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Knight and Maid  作者: 白狼 ルラ
6/7

はじまりと暗示 06

「背は俺と同じ位で、シルバーグレーの短髪でガッチリした体格の若い男。この店に度々通ってたって聞いたんだが知らないか?」

 酒場の店主は厳つい顔を更にしかめていた。

「一日にどれだけの客が来ると思ってるんだ? 一々顔なんて覚えてる訳ないだろう」

 やっと探り当てたジェイの足取りだった。簡単に引き下がる訳には行かない。

「あ、そうだ。左目の横ら辺に小さい傷跡があるんだ。一人じゃなく、若い女と一緒だったかも知れない」

 店主は渋い顔をしながらコップを拭いていたが、それを聞くと何か思い当たる節があったらしい。

「あの変な客の連れかもな」

「変な客?」

「黒いフードを目深に被った客が居たんだよ。見た目じゃ解らなかったが、確か声色は若い娘だった。怪しいからそれとなく見張っていたんだが、店の端のテーブルに陣取って、相手の男に緑色の小さな瓶と何か本を渡してたな」

 小瓶は兄が調べている物に間違いなさそうだった。

「本ってどういうやつだ?」

「これくらいの大きさの紙を紐で綴ったみたいな物だったと思うが、はっきりと言えないね」

 店主が示したのは便箋を二枚合わせた位の大きさだった。

「何を話してたか解らないか?」

「さあ、王族騎士がどうとか話してたかな」

「そのフードの女は、俺の肩位の背の黒髪で体つきが豊満なやつか?」

「だから、見た目じゃ女か解らなかったって言ってるだろう。背はその扉の横にある飾りの高さだったから、あんたの肩より高いはずだよ。探し人とは違うんじゃないか」

 ジェイと一緒に居たのはどうやらアルじゃないらしい。仲間だったら顔を隠す必要はないだろうし、そんな格好をして目立つような事はしないだろう。思い当たるのは、例の人形の件の重要な情報を持っているという人物くらいだ。

 これ以上の情報は望めないと諦めてケイの居る店へと向かった。昨日、今日と走り回って掴めた情報はこれだけだった。時間があっても地の利がない自分には、これが限界だろう。

 程なく前に会った遊技場に辿り着いたが、店内をぐるっと見渡してもケイの姿は見当たらなかった。何か有力な情報を手に入れられているといいがと心配しながら、一人グラスを傾けた。

「なあ、あんた!」

 声を掛けられ振り向くと、すぐ傍にまだ少年的な雰囲気を残した男が立っていた。

「この辺の人買いの奴らを知らないか?」

 思わず口の中のものを噴出す所だった。見知らぬ相手にするには余りにも無防備な質問だ。もしも俺が王族騎士団だったら捕まえるだろうし、人身売買の組織の人間だったら金のなさそうなこいつを相手にしないどころか、上手い事を言って彼自身を商品にするだろう。

「いや、知らない」

 答えると同時に男の影から視線だけを動かして店内を見回し、何食わぬ顔でカウンターに顔を戻す。こんな話を大きな声でしていたらこちらまで裏の社会に顔が利く人間か、裏に興味がある人間だと疑われる。

