お前に食わせるチョコは無い。
「あ、おはよう・・・」
クラスの友達に気のない挨拶をしながら工藤誠は席に着いた。
「お〜、工藤!今日何の日だか知ってるかぁ?」
隣の席の河本が話しかけてきた。
「え?えぇっと・・・何だっけ?」
わざと知らないふりをした。
「バッカだなぁ、こんな日忘れるってお前大丈夫か・・・?」
『バカなのはお前だよ』と思いつつも誠は言った。
「わかってるよ。あれだろ?バレンタインデーだろ?」
ご名答!と言う河本。それを尻目に誠は机の上にへばりつき始めた。それからも川面とは話しかけるが誠はほとんど聞いていなかった。正直なところ、誠にとってバレンタインデーなどどうでも良かった。18年間の今までこの日は全然いいことが無かったからだ。
「あ・・・工藤君」
声の方へ顔を向けると、ドアの向こうに女の子が立っていた。それを見て気だるそうに誠は立ち上がる。
「おい!・・・ちょっと待てよっ!」
あまりにもだらしなさそうだったので河本が引き止める。
「な、なんだよ!」
「おいおいおい・・・お前、あんな子といつ知り合ったんだ?」
「しらねーよ」
「何だよぉ・・・しゃーねーなぁ・・・ま、がんばってこいや!」
バンッ!と思い切り背中を叩かれ見送られた。
「く、工藤君・・・」
「何?」
ぶっきらぼうに誠は振舞った。
「あ、あの・・・こ、これ・・・」
震える手にはチョコレート。『こんな大胆なのありかよ』といぶかしみながらも内心少し嬉しかった。・・・が、それも少しの間だった。
「こ・・・これを、か、河本竜司君に・・・」
そう言い残し、全速力で逃げてしまった。
「な・・・何なんだよ・・・」
ぼそりとつぶやいた。
「おぉ〜い!誠!!どうしたんだ??」
思考が回復するまで数分かかってしまった。元通りになってから落ち着いてチョコを渡す。貰った河本は今までにありえないくらい喜んでいた。
「わぁい!!!チョコだぁっ!!!」
その叫び声は授業中にもしばしば聞こえてきて教師に何度も注意を受けた。もちろん笑いの的になったことは言うまでもない。しかし、本人にはまったく関係なかった。
「はぁ・・・」
逆に誠は休み時間ごとに呼ばれるものの、結局は別の人に渡して欲しいと請け負っただけだった。だが、その度に淡い期待をする誠はバカであった。
「はぁ・・・これで11回目か・・・」
「おぉ!今年も記録更新しそうだなぁ!」
机と同化しそうなほど張り付く誠。それを異様なにやけ顔で河本が見つめる。
「うっせーなぁ・・・どっかいけよ」
うひゃうひゃと異様な笑い声を上げながら河本はどこかへ行ってしまった。昼からの授業もまったく精が出ない。『まったく・・・なんで俺だけが・・・』
キーンコーンカーンコーン・・・
とうとう今日の学校が終わってしまった。
「あ〜あ・・・」
大きな溜め息をつきながら誠は帰ろうとロッカーの荷物を片付けていると平たい箱がぽとりと落ちた。
『こ・・・これは・・・!』
辺りを見回し、自分のロッカーからこれが落ちてきたことを改めて確認すると、それを急いでかばんにしまい、全速力で帰った。
ようやく部屋までたどり着いた誠は、ドアに鍵をかけ、机に向かった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
あせる気持ちを落ち着かせ、かばんから『例の物』を取り出した。
「あ、明らかに・・・チョコだよな・・・」
嬉しさのあまり誠は叫んだ。
「とうとう俺にも・・・この、俺様にもぉっ!」
耳が熱くなるのを感じる。落ち着こうとしてもどうしても指が震えてしまう。
『えぇい!やけくそじゃ!!』
やっきになって箱を破いた。中には確かにチョコが入っている。それともうひとつ。
「手紙・・・?」
小さな紙切れのようなものが入っていた。それをゆっくりと開き見た。見たとたんに凍り付いてしまった。そして倒れる直前に彼は叫んだ。
「河本ぉっ!!!!!!」
久しぶりの小説なので、少しだけ緊張だったり…まあ、まだまだだけどね(笑)これからも頑張れるように頑張りますっ!自分自身のためと、こんな自分を見てくださる数少ない読者様のために…書いてたら日にちが変わってしまった(汗)