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fuwa-mofu!!?  作者: ふなむし
7/21

七本目:猛禽老人と毛玉乙女

あ、頭と心臓がおかしくなりそう!!!



私はあの睡蓮の池を渡り切り、そのまま寝床がある部屋へ走っていた。

初めての場所、似たような扉や壁、視線の変化が有ながら、私の足は淀みなく目的の部屋へ向かっている。


そして今更だが、誰にも合わずに私はパタパタと廊下を走っている…。



「…変…なノ…」



不思議に思いながらも私は探検を開始しようとは思わなかった。

だって、キケン!これ以上はキケン!!

早くあの座布団の上に…って、私の今の姿じゃダメじゃん!!!

どどどどどど―――しよ…!?



「私、昨夜の毛玉でーす!」

「そうか、毛玉か!」

「「あははははははははは…!」」



…んな訳、あるかー!!そんな平和な…!


と、とりあえず…落ち着きたい。落ち着きたい。

幸いな事にもう扉は目の前だ。だから、この扉を開けば…!


そう思って、私は宛がわれた部屋の扉を勢い良く開いた。

そこに、私の望む静かな闇が待って居ると、


信じて……




「…厠を探していたのですか?厠の位置は説明してませんでしたよね?」




窓辺の私のからっぽの寝床を足元に、お爺ちゃんはチラと私の方を僅かに振り向いて、静かに声を掛けて来た。



「おじぃチャ…!?」



そんな!そんな!そんな!そんな…!来るのは朝じゃ…!?


そして驚愕の表情で固まった私に、お爺ちゃんは月明かりを背にこちらに歩いてきた。

逆光でお爺ちゃんの表情が分からない…。私の顔は酷く…歪んでいると思うけど…。

やがて私の目の前に来ると、私の視線に合わせてお爺ちゃんは屈んできた。


向かい合って絡んだ視線…。


私は思わず喉を鳴らしてしまったけど、お爺ちゃんの表情は…特に変化が見られなかった…。

もしかして、私がこの部屋から外へ出る事は想定内…だった、とか?



「…なるほど?月使"殿"は前世は"人"だったのですね?だから私達の言葉が理解出来ていたのですか」

「…エ…?あ…」

「まぁ、その毛の"薄蜜色"から性別としては"女"だとは思っていましたが…」

「……知ってルノ?」

「僅かですが、書物で」



呆然とした私にしてくれたお爺ちゃんの説明だと、毛の色が薄蜜色は"女"、薄氷色は"男"の月使なのだそうだ。

そして、あの毛玉が本来の姿だが、満月中に月光を沢山…一定量浴びると、私みたく前世の姿に一時変化出来るのだそうだ。

つまり、私は"人"だったから、こうして"人"の姿になった、と。猫なら猫、犬なら犬、って事なんだね。



「…も、戻ルには…?あの、毛玉に戻るニハ?」


「さぁ…?その内、戻るのでは」



そ、そんな!?何てアバウト!!



「…慣れない、あの毛玉に早く戻りたいのですか?」

「アの、その………ハイ…」



だって、この姿は…何となく、不味いもの。

自分の容姿をちゃんと確認したわけではないけど、髪の毛はこんな…膝より長くなかったし、色だって薄い黄色…プラチナブロンドみたいで…。

人の姿なんだけど、私じゃないみたい…。



「…………」


「月使殿?」



俯いた私に、お爺ちゃんが声を掛けてきた。



"月使"…。

これは、私の名前ではない…。

もし、名前を持っていたら……あの奏者に、私は………?



そう思った瞬間、私はこんな事を口走ってた。



「わ、私ニ、名前、下サイ!」



私の突然のお願いに、お爺ちゃんは一つも表情の変化を見せずに真顔で私に答えをくれた。



「…貴方に名前を付けるのは、私ではありません」


「…?」


「その役割は、この国の皇子…エン様です」

「!?」


「貴方は燕様の月使になるのです」



な、な、なんですと――――!??



「ところで…月使殿はなぜ、この部屋を出たのです?…まさか本当に"厠"へ?」



厠…。トイレ、って事だよね?…違うよ。もちろん、違う。

…嘘…ついてもしょうがないし、説明して素直に謝ろう…。

私はそう決めて、緊張の為に乾いた唇を一舐めしてから、お爺ちゃんへ口を開いた。



「…厠、チガウ。笛の音が聞こえてキテ…。素敵な音も元が…演奏者が気になっタノ、気持ち抑え切れナクて…。ごめなサイ…」

「笛の音に誘われた、と?」



私はお爺ちゃんの言葉に、頬が熱くなるのを感じながら一つ、頷いた。

"斯季"と名乗ってくれた、あの奏者…。


そうだ。燕…様?燕様が私に名前をくれたら、今度はあの斯季って人に…名前を言えるかな?

まぁ、直ぐ傍では無理だと思うけど…。遠くから…声をかけたり………とか。

……って、私は…何を…!何を考えているの…!!?


益々顔が熱くなってしまった…。


そして一人「あぅあぅ」と訳の分からない言葉を発し始めた私に、お爺ちゃんは淡々と質問してきた。



「…奏者は分かったのですか?」


「分かタ…。オトコのヒト…」


「それで?姿は?」

「…全身、鎧…」


「…気になりますか?」

「…なります…」


「…………そうですか」


「…?」



お爺ちゃん、急にどうしたの?

何で、少し困った様な…?初めて…表情の変化を見た気がするよ。



「…………」

「…………」



お爺ちゃん?

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