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お姉ちゃんと白銀の魔法使い。




「シアちゃん、ぎゅーっ!」


「あはは。お姉ちゃ~んっ」


 ぎゅー、っと正面から抱きついてくるお姉ちゃんを抱き締め返す。

 お姉ちゃんを全身で堪能する。柔らかさも甘い匂いもなにもかも全部、独占する。

 あぁー。幸せだ……。


「すりすりしちゃうぞ~」


「きゃー」


 お姉ちゃんとすりすり頬ずり。ああもう、お姉ちゃんは可愛いなぁ!

 ユリアル家から譲ってもらった馬車の中は快適だった。

 なんと言っても馬車の中にベッドと二人掛けのテーブルが置かれ、完全に生活できる空間となっていたのだ。

 さすがに馬車の中で火を使うことは出来ないから、料理とかは外でやるしかないけど……。

 それでもワタシたちの旅はぐっと楽になった。

 なんといっても長距離を歩く必要がなくなった! 馬がしっかり進んでくれさえすれば、最悪ワタシたちは寝ていても目的地に到着できる!

 ありがとうふーちゃん! ランさん! グレイドさん!

 ワタシはこうしてお姉ちゃんとべったりいちゃいちゃしながら旅が出来るよ!


「ぎゅーっ」


「あはは~っ。シアちゃんくすぐったいよ~」


 二人っきりなら誰かに見られることもない。だから思いっきり甘えてしまおう。

 ぎゅー。すりすり。ぺたぺた。ぎゅー。


 お姉ちゃんはくすぐったそうにしながらも笑顔でワタシを受け入れてくれる。

 それがとても嬉しくて、ちょっと熱いくらいじゃ離れることなんて考えられない!


「ぶるるるっ」


「あはは……っと、ちょっと待ってシアちゃん」


「えー」


 馬がいきなり足を止めたので、お姉ちゃんは様子を見に行くために離れてしまった。

 ……うー。顔が熱い。でも寂しい。お姉ちゃん早くー。


「ごめんねファルくんー。ご飯? 水? 水だねー」


 お姉ちゃんはファルシオンと名付けた馬と意思疎通が出来るのか、馬の欲しいものを的確に当てている。すぐに水の魔法で桶を見たし、馬のために一休みする。


「お姉ちゃんはさ、ファルシオンの言葉がわかるの?」


「え~? もちろんだよ~。お姉ちゃんは翻訳魔法のスキルもSなんだから~」


 そういって自慢げにお姉ちゃんは自分のステータスウインドウを開いて見せてくる。

 そこには確かに『自動翻訳:S』と書かれている。

 スキル詳細は……えーっと。


『言語翻訳:S』

 あらゆる精霊・動物との会話が行えるスキル。

 ランクSであれば、意思を持つ全ての存在からの言葉を理解し、また、相手側に理解させることが出来る。


 お姉ちゃんが持っているスキルは多すぎて、ワタシでも把握し切れていない。

 持っているとは思っていたけど、お姉ちゃんのチートっぷりは予想以上だ。

 ……もしかしてそのスキルも、ワタシが貰う予定だったのかな?