「ここに詳しい奴が居るって聞いたんだが、悪かったな」

 チッと小さく舌打ちするのが聞え、忠告するべきか一瞬だけ悩んで振り返った。

「あんた、そういう話は――」

 あんまりしない方がいいと言おうとしたが、既に男の姿は見えなくなっていた。何だったんだと首を捻っていると、どこに隠れて居たのか暗がりからケイが姿を現した。

「行ったか」

「おい、何なんだあいつは?」

 ケイは隣の椅子にドッカリと腰掛け、煙草に火を点けると煙を大きく吸って吐き出した。

「解らん。あの感じだとお仲間と言う訳でもなさそうだしな。どっかの阿呆の金持ちが雇ったんじゃねえか」

「それにしたって、アレじゃ危ないだろう」

「その内、諦めるだろう。素人に見つかるような奴らなら苦労なんてするか」

「それはそうだが」

 ケイは短くなった煙草を灰皿に押し付けると荷物を持って立ち上がった。

「まあ、俺を探し出した位だからな。あながちズブの素人ってんじゃないのかもな。とにかく、また来ないとも限らない。宿に移るぞ」

 酒代を無造作にカウンターに置いて片手を軽く上げて合図をすると、店主が愛想笑いで応えた。

 二人連なって裏路地から大通りへ抜け、宿へと足を向けた。近頃は日が延びたお陰でこの時間でも辺りは明るかった。

 城に背を向け商店を覗く振りをしながら、互いに距離をとりつつ周りに居る人間を警戒して進む。店で声を掛けて来た男の姿もこちらを意識している人物も居ない事を確認すると細い路地に体を滑り込ませ、何度も折り曲がってその塀の前へと辿り着いた。ケイも少し間を置いて合流した。

 塀の左下辺りをグッと力を入れて押すと、ブロック塀の様に加工された木戸が開いた。子供なら屈まずに入れる位の高さと幅だが、大人には窮屈な扉だった。そこは宿と呼んでいるアジトの一つで、入ってすぐに地下へと向かう階段が顔を覗かせる。扉を閉めて裏側に設置されている棚からランプを取り出すとマッチを擦り火を点した。

 階段を下りた先にはいくつかの部屋が仕切られている。街の宿屋と遜色ないほどの設備が整えられているが、ここには地下水路の一部が流れていて、試した事はないが水中を通って街の外へ抜けられるらしい。水路のお陰で年中湿気てるのが難点だが、他の客を気にしなくていいと言う利点もある。

「で、二人の情報は何か掴めたのか?」

 誰がいつ補充しているのか知らないが、棚一杯に詰められた缶詰などを物色しながら尋ねると、酒瓶の栓と格闘し終わったケイは軽快に喉を鳴らしながら酒を飲み、一息吐くと椅子に体を凭れた。

「王族騎士団に入隊していた様だが、どこの所属かは掴めなかった。それ以降の足取りも解らん」

「入隊って、何でまた」

「おそらく潜入調査の依頼だろうな」

「密会していたという女の依頼かもな。黒いフードで顔を隠していたそうだ」

「アルじゃないのか?」

「特徴からすると違う。例の人身売買の情報屋かも知れないし、別件の可能性もある。その女から本と例の枯れ木入りの小瓶を渡されていたらしい。その本が手に入れば大きな手掛かりになるだろうが、二人のどちらかが持っているのか、あるいは……」

「その情報のせいで消されたか、か? ここら一帯のアジトに手掛かりらしき物は何も残ってねえし、連絡も無しに軽率な行動を取る様な奴らじゃないんだがな。どうなってんだか」

 ケイは酒瓶の残りを一気に飲み干すと、苛立ちを隠せずにテーブルに叩きつけた。二人の身を案じているのは彼だけでは無かったが、それを言ったところで意味はない。

 先に沈黙を破ったのはケイだった。

「ついでにレッドウルフの件を聞き込んだんだが、例のメイドが城の近くで度々目撃されてる」

「城に出入りしてたのか?」

「レッドウルフのお遣いとしても妙だ。しかも一緒に居たのは王族騎士第一兵隊の者じゃないかってよ」

「おいおい。第一兵隊と言えば少数精鋭の幻の集団だろ。その存在を知っている者すら数えるほどだって聞いたが、間違いないのか?」

「ああ、確かな情報筋だ。だが、ただのメイドが接触する相手ではないよな」

「そのメイドが第一兵隊の身内って事か? まさか、レッドウルフが暗殺される道理もないだろう?」

「ありえん。あの正義感の強い男を暗殺しろと王が命令するとは天地がひっくり返ってもない。それに何より、家中の者が殺害されてるのを忘れるな」

「賊の仕業に見せかける為にしたらやり過ぎだな。どちらにしても王族騎士団を調べる必要ありってことか」

「できれば避けたいが、情報がこんな曖昧な物しか手に入らないって言うのもどうも変だ。先入できる人間を手配して貰っている間、俺はレッドウルフ邸まで足を運ぶ」

「俺も一緒に行くよ」

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