異世界転生のお約束はどこ?
「……ふぅ。死ぬかと思った」
まだ心臓がバクバクしている。苦しいんだけど不思議と辛くない。
水で顔を洗ってもう一度意識をさっぱりさせる。
ふー、すっきり。
さて……問題は、いろいろあるなぁ。
「お姉ちゃんは……出掛けたかな?」
いきなりワタシが気絶してしまったからかお姉ちゃんは大慌てで外に行ったようだ。
多分、薬かお医者さんを探しにいったんだろう。
「……さて、と」
改めてワタシは今の『ワタシ』を鏡越しで観察する。
小さい頃からぼーっと眺めていられるワタシだ。観察は得意だ。
青い髪のツインテール。
アメジスト色の瞳。
幼い顔立ち。女性とは言えない、少女(十六歳)。
年相応だろう。体付き以外は。
いやまあワタシ的にはぺったんこでもいいんだけどね!
ワタシ自身にこだわりはないし、お姉ちゃんがぼんきゅっぼーんだし!
「うっ、なんか悲しくなってきた」
とはいえワタシは『俺』でもある。
どうして『ワタシ』になっているかは……わからない。
神様ー! どうして俺は女の子になってるんだー!?
『お前を転生させるついでに……そうだな。特殊なスキルを何個かと、おまけも付けておいてやろう。お得だろ?』
神様の最後の言葉を思い出す。そういえば特殊なスキルをくれるって言ってたけど……。
「うーん」
ワタシには何も思い当たるものがなかった。
「『ステータス』」
ブゥン、とまるで昔のテレビのように目の前にウインドウが出現する。
この世界では、誰もがこの言葉を呟くだけで自分のステータスを確認できる。
【シアン・ソロモン】
筋力:E
耐久:E
素早さ:D
魔力:C
幸運:D
所持スキル:
『魔法:C』
魔法が使える。Cランクならば一般人か、それより少し優れている程度。
『鑑定:C』
目利きが少し出来る。しかし、鑑定士には及ばない。
『料理:C』
料理が出来る。Cランクあれば一般的な料理は大抵こなせる。
『雷神の加護:C』
雷神の星の下に生まれてきた。
雷属性魔法への才能がある。
……うん、自分でも悲しいくらいに何もない。
平均値かそれ以下のステータスを見てももうため息すら出ない。
これがワタシだ。
特殊なスキルも凄いステータスもなにも持っていない、平凡な女の子。
おっかしいなぁー。神様がスキルをくれたのなら、ワタシは前世で読んでたラノベのように「異世界転生」してチートスキルで無双しているはずなのに。
「あー。そういえば」
ふと思い出して、もう一度「ステータス」と唱える。
鑑定スキルはCもあれば、覚えている人のステータスを残しておける。
ワタシはお姉ちゃんのステータスを表示した。
【プリム・ソフィア】
筋力:SSS++
耐久:SSS++
素早さ:SSS++
魔力:EX(測定不能)
幸運:S
所持スキル:
『雷神の加護:S』
雷の神に好かれている。
雷属性の魔法を使用する際に消費する魔力量を激減する。
また、雷属性への耐性を得る。
全ての攻撃に雷属性を付与する。
攻撃力が一段階上昇する。
Sランクならば二段階上昇する。
『水神の守護:S』
水の神に好かれている。
水属性の魔法を使用する際に消費する魔力量を激減する。
また、水属性への耐性を得る。
防御力が一段階上昇する。
Sランクならば、二段階上昇する。
『火神の援護:S』
火の神に好かれている。
火属性の魔法を使用する際に消費する魔力量を激減する。
また、火属性への耐性を得る。
攻撃力、素早さに+補正値が加えられる。
Sランクならば++補正となり、上昇値は最大となる。
『風神の契り:S』
風の神に好かれている。
風属性の魔法を使用する際に消費する魔力量を激減する。
また、風属性への耐性を得る。
素早さが一段階上昇する。
Sランクならば、二段階上昇する。
『転生神からの贈り物:S』
ありとあらゆる耐性を取得する。
全ての行動が三回行動になる。
全ての行動が全体攻撃になる。
その他、数え切れないくらい。
目立つモノだけでもこれくらい。
……いやー我が姉ながらびっくりスキルのオンパレードだ!
四神契約のスキルが最高ランクだし、なにより目を引くのは「転生神からの贈り物」ってスキルだ。
「お姉ちゃんがワタシのスキルを授かった?」
考えられるとすれば、それしかない。
お姉ちゃんはこれらのスキルを駆使して、わずか一年で冒険者としては最高ランク、SSSランクの座にたどり着いた。
歴代冒険者の中でも最速のスピードと驚かれたらしい。
「ま、まあ三回攻撃で全体攻撃で四属性全部極めてれば、ねえ?」
改めてお姉ちゃんの規格外さに驚かされる。
ワタシのお姉ちゃんは、世界最強の冒険者だ。
「シアちゃんただいまー! エリクシール貰ってきたよ!」
「だからそれSランクじゃないと手に入らないレア万能薬!」
焦った表情のお姉ちゃんが駆け込んできて、ワタシの考えはすぐに消え去ってしまう。
ワタシには、大好きなお姉ちゃんがいる。
そんなお姉ちゃんが、チートスキルでワタシを守ってくれる。
それでいいじゃない。
別に『俺』は無双したかったわけじゃない。
別に『ワタシ』は力に憧れているわけじゃない。
お姉ちゃんがずっと傍にいてくれれば、それで幸せなんだ。
「シアちゃんどうしたの? お薬飲もう?」
「だいじょーぶ。お姉ちゃんの顔見たら元気になったよ」
ワタシたちの間でお決まりの言葉。
この言葉だけで、お姉ちゃんがふにゃふにゃの笑顔になる。
「……えへへ~~~っ。シアちゃん大好きっ」
「わぷっ」
また抱き締められる。今度はおっぱいに埋もれないように上手く頭の位置をずらすことができた。
「すりすりすりすり~~~!」
「きゃっ。お、お姉ちゃんくすぐったいよ~!」
「ぎゅー! シアちゃんは私のお嫁さんだー!」
くすぐったさを感じながら、ワタシは素直にお姉ちゃんに抱擁される。
柔らかいほっぺた同士で頬ずりされながら、されるがままに愛情を受け入れた。
あーもう、ワタシも大好きだよー!