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お姉ちゃん、実はお酒に……。




「ではこれより、フリージアとランの祝賀会を始めさせて貰う!」


「「「かんぱーいっ!」」」


 グレイドさんの音頭を皮切りにメイドさんが次々に料理を運んでくる。

 ふーちゃんとランさんの優勝を祝ってのパーティーだそうで、ユリアル家の食堂でまたもお世話になっている。


「ふっふっふ。優勝したことでようやく父様も認めてくれるじゃろう!」


「へ~。ふーちゃん武術やること反対されてたんだ~?」


 お姉ちゃんはお酒をちびちびと嗜んでいる。

 もとからお酒にそこまで強くないから、あまり飲み過ぎなければいいんだけど。


「当たり前だろう。愛娘が進んで危険に飛び込むようでは困るではないか」


「あ~。わかりますわかります。私もシアちゃんが危ない目に遭うといつもヒヤヒヤしますから」


「そうだろう!? ……だが、フリージアは私の思った以上に成長しているようだ。これが、親離れなのだな」


 鼻水を啜りながら涙を零すグレイドさんは、すでに少し酔っているようだ。

 寂しげなグレイドさんに、ふーちゃんが駆け寄ってにこ、と笑顔の花を咲かせる。


「大丈夫ですよ父様! 妾はいつまでも父様が大好きなのじゃ!」


「おぉ、おぉ、フリージア~~~っ!」


「あはは。ヒゲがくすっぐたいのじゃーっ」


 感極まったグレイドさんがふーちゃんを抱き締めた。

 くすぐったそうに身を捩るふーちゃんだけど、その表情はとても嬉しそうだ。


「シアちゃんっ!」


「な、なに?」


 お姉ちゃんに急に呼び止められ、身体をすくめてしまう。


「かもんっ、かもんっ!」


 お姉ちゃんは椅子に座りながら、両手を広げてワタシを呼んでいる。

 でもワタシは、今日ばかりは断固としてお姉ちゃんに近づかない。

 それには複雑な理由がある。とても複雑な。


「い、いやだっ!」


「なーんーでー!」


「お姉ちゃんがこんな衣装着させるからでしょ!?」


 ――そう、今のワタシはいつもの魔法服ではない。

 全体的に黒を基調とした色合いの、ふりっふりのスカート。

 ふりっふりのフリル全開の上着。

 普段のワタシが着るわけがないゴシックな衣装と、ツインテールを結ぶ片方にあしらわれた薔薇のようなリボン。


 ゴシックロリータ。通称ゴスロリ。

 ワタシは今、そんな衣装をしている。


「お似合いだと思いますよ?」


「ランさんまで裏切った!?」


「う、裏切ったわけでは……ですが、とても、可愛らしいと思いますよ」


「うんうん。シアちゃんはこういうフリフリなのがとっても似合うんだよ~」


 頬を赤く染めたお姉ちゃんはどこか色っぽい――というかもうほろ酔いだよね!?


 切っ掛けはコロッセオでの出来事だった。

 モヒカンとその手下たちをサンダー・ブラストで一撃で倒した。

 お姉ちゃんはもちろん賞賛の嵐。逃げるようにユリアルの屋敷へ戻ってきた。

 モヒカンたちはそのまま憲兵に突き出され、牢屋の中に押し込まれたらしい。


 そしてお姉ちゃんが言い出してきたのは、『お姉ちゃんがんばるからご褒美ちょうだいね?』の約束事だ。

 しかもワタシはあの時、どうにかしようと焦っていたこともあり、「なんでもする」と言ってしまった。


 屋敷に戻ってきてすぐにお姉ちゃんはそのことを言いだし、メイド長さんに頼んだんだ――このゴスロリを着させてあげて、と。


 最初は断ろうとした。

 さすがにワタシもメイド服以上に恥ずかしい。それならまだメイド服を着た方がマシだと。

 そんな綺麗な衣装はワタシに似合わないと。

 でもそんなことを言い出せばお姉ちゃんはすぐに泣きそうな顔をしてくる。

 もちろんそれが嘘の泣き顔だってわかるんだけど、わかるんだけど……!


 そしてワタシはゴスロリ服を着て食堂にいる。

 帽子とかカチューシャは無しでよかったのが幸いだ。何が幸いかはよくわかってないけど。


「う~ん。似合うとは思ってたけど、まさかシアちゃんがここまで可愛いだなんて~!」


 酔いも合わさって、お姉ちゃんはかなり興奮している。

 鼻息も荒いし、捕まればもみくちゃにされるだろう。


 う、うー。


 お姉ちゃんを独占するためにはできる限りお姉ちゃんのお願いを聞いて、ワタシに依存させるのが近道なんだけど。

 さすがにこれは身の危険を感じるよ!?


