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お姉ちゃんと、魔導都市サンダルフォンへ。




 空を目指すかのように伸びる四つの塔が見えてきた。

 四方の塔の上に浮かぶ、菱形の巨大な石。

 魔導都市サンダルフォンを守る、特別な魔法が込められた岩石だ。


「さすがのシアちゃんもサンダルフォンは知ってるんだね~」


「どういう意味!?」


 サンダルフォンは魔法学院に一番近い大きな街だから、必然的に関わる機会も多かった。

 ここから馬車で数日ほど掛かるけど、それでもこの街は魔法に携わる者にとって魅力的な街なんだ。


「そりゃシアちゃんがここ一年近く引き籠もってたしね~」


「うっ……」


 痛い部分を突かれてしまうと、さすがのワタシも反論できない。

 反論は出来ないけど、お姉ちゃんはワタシを責めているわけではない。

 事情を問いただしてくるわけでもないし、ただただニコニコと笑顔でいるだけだ。


「プリムさんは、その……気にならないんすか、シアンのこと」


 レアルがそっと、口を挟む。

 レアルは全部ではないけど事情を知っているんだと思う。

 そして、それを知っているなら――お姉ちゃんがこんなに笑顔でいるわけがない、とも考えているはずだ。

 分かりやすいというか……うん、そうだ。

 お姉ちゃんは、わかりやすい。


「気にならないよ~。シアちゃんが外出してくれるだけで、私は嬉しいもんっ」


「……お前の姉ちゃん、すげーな」


「凄いでしょ」


 何しろ自慢の姉なので。


「それに、シアちゃんが話したくなったらでいい、って言ってあるしね~」


「……シアン。絶対に言うなよ。学院が滅ぶ」


「うん、わかってる」


 お姉ちゃんに聞こえないように、レアルが耳打ちしてくる。

 ワタシもお姉ちゃんに聞かれないように、こっそり返す。


 事情を知ったお姉ちゃんがどんな行為にでるか、容易に想像できるから。

 だから事情を話さない。

 いや、知ってもらいたい気持ちはあるけど――胸に秘めるって、決めたから。


「レアルちゃん。サンダルフォンの冒険者ギルドって街の入り口にあったよね~?」


「そうっすね。……っとと。兄貴もそこで待っているはずなんで」


 サンダルフォンにはギルドへの報告のためだけに訪れた。

 だから街を練り歩く必要もないし、ワタシは馬車の中で待っていればいいだろう。


「さ、シアちゃんも行こっか」


「え?」


「話聞いてなかったのか? プリムさんに代わってもらった証明として、証人が二人必要なんだよ」


 いやいや、それこそワタシである必要がない。

 ギルドではレアルのお兄さんであるルイスさんが待っているんだし。


「現場を見たオレとシアンじゃなきゃダメに決まってるだろ……」


 呆れたようなレアルのため息に、ワタシはぐぅの音も出ない。


「ほ~らシアちゃん。新しい魔道書とか買ってあげるから~」


「だからお財布の管理してるのワタシだからね!?」


「じゃあ尚更、シアンが行かなくちゃダメだろ」


 うぐぅ。

 ま、まさかレアルに正論を吐かれるなんて。

 仕方ない。何しろ五万ゴールドの報酬にさらに上乗せして貰えるんだ。

 生活費のためなら、やぶさかではない……!