 まあこればっかりは考えていても仕方がない。

 別にスキルが欲しいわけじゃ無いし。お姉ちゃんがいてくれればスキルなんていらないし。


「だから経路とかも全部説明してたんだね」


「うんうん。ファルくん頭良いからすぐ覚えてくれて助かるよ~」


 確かに。

 ファルシオンは最初からお姉ちゃんの指示した通りの道をきっちり進んでいる。

 気付かなかったけど、普通の馬ならいくら飼い慣らしても難しいだろう。

 ファルシオンとしっかり意思疎通が取れているお姉ちゃんだから、出来た芸当だ。


 うんうん。凄い凄い。そのままお姉ちゃんとワタシのためにしっかり進んで貰いたいものだ。


「飲み終わった? じゃあまた、この地図通りにお願いね~」


「ぶるるるる……っ」


 ファルシオンは鼻息を荒くしながらも頷いた。


「あはは。夜にはしっかり休ませてあげるから、もうちょっと頑張ってね」


「ぶるるるっ」


 ファルシオンはしきりに頷くと、お姉ちゃんに頭を擦り付けてから進み始めた。

 お姉ちゃんは「とうっ」と掛け声と共に馬車の中に戻ってくる。


「ファルシオンはなんか言ってたの?」


「寝る前に水を浴びたいって~」


 まあファルシオンの水浴びはお姉ちゃんに任せておけば良いだろう。

 ワタシはワタシでいつも通り料理や洗濯といった家事を済ませなくちゃならない。

 でも、今はまだその時じゃない。まだまだ日も暮れないし、洗濯物もそこまで溜まってない。


「シアちゃん」


「んー?」


「かもんっ、かもんっ」


「……とー!」


「きゃ~っ」


 ベッドの上に腰掛けたお姉ちゃんがいつものように両手を広げて、ワタシを呼ぶ。

 だからワタシも迷わずお姉ちゃんの胸に飛び込む。勢い余って二人してベッドに倒れ込むけど、気にすることはない。


「っふふ。今日のシアちゃんは甘えん坊でお姉ちゃん幸せだよ~っ!」


「たまには、いいでしょ?」


「たまにじゃなくて毎日でもいいんだよ~~~~~っ!」


「きゃーっ」


 またもお互いに強く抱き締めてすりすりすりすり。

 はぁー。幸せ。もう時間がずっと止まってしまえばいいのに。

 王都になんか行かないで、お姉ちゃんとずっと二人っきりでいたい。


 でもだめなんだろうなー。お姉ちゃんはそういうところは融通が利かないというか、筋を通さないと納得しない人だから。


 まあそんなお姉ちゃんが好きなんだけどね!


「ぶるるるる」


「もう少ししたら誘いの峡谷に着くってさ~」


「そうなの? じゃあ、峡谷に入る前に一回休んだ方がいいね」


「そうだね~。朝から動けば、日が暮れる前には峡谷抜けられる筈だし~」


 お姉ちゃんは何度もこの誘いの峡谷でのクエストをこなしていたらしく、勝手知ったるといった様子だ。

 ワタシにとっては危険なダンジョンであることに間違いはないんだけど、お姉ちゃんが傍にいてくれるなら大丈夫。

 あんまり怯えてもお姉ちゃんを心配させちゃうだけだから、気を付けよう。


「止まれ! そこの馬車、止まれ!」


 ――外から聞こえてきた怒声にファルシオンが足を止めたのは、その時だった。


 やや強めに止まったからか、馬車も揺れてしまう。

 わわ、と体勢を崩しながら、何があったのかとお姉ちゃんと一緒に外を覗く。


「この先の誘いの峡谷は通行止めだ! 緊急措置の為、ステータスの公開を要求する!」


 シャツの上に羽織った黒のローブ。浅めに被っている魔女帽子。

 ワタシの赤いネクタイとは違う、白のネクタイ。


 魔女帽子の下の、白銀の短髪と、琥珀色の瞳。

 その人は、お姉ちゃんを一瞥するとすぐさまワタシに視線を向けた。


「あっ……」


 向こうがワタシに気付く前に、咄嗟に馬車の中に戻る。

 お姉ちゃんは何事かと怪訝な表情をしながら馬車から降りていった。


「……シアン・ソフィアだな?」


「っ!」


 でも、声の主はお姉ちゃんではなくワタシを名指しした。

 ……うん。まあ、そうだよね。

 だって、その人はお姉ちゃんとは初対面だけど……ワタシとは、初対面じゃないから。


 あーもー。

 なんでこんなところにいるんだよぉー……。


「……レアル」


 バレているのなら隠れていても仕方がない。観念して馬車から降りる。

 ワタシと同じ格好――魔法学院の制服を着込んだ少女を、ワタシはよく知っている。


 レアル・アゴリー。

 魔法学院・精霊科に所属している……ワタシの数少ない、知人、だ。


「シアちゃんのお友達? え、シアちゃんお友達いたの!?」


「お姉ちゃんそれどういう意味!?」


「あはは……。だ、だってシアちゃんだよ? 誰よりもお姉ちゃんのことが大好きなシアちゃんだよ?」


「あ、あのさー……」


 どうしよう。知り合いの前だっていうのに恥ずかしくて死にそうになる。

 お姉ちゃんのワタシへのイメージはそりゃ何一つ間違ってないけど。

 レアルからすれば、ワタシは友人ですらないだろうし。


「よし、シアン」


「な、なに?」


「 一 発 殴 ら せ ろ 」


「なんで!?」


 レアルがもの凄い形相を向けてきた。


「オレに黙って学院から消えて! ルームメイトのオレに何も言わないで! 何かあったのか教師に聞いても教えてくれないし! 実家も知らないし! ああもう心配したんだぞ!?」


「……ご、ごめん」


「いい。元気なら、いい」


「……ごめん。レアル」


「いいって言ってるだろ。昔より、元気そうだし」


 レアルはうっすらと微笑んで、ワタシとの再会を喜んでいる。

 ワタシも、嬉しい……のかな。

 レアルが手を出してくる。ワタシもその手を握ろうと、手を伸ばして――。


「寮のルームメイトさんだったの? わぁ~! こんにちは! 私はシアちゃんの姉のプリム・ソフィアだよ。私のシアちゃんがお世話になりました~!」


 しんみりとした空気を、お姉ちゃんがぶっ壊した。

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