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お姉ちゃん、キメラなんて一撃です。




 結論から言えば、さすがお姉ちゃんというかお姉ちゃん凄いと言うべきか。




 キメラはお姉ちゃんを標的として捉え、その口からべったりした液体を吐き出した。

 多分あれがレアルの言っていた酸なのだろう。

 お姉ちゃん、危ない――と、ワタシの言葉が喉から出るよりも、早かった。


「ウインド・ブラスト!」


 咄嗟に放たれた風の魔法が、酸を一気に弾き飛ばす。

 烈風とも言えるほど強い風は、吹き飛ばした酸をそのままキメラの胴体に付着させる。


「ガオオオオンッ!?」


 キメラもまた酸への耐性がないのか、悲鳴を上げながら暴れ出す。


「抜剣・バーニングソード!」


 ダメージを受けて混乱しているキメラに、お姉ちゃんは容赦しない。

 炎の魔法で剣を創り上げて、それを握りしめた。


 え、熱くないの?


 炎を操る、炎を生み出すのは魔法として当たり前だけど。

 炎を剣にして、それを武器として使うなんて、見たことも聞いたこともない。

 いくらお姉ちゃんが『火神の援護』スキルを持っていても、そんな恩恵があるなんて、ワタシは知らない。


「てやぁーーーーー!」


 お姉ちゃんは躊躇うことなく炎の剣を横向きに薙ぎ払う。

 綺麗にズドン、とキメラの首が落とされた。

 レッドドラゴンの頭部が地面に転がって、何かを叫ぶように頭を揺らして、ゆっくりと動きを止めた。


「大・勝・利っ!」


「なあ、シアン」


「勘違いしない方が良いよレアル。明らかにお姉ちゃんがやばいだけだから」


「だよなっ!? 兄貴が弱いわけじゃないよな!?」


 レアルの言いたいことはよーーーーーーーくわかる。

 なんでこのお姉ちゃんはSランク冒険者を退かせた魔物をいとも簡単に倒してしまったのだろうか。

 答えはSSSランクだから、で済んでしまうけど。


「事前に酸が飛んでくるってわかってたしね~」


「いやいや。普通の冒険者は酸を風の魔法で弾くなんて思いつかないっすよ」


「えっへん。レアルちゃんの霧を吹き飛ばすのをイメージしてみました!」


 自慢げに胸を張るお姉ちゃんだけど、それが簡単にできたらどんなに楽が出来るか。

 魔法を作ったり、イメージで応用するなんてとにかく高等技術だ。

 魔法学院でしっかりした授業を受けたワタシやレアルだからこそ、その難易度を理解している。


「お、おう。SSSランクってすげーんだな」


「えっへん」


 レアルが驚きの声を上げる度にお姉ちゃんは「凄いでしょお姉ちゃん凄いでしょ」と視線でワタシに訴えてくる。


「うん。さすがお姉ちゃんは凄いなぁ」


「でしょ~! シアちゃんを守るのはお姉ちゃんなんだからね!」


 なんだろう。

 お姉ちゃん、レアルに張り合ってる?

 そうとしか思えない言葉をさっきから言ってるし。

 お姉ちゃんがワタシを守ることを重視してくれるのは、嬉しい。

 うーん。でもどうしてそこまで張り合おうとしてるんだろうか。


「しかし、頭……というか完全にレッドドラゴンだな」


 動かなくなったキメラの頭を足で小突きながら、レアルが観察している。

 レアルの目的はこの霧の調査で有り、キメラを倒すわけではなかったけど……キメラが尻尾から霧を吐いていたから、調査の一部ではあるのだろう。


 頭部を失ったからか、胴体や尻尾も動かなくなっている。


「……三つの魔物の特徴があるのに、命は一つなの?」


「みたいだねぇ~。まあ、一つの胴体で頭を二個持ってる魔物もいるし、そこは驚かないんだけどね~」


 え、そんなのいるの?

