表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ああ、水素水!

作者: ひねり

『あなたの生活に潤いのある水素を!』

『水素を取り入れることで健康な体を作り出します!』

『一日一水素!』

 昨今の水素水ブームは苛烈を究め、人々の生活に水素が溶け込み社会現象と言えるまで拡大した。テレビでは連日その素晴らしさを褒め称え、商店では関連商品がバカ売れ。誰もかれもが水素の虜となっていた。

 水素水の有用性が人口に膾炙し始めた頃、俺はマユツバものと決めてかかって信用してなかった。だいたい、水素という目に見えないようなものに効果を求めるなんてナンセンス。マイナスイオンやらゲルマニウムやらと同様、効果があるのかあやふやなものだと思っていた。

 だが、それは過去のこと。

 妻に勧められて、しぶしぶながら水素水を飲んでみた。

 すると、偏頭痛がみるみるうちに治ったのだ!

 長年俺を苦しめていた頭痛が、水素水を飲んだだけできれいさっぱりなくなった。薬を飲んでも一時的に治まるだけで根本的な解決にならなかった頭痛を、水素水は取り除いてくれたのだ。

 この瞬間から俺は、水素水の虜、いやさ信者となったのだった。


 世の中は水素を求めている。病める現代の闇を取り払うには水素の力が必要だ。

 そんな声に呼応するかのように、水素を取り入れた商品が次々と開発され、日常のあらゆる場面で水素に触れる機会が持てるようになった。

 かく言う俺ももはや水素から離れられない生活となっている。

 朝は寝起きにコップ一杯の水素水を飲む。瞬間的に寝ぼけた頭が覚醒する。

 朝食はご飯に納豆、味噌汁。それらに粉末水素を振りかける。粉末状になった水素はあらゆる料理に水素をプラスできる画期的な調味料だ。

 通勤には水素カー。排気ガスの代わりに水素が放出されるので、人体にとてもいい。

 外回りの仕事で汗のニオイが気になるなら、水素スプレーを吹きかけるといい。ニオイの元となる細菌の繁殖を防いでくれる。

 事務仕事なら水素ボールペンは必携。インクに溶け込んだ水素は滑らかな書き味を実現し、乾くのが早いので手が汚れない。筆記の多い現場で大好評!

 忙しい合間を縫ってのエネルギー補給に、スイソーインゼリー。ゼリー状の水素が素早く体内に吸収される。固形物が欲しければスイソーメイトという選択肢も。ブロックタイプの水素だ。チョコレート味、チーズ味、フルーツ味と飽きさせない味のバリエーションがある。

 仕事終わりの一杯は水素ビール。アルコールの代わりに水素が入っている。泡立つ水素の辛さが喉をきゅっと通り抜ける。

 妻が作ってくれる夕食はもちろん水素尽くしだ。水素炊き込みご飯、水素漬けきゅうり、水素の刺し身にわさび水素をつけて。初物の水素はやはり味が違う。

 デザートには水素ヨーグルト。活きた水素がそのまま腸に届き、腸内環境を改善する。


 食後に一服しようと席を立つと、妻が声をかけて来た。俺にプレゼントがあるらしい。

 渡された小さな包みを開けてみる。

 それは発売したばかりの水素タバコだった。

「これ、超人気商品で予約が二年待ちじゃなかったか」

「友人が譲ってくれたの。よかったらこれ吸ってみて」

 煙に含まれた水素を吸い込むとリラックスと共に健康を手にすることができるアイテムだ。発売と同時に注文が殺到し、あっと言う間に品切れとなった。一度味わってみたいと思っていたものの、望みは薄かった。

 妻の愛情に心から感謝し、家の外に出る。

 一本取り出して口にくわえ、ライターを近づけた。

 ボンッ!

 一瞬でタバコが火に包まれたかと思うと、水素を取り込み過ぎた俺の体に引火して爆発した。

(了)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] もう、Hなんだから……
2016/06/28 13:27 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