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Knight and Maid  作者: 白狼 ルラ
2/7

はじまりと暗示 02

  アスケードへ向かう途中の街まで一日半。いつもの様に愛馬を預ける為に馴染みの酒場へと足を向ける。他の村々と違い交易が盛んなこの街では、多種多様な目的を持った商店が軒を連ね、必要な物を手に入れるにはうってつけだ。

 ここ数年で新たに広い街道が整備された為、人が溢れ返って活気付いていた。近頃は治安の悪化が心配され、警備体制が強化されたと耳にしたが、半年前に訪れた時と代わり映えはしなかった。

 酒場の裏手にある厩には既に数頭の馬が預けられて居たが、シルフィーほど美しい栗毛の牝馬は居ない。馬房に縄を繋ぐと彼女は別れを寂しがり顔を摺り寄せて来たので、労いの言葉を掛け優しく撫でてやった。店の裏扉を軽く手の甲で叩いて合図をする。

「あら、いらっしゃい」

 すぐに扉が開かれ陽気な喧騒で満たされた店内に迎え入れられる。愛嬌と妖艶さを兼ね備えたメアリーは、真っ赤に彩られた唇の端を上げ目を細めた。

「いつもの部屋を借りるよ。それとシルフィーを頼みたいんだが、キットはどこだい?」

「鍛冶屋のラリーの所へお届け物。すぐに戻るから伝えとくわよ。鍵はコレね」

 店が混雑していた為、メアリーは鍵を渡すと客に呼ばれてさっさと行ってしまった。

 カウンターを通り抜けて階段に足を一歩掛けた所で、背後から駆け寄ってくる足音が近づいて来る。

「クリス! 会いたかったわ。ずっと待ってるのに、なかなか顔を見せてくれないんだから!」

 振り返ると店を間違えているのではないかと疑うような派手な化粧と胸元がはだけた服を着た女性が目の前に立っていた。

「やあ、ジュリア。居たのか」

「ねえ、クリスも私に会えなくて寂しかったでしょう? もっと会いに来てくれたらいいのに」

 ここにも厄介な女性が居たのをその甘ったるい声で否応なしに思い出させられる。ジュリアはするすると腕に絡みつくと、無遠慮に体をベタベタと触って来る。さり気なく彼女から体を引き離し、後退りするように階段を上る。

「俺も暇じゃないんでね」

「ひっどーい! クリスのために尽くしてるのに、こんな扱いあんまりだわ!」

 頬を膨らませ、腕組をする彼女に思わず顔が引きつりそうになる。

 仕事上、大量に送られて来る書類や荷物の仕分けなどをメアリーに頼んでおり、その補助をジュリアが行っている為、彼女の口からこう言った台詞が出る訳だが、出来れば関わり合いたくないのが本音だ。

「もちろん、(ジュリアにも多少は)感謝してるよ。で、俺宛の荷物はどこだい?」

 余計な言葉は胸にしまい、顔にも出さない様にしながら聞くと、ジュリアは少し不満そうな顔をしていたが、先立って階段を上って行った。

「青い封筒類は引き出しにしまってあるわ。それ以外は預かってるけど、全部見る?」

「いや、今日はコレだけで後はまたにするよ」

 鍵を受け取り、そう答えていると階段を見覚えのある体格のいい男が上って来た。

「あ、あの、お、俺、コレ、あ、あの、預かった……」

 そういって小包をこちらへ向かって差し出した。全身が煤で黒く汚れ、所々に焦げ穴の開いた服をまとい、髪もボサボサでいつも何かに怯えるように背中を丸め、オドオドした動きや話し方をしている。彼はラリーと名乗り、町外れにある鍛冶屋で働いている――と言うことになっている。

「ありがとう、ラリー。手伝って欲しい事があるから部屋まで来てくれるか?」

「あ、で、でも俺、あ、あの、ジュリア、会いに」

 そう言って彼がジュリアの方をチラッと見ると、彼女は一瞬だけ眉間に皺を寄せ、ニッコリと微笑んだ。

「私、まだ仕事中なの」

 そういい残して階段を下りかけたが、何か企んでいる様な笑顔で振り返った。

「後で夕食を持って行くわね、クリス」

 その言葉で、以前も二人きりになった時に無理矢理に膝の上に乗って来られた情景が頭をかすめた。

「じゃあ、ラリーの分も頼むよ」

 ジュリアはラリーの方をちらりと見たかと思うと怪訝そうな顔をして無言で立ち去った。

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