「えへへ。ええじゃないか、ええじゃないか……!」


「ひ、ひぇ……」


 我慢しきれなかったのか、お姉ちゃんは席から立ち上がるとじりじりとワタシに詰め寄ってくる。

 誰かに助けを求めても、ランさんもふーちゃんもこの場で唯一の大人であるグレイドさんもメイド長さんも顔を逸らしている。


「見放された!?」


「いえ違いますシアン様。コロッセオを守ってくれたプリム様の願いは、できる限り尊重せよと旦那様から……」


「う、うむ。父様からの指示じゃ。妾も動けん」


「そうですね。旦那様の指示ですのでメイドである私が動くわけにはいきません。ですから私たちに構わずちゅっちゅいちゃいちゃしてください」


「うむ。私はそんな指示は出してないが、まあそういうことにしておこう。姉妹の仲が良いことは大事だからな、うん」


「せめて顔を見て説明して欲しいんですけど!?」


「「「「いや、プリム(くん/様)を相手に止めることは出来ない(ません)~」」」」


 ですよねー!


「シアちゃんお部屋行く? いっちゃう? お姉ちゃん今夜はシアちゃん寝かせないよぎゅってしてはむはむしてくんかくんかしちゃうよ?」


「だ、だめ。すとっぷ、すとーーーーっぷ!?」


 ゆっくりと後退っていたけど、ついにワタシは壁にぶつかってしまった。

 もう逃げ場はない。ああ、もうダメだ捕まる!


「えいっ。っふふ。シアちゃん捕まえた~」


「は、はーなーしーてー!」


「へへへへっ。あ~~~シアちゃんだいすき~~~~~~~っ!」


「むごー!」


 いつものようにお姉ちゃんのおっぱいに押しつけられて呼吸が奪われる。

 と、思ったらすぐに解放される。


「それじゃーお先に失礼しますね~」


「っ!?」


 え、ちょっと待ってワタシ今お姫様抱っこされてる!

 ちょっと待ってちょっと待って!?


「シアちゃん」


「な、なに?」


 びくびくしながら、顔を覗き込んでくるお姉ちゃんと見つめ合う。

 ドキドキしてるのがバレなければいいんだけど……!


「お姉ちゃんの言うことが……聞けないの?」


「~~~っ!」


 ぞくぞくって。ぞくぞくって、した……!

 耳元で、囁かれて、息吹き掛けられて。


「ひゃ、ひゃい……」


 身体から力が抜けていく。逆らってはいけないと、小さな頃からの習慣でもある。

 ぺろ、と舌なめずりするお姉ちゃんは怪しげな光を目に灯している。

 た、食べられる……!?


 身の危険を感じるも、ワタシはお姉ちゃんの腕の中で自由を奪われている。

 じー、っとお姉ちゃんに見つめられていると、ワタシもドキドキが激しくなって頭がぼうっとして――。


「うへへへへ……あふぅ」


「あいたっ」


 突然お姉ちゃんの身体から力が抜け、ワタシは床に放り出されてしまう。


「プリム様っ」


「……寝てる、のか?」


「えへへ……しあちゃ~ん……」


 ……お姉ちゃんは、眠りに落ちていた。

 お酒に弱いのは知っていたけど。


「ふむ。プリムくんにはまだ強すぎたかな? ここいらで手に入るワインでも最も度数が高いものを飲んでいたようだが」


 グレイドさんが開けていたワインボトルのラベルを読み上げながら、そんなことを呟く。


「あ、あぶなかった……」


「……くすっ。でもシアン様としては、プリム様に頂かれた方が嬉しかったのでは?」


「~~~っ。ら、ランさんが意地悪だっ」


 ランさんとワタシは互いの秘密を知っているからか、これまでより少し親密だ。

 だからこうやってからかわれたりもしてしまう。


「……むぅ。妾の知らないところでランがシアンに奪われてしまったぞ」


「だ、大丈夫ですよフリージア様! 私はいつまでもフリージア様の騎士ですから!」


「むぅ。本当かのう?」


「ほ、本当ですよ!」


「むぅ……」


 そんなワタシたちを眺めて訝しむふーちゃんと、慌てて取り繕うランさんが――まるでワタシたち姉妹に、そっくりだ。


「……うむ。仲良きことは美しきかな」


 グレイドさんは、ふーちゃんとランさんを眺めながらさらにワイングラスを傾けた。

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