「……わかったよ」


「やった~。シアちゃんシアちゃん。せっかくだからお買い物も行こうね。ね?」


「……無駄遣いはダメだからね?」


「は~い」


 サンダルフォンは、魔法学院で生まれた技術を惜しむことなくつぎ込まれた、魔導都市だ。

 他の街にはない様々な魔法が、生活を支えている。

 一歩街へ踏み入れば、フラウロスとは全く違う光景が広がっている。


 例えるなら、そう。

 『俺』の世界でいうSFチックな世界だ。

 車に近い概念として、浮かぶ円盤が街中をせわしなく走り回っている。

 あの円盤は風の魔法によって浮いていて、車でもあるしエレベーターでもある便利な魔道具だ。

 名前は、えーっと……。なんだっけ。


「おーいシアン。ギルドはリューシャを使わないぞー」


「そ、そうだよね」


 リューシャ、か。どういった意味でその名前が付けられたかはわからないけれど、リューシャはサンダルフォンに住む人々の暮らしを文字通り支えている。

 足腰の悪い人なんかはサンダルフォンへの移住を勧められるくらい、生活に密着してる。


 お姉ちゃんとレアルの後を追って、サンダルフォンの冒険者ギルドを訪れる。

 街の入り口近くにある冒険者ギルドは、かなり賑わっている。

 人が多すぎて、入るのにも苦労しそうなほどだ。


「う~ん。人が多すぎてこれじゃ中で話せるかわからないね~」


「そうっすね。ここは魔法学院に近いから、依頼は他より少ないはずなんすけどね」


 レアルの言葉は合っているようで少し的がズレている。

 ここ、サンダルフォンの冒険者ギルドに回されるクエストの数は他のギルドと大差はない、と聞いたことがある。

 違いは、魔法学院が近いこと。

 学生に経験を積ませるために、簡単なクエストからBランクくらいのクエストまで、けっこうな数のクエストを魔法学院が請け負っているんだ。


 だから、サンダルフォンのギルドに回されるクエストは基本的に高難度のクエストばかりだ。冒険者の人たちは比較的楽なクエストを求めて、別の街を拠点にする人が多い。


 レアルのお兄さん・ルイスさんはSランク冒険者だから、高難度のクエストでも容易なんだろう。魔導都市サンダルフォンにルイス在り、なんて言葉は在学中に嫌でも耳に入ってくるほどだったしね。


「すいませーん。どうして今日はこんなに混んでるんですかー」


 ギルドの中から迫り出してきた冒険者の人に、レアルが声を掛けた。

 ちょっと安そうな鎧を身に纏い、ぼろぼろの剣と盾の冒険者だ。見るからにランクの低そうな、でも少し我の強そうな男性だ。


「『ジーニアス・ハザード』のテオフィラが誘いの峡谷に現れたって情報が流れてよ。誰もが捕まえようって駆けつけたんだよ」


「SSSランク犯罪者を、捕まえるんすか?」


「あっはっは。無理無理無理」


 冒険者さんは豪快に笑い飛ばしながら手を振った。

 自分のことをCランクだと自己紹介してきた冒険者さんは、楽しそうに目的を語ってくれた。


 目的は、テオフィラが造り出したキメラだ。

 誘いの峡谷でキメラの一部、ないしキメラに使われた魔物を生け捕りにしてほしい。という依頼が大量に出されたそうだ。

 なんでも、王都でもテオフィラの動向を探るための研究資料として欲しいとか。


「なにしろ国からのクエストだ。Aランク以上が同伴してれば下位ランクもこのクエストに協力できるし、払いも良い最高のクエストだぜ! こりゃ久々豪華なメシにありつけるな!」


 どこから情報が流れたかわからないけど、理解することは出来た。

 冒険者さんはウキウキしながら誘いの峡谷に向かっていく。

 キメラを討伐したことによっていつも通りの誘いの峡谷に戻っているだろうから、危険だけど……まあ、そっちはワタシには関係ない。


「兄貴ー。兄貴どこだー」


 少しずつまばらになってきた人をかき分けながら、レアルが一人ギルドに入っていく。

 ワタシはお姉ちゃんと一緒に外で待つことにした。急いでいるわけじゃないし。


「ねえねえシアちゃん。サンダルフォンを囲んでる四つの魔石については知ってる~?」


 お姉ちゃんはきょろきょろしながら、目に付いた、中空に浮かぶ四つの岩石に目を付けた。


「知ってるよ。火、水、雷、風。四つの属性がそれぞれ込められた、魔法学院特性の魔法岩石――魔石、でしょ」


 学院の授業で真っ先にやったところだ。

 サンダルフォンを守るように配置されている四つの魔石は、ざっくり言って三つの魔法が込められている。


 一つは魔物除け。

 外側に仕込まれた魔法式によって、魔物がサンダルフォンに近寄れないようにしている。


 二つ目は気候操作。

 精霊魔法の原理を応用して、サンダルフォンの中だけは他と天気を変えることが出来る。

 大分難しい式が練り込まれてるらしいから、造った人はよっぽど頭がいいんだろうなぁ。

 くそう。チートだチート。羨ましい。


 三つ目はリューシャといったサンダルフォンを支えている魔道具の制御・エネルギー供給。

 今ではこっちが一番重要だ、なんて意見も聞いたことがある。


 どれを取ってもサンダルフォンにとっては必要なことだから、比べはしないけど。

 この街は、魔法使いの、魔法使いによる、魔法使いのための街だ。


 だから自然と、この街で暮らす・過ごす人は魔法使いが多くなっていく。


「おーいシアーン。プリムさーーんっ!」


 レアルの声が聞こえてきた。視線を向ければ、ギルドの入り口でワタシたちに向かって手を振っている。

 レアルの隣には、レアルと同じ髪色の男性が立っていた。

 右腕を包帯でぐるぐる巻きにされた男性だ。

 あの人がきっと、ルイス・アゴリー……Sランク冒険者。


「始めまして。俺はルイス・アゴリー。今回は誘いの峡谷の調査と、妹が世話になった」


 右腕を抑えながら、ルイスさんがぺこりを頭を下げてきた。

 良い人っぽい。Sランクにしては驕ってない感じもするし。

 まあレアルのお兄さんだから、そこは気にしてはいなかったけど。


「ギルドも交えて今回の話がしたい。中で話さないか?」


 お姉ちゃんもワタシも異論はない。ルイスさんに促されながら、ギルドの中へと入っていくのであった。

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