3.悪魔
目が覚めると体がだるい。
いつもの事だ。
体を起こすのに20秒以上かかってしまう。
そもそも体起こしたあと、1分くらい固まってしまう。
私はよっこいしょと立ち、伸びをする。
カーテンは開けない。
だって外から丸見えだから。
私の部屋の場所、というかこのアパートが保育園の目の前だから。
このアパートは3階建て。私は1階の真ん中。
そして1番保育園の門から見える場所。
子供が寝起きの私を見たら、しかも築57年という古び…いい感じのアパートの窓からそろりと見えたら泣き出してしまうだろう。
まぁ私が日の光を浴びたくない。というのもあるのだが。
△ ▲ △ ▲ △
伸びをしたあと私は洗面所に向かう。
何しろ目やにが凄いのだ。
それと顔を洗わないと目が覚めない。
私は蛇口を捻り、ジャーと水を出す。
お湯ではなく、冷たいお水だ。
洗顔石鹸は付けない。
めんどくさいから。
まだ2月と言うのに冷たいお水で顔を洗う私はおかしいのだろうか。
だが、前スマホで調べた時Gookillではお湯より、冷たいお水で洗うと良い。と書いてあったのを見たことがある。
それを見て以来私は毎朝水で洗うようになった。
あれが嘘だったら私はスマホを氷水に沈めるだろう。
だが、信じてしまった私も私だ。
嘘であってもなくってもネットは普通信じるものではない。
ほぼデタラメだ。
よく、LIMEの公式アカウントで『この投稿をシェアすると願いが叶う!』と言うのはほぼ99%嘘だ。夢を壊すようだが事実なのだから仕方がない。
そもそもそんなの誰が始めたのだろうか。
投稿をシェアしただけで願いが叶ったらこの世から『苦労』という言葉が消えてしまう。
苦労したからこそ幸せがあるというものだ。達成感があった方がやりがいがある。
願いは幅広い。全教科平均点10点の子が明日のテスト全教科100点になるようにと願っても努力かカンニングをしてないのならそんなの叶うわけがない。そもそもこの世界には『奇跡』または『偶然』はあるが『神』や『悪魔』というものは存在しない。
ほぼ人間の妄想空想で付けられたものだ。
人間、神やら悪魔やらにたとえないと行動出来ない時がある。
例えば、『神様お願い…!助けて!』と言わなければ何者にも望めないのだ。
神に助けを求めないのなら誰に求める。ということだ。
逆に悪魔は、家の誰かが1人、女の子が朝起きたら殺されてたとしよう。その時誰かが『これは悪魔の仕業だ…呪いなのだ…』と言う。
毒をもるような器具無し、血液異常無し。刃物で刺されたり、首を絞められたあともなし。だとしたら“悪魔の仕業”と言わなければ何に例えれば良いのか分からなくなる。殺したと思われる怪しい奴がいても証拠がない。毒をもられたあとも、切り傷ひとつついてもいない。悪魔の仕業じゃなかったら誰の仕業だ。誰も答えを知らない、答えない。ならば悪魔の仕業ということになってしまう。
実に恐ろしい。
難病、まだだれも分かっていない、治せない病も悪魔の呪いとかよく言われる。
だから人間は『神』と『悪魔』の存在は必要不可欠、認めざるおえないのだ。
「…ククク…ほんとに悪魔はいないと思うのかい?」
誰かがバカにしたような笑い方で語りかけた。
「…。え?」
1泊遅れて私は疑問の言葉を漏らした。
「だ、誰っ…ですか?」
「ククク…」
「な、…」
なにが『ククク…』だ。
何がおかしい。バカバカしい。
そもそもどこにいるのだ。私の部屋から出ないと家賃取るぞ。
そんな言葉が口から漏れそうになったのを急いで止めた。
「俺?俺か?俺は────サタナキア。」
「…?。」
サタナキア?なんだそれは。聞いたこともない…いや、どこかで聞いたことがある気がすることもない…?