 お姉ちゃんは見たことがあるらしいけど。

 うーん、世界は広い。


「ベノムスネークが動かない、ってのは気になるな」


「そうだね~。明らかに別の魔物で、胴体も頭もあるのに。ベノムスネークの内臓器官はレッドドラゴンの胴体と混ざってるようには見えないし」


 ツンツンと木の枝で様子をうかがうお姉ちゃん。

 お姉ちゃんから見ても、このキメラは初めて遭遇する魔物のようだ。

 ……キメラ。


 神話とかだと、キマイラって感じで混ざった生物のイメージだ。

 でも、ワタシの中にはもう一つのイメージがある。

 それは、『造られた生物』だ。


「あーあ。せっかく造ったのに。誰だ僕のペットを殺したのはぁー」


「っ!」


 お姉ちゃんも、レアルも、ワタシも、一斉に身構えた。


 声が聞こえてきて、顔を上げた先にその女性は立っていた。

 あまりにも黒いというか――闇のような、女の人だ。

 右側で一房に纏められた、宵闇のような濃い紫色の髪。

 エメラルドとトパーズ色の、オッドアイが寂しそうにキメラの死体を眺めている。

 日に焼けたような褐色の肌。

 そして、何よりも特徴的なのは――その、長く尖った耳。


「テオ……!」


「やっぱりプリムかぁ。まーた僕の研究を邪魔してぇ」


 お姉ちゃんは、この女性と知り合いなのだろうか。

 いや、知り合いではあるけど――仲が良いとは思えない、空気だ。


「テオ? もしかして、テオフィラ・エリクス・ホーエンハイムか!?」


「え、誰?」


 レアルが叫んだ名前に、ワタシはいつものペースで聞き返してしまった。

 レアルがじろり、と睨んでくる。

 し、仕方ないでしょ。ワタシは勉強でいっぱいいっぱいで他のことに興味がなかったんだ。


「テオフィラ・エリクス・ホーエンハイム。世界的に有名な犯罪者だ」


「犯罪者ぁ!?」


「うーん。正解だけど違うよぉー。僕は生命の研究がしたいだけなんだよぅー」


 ニコニコと笑みを絶やさないテオフィラが、余計に不気味さを助長させる。

 ……犯罪者。

 この人が、なにをしてきたかはなんとなく察することが出来る。


 キメラを造ったと言っていた。

 そして、生命の研究がしたいだけ、とも。

 それが倫理に触れていても、構わないと判断して――きっと、今までにも。


「怖い顔するなよプリムぅー。僕とお前の仲じゃないかぁー」


「そうだねー。テオがさっさと捕まってくれれば私も懸賞金貰えて嬉しいんだけどね~」


 お姉ちゃんも笑っているが、明らかにいつもとは違う笑顔だ。

 憎さとか、そういう悪い感情はなさそうだ。

 でも、なんだろう。

 お姉ちゃんは、このテオフィラって女性のことが、嫌いなのだろう。


「でも、ここであったが百年目! 今日こそ貴方を拘束して、懸賞金である三百万ゴールドを持って帰るよ!」


「さんびゃくまん!?」


 何それ! 今回のレッドドラゴン希少種の討伐でさえ五万だよ。それでも破格なのに。

 三百万ゴールドなんて超大金が懸賞金になってるなんて、この人どれだけ悪いことしてきたの!?


「えぇー。僕は弱いんだから戦いたくないんだどぅー」


 テオフィラは明らかに戦うのを嫌がっている。

 でも、お姉ちゃんは問答無用とばかりに魔力を高めた。

 あ、これヤバイ奴だ。


「ブレイジング・ブラスト!」


「わぁー」


 お姉ちゃんの手の平から放たれた魔力が、テオフィラを包み込んで爆発した。

 え、えー。炎の上級魔法を、躊躇いもせずに放ったの。


「お、お姉ちゃんそんな凄いの使ったら捕獲なんて――」


「っ、シアン、見てみろ!」


「え……」


 お姉ちゃんに声を掛けようとしたら、レアルが急に口を挟んできた。

 テオフィラがいたところを指差していて、ワタシもそこへ視線を向ける。


「あぁー。痛い痛い。もう、手加減してくれよぅー」


 無傷のテオフィラが、そこにいた。

 傷もない。髪も乱れていない。でも、服だけは完全に失っていて。


「あぁー。裸見られちゃうのは勘弁だよぅー」


 テオフィラが指を立てると、何もない空間からズルり、と服を取り出した。

 それを一瞬のうちに着こなすテオフィラ。真っ白な服――白衣を着込んだテオフィラは、くすくすと笑いながら、お姉ちゃんを見つめた。


「だめだぞプリムぅー。僕はこの程度じゃ死なないってわかってるだろぅー」


「っ……!」


「僕を捕まえたいなら、もっと頭を使えって言ってるだろぅー?」


 思い、出した。

 武術大会で、お姉ちゃんが言っていた。お姉ちゃんが『逃げられた』相手。

 倒しきれなかった。負ける要素はなかった、と語っていた存在。

 亜人、と言っていたし。

 長い耳はエルフだし、黒い肌はエルフの中でも特殊な種族、ダークエルフのものだろう。


「くすくす。くすくす。さーてプリム。僕と遊ぼっかぁー」


 気だるげに声を伸ばしながら、テオフィラはお姉ちゃんに微笑んだ。

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