている場合ではない。お姉ちゃんが魔法を止めれば、魔物が襲ってくる場所だ。
ただの街道や森ではない。ここは危険なダンジョンなんだ。
「だいじょ~ぶ! 見えない場所辺りでサンダーの魔法でバリアを作っておいたから、どうやっても魔物ははいってこれないよ~」
「なんでもありなの!?」
「シアちゃんを愛でるためならお姉ちゃんは何でもできるんだよ~」
「あぅぅぅぅぅ」
このお姉ちゃんは油断できないというか、スケールが違うというか。
後ろから抱き締められて頬ずりされている。ぷにぷにもちもちすべすべだ。
ああ柔らかいし良い匂いだよお姉ちゃん大好きぃ!
「えへへ~。シアちゃんシアちゃんシアちゃ~~~ん」
「ああもう、ワタシだってお姉ちゃん大好きだよー!」
こんなダンジョンで仲良くするのは問題はあるんだろうけど、ワタシはお姉ちゃんをメロメロにすることこそがこの旅の目的なんだ。
だから、お姉ちゃん以上に優先することなんて、ない!
あーでも、一つ大きな失敗があるかもしれない。
お姉ちゃんが可愛くて好きすぎて、ワタシがお姉ちゃんにメロメロになってしまう……!
「ぎゅ~!」
「ぎゅー!」
……うん!
難しいことを考えるのは後にして、今はお姉ちゃんとの抱っこを堪能しよう!