「お前らのとこでは有名じゃないからなぁ…俺はプート・サタナキア。54もの悪魔を従える、女も意のままに従える力をも持つ大悪魔様だ。」
「…私のイメージだと悪魔って言うと、サタンとかフェニックスなんだけど…」
「あいつらと一緒にすんなよ…」
なんだこいつノリいいぞ。
というか私もノリで聞いちゃったけど、思い出した。
プート・サタナキア。
ルシファーという悪魔の配下。
そのルシファーとアガリアレプトとともにヨーロッパ、アジア付近に住まう。
そしてプルスラス、アモン、バルバトスの3人の精霊を配下に持つといわれる。
極めつけは、あらゆる女性を意のままに従える力を最も言われている。
病んでる時に悪魔やらそこら辺はよく調べてたから頭のすみにあった。
…
どこかしらの中二病か、それとも頭のおかしいひとか、ふざけた男子か…声はかっこいいけど。
私は窓を見る。カーテンはしまっていて人影はない。が、
シャァッ
目の前はただの保育園。幼い子供たちが集う場所。
だが、さっきの声に合うような男性はいない。
(あれっ?)
おかしい。ならばどこから声が…というかどこに…
「鈍臭いなぁ…俺は悪魔だっての。」
「悪魔だからって…姿見せてもらえないと話にならない…」
「やだよ。お前みたいな汚い女。可愛くもないし綺麗でもない。」
「…」
じゃあなぜ私と話す。
ほんとに何なんだこいつは。
汚い女も可愛くも綺麗でないことも勿論否定しない。事実だから。嘘は言ってはいけない。
だが、初対面、というか顔も合わせないでそんなこと言うなんてとても失礼だ。
確かに私は汚くて可愛くも綺麗でもない。だが、私も女だ。そんなこと言われれば傷つ…気はしない。それも慣れている。だが、もう少し優しくしてくれてもいいのでは?
「おいお前。」
「…」
「おいっ、3回回って鳴け」
「っ…」
何なんだこいつは本当に。
私は人間だ。
犬でも猫でもなんでもない。思考を持って行動する人間だ。
そんな奴隷みたいなあつかいされてはたまらない。
というかこいつはほんとに誰なんだ。
「…誰ですかっ」
私はどこにいるかも分からない悪魔様に睨みつける。
「だから俺は大悪魔だ。」
「…」
話にならない。帰っていただかなければ。
そもそもどこから声出してるんだこいつは。
「なんでいうこと聞かねぇんだよ…俺はサタナキア様だってのによ…」
いきなりカリカリされても困る。
私はこれからランニングしに行きたいのだ。こんなやつに構ってられない。
頭のおかしい奴と自分の健康だったら死んでも後者を選ぶ。
頭のおかしい奴と関わってはいいことなんてひとつもないだろう。自分に不が飛んでくるだけだ。
「あの…どこにいるんですかっ。迷惑です。どっかいって…ください。」
「なんでだよ。俺がお前なんかの言うこと聞くわけねぇだろ。脳みそ腐ってんのかい?その顔と一緒にババァになってんじゃねぇのかい?」
「…あなたに拒否権ないですよねっ」
脳みそ腐ってるとか顔と同じく頭の中が老化してきてることも否定しなくはない。
だが!ここは私がお金を払って私の部屋として貸してもらっている場所だ。私の部屋なのだから、私の居場所なのだから、だいいち、ここのアパートとは全く関係の無いこの自称大悪魔様には放っから拒否権はないのだ。悪魔だろうがなんだろうがここは私のお金で払って貰っている場所だ。勝手に入られては困る。
『赤の他人だろうが悪魔だろうが勝手に家に入ってきたら金をとれ。』
じぃちゃんがそう言っていた。
なぜ悪魔なのだろうと疑問に思っていたが今その疑問が吹き飛んだ。
そもそも声の出どころがわからないから入ってきているのか外で話しかけてんのかもわからない。
もちろん、部屋の中にいたら即警察行きだ。
『住居侵入罪』で逮捕されてしまう。いや、逮捕してほしい。そして金をとる。
この人はほんとに頭がおかしい。どこにいるのだろうか。
「…どこにいる…んですか…」
「なに?会いたいの?顔合わせたいの?」
はて、私はそこまで欲張った質問をしただろうか。






