四本目:透明な檻
―…コンコンコンコン…コンコンコンコン……
「…………」
―…コンコンコンコン…コンコンコンコン……
入ってます。私が、入ってます。
―…コンコンコンコン…コンコンコンコン……
あー、もう!このスーパーお爺ちゃん、真面目な顔で器をさっきから"コンコン、コンコン"としつこ…
「…きゅ、きゅきゅ~?」
…い!?
へ?え?は?ひ?ほ?
い、今…お爺ちゃんは何か口にしました???
「おお?犀は月使の言葉が話せるのか!?」
陛下の瞳が輝いて見える…。すっごい、おじいちゃんの方を期待と羨望が混じった目で見てる…。
「…いえ?まさか。試しただけです」
で、で、ですよね――――!?
あー、ビックリしたぁ。
「きゅ」
"ねぇ"と軽く呼びかける感覚で私は透明な器の中から声を上げた。
「おお、鳴いたぞ。…腹でも空いたか?」
ん?う~~ん?お腹…空いてるのかいまいち分からないんだよね…。
でも、何かくれるの?くれるなら、欲しいなっ!
私はそんな気持ちも込めて、"ぱか"と口を大きく開いた。
そして私のそんな動作を見て、陛下は「そうか、そうか」と満足気に頷いて目を細めた。
はー。美形の微笑みは目の保養に良いわね~。
だけど、申し訳ないけど陛下はこれ以上私に近づかないで?
そう、透明な器に居る私と、陛下の間には2mは距離が有る。
そして、私は分かったの。
男性でも、お爺ちゃんクラスの年齢の人は大丈夫だって。
だから、今の所アウトゾーンは20~50代…って辺りかしら?
お爺ちゃんは実際は分からないけど、見た目60歳以上な気がするから、とりあえずセーフ?
上はそんな感じで下は…まだ出会っていないから、分からない…。
この世界で出会った人物達は皆、成人してそうな年齢だしね。この部屋に控えている女官らしき幾人かの女性も、人だった頃の私より年齢は高め…な気が。
そして男の人も女の人も、皆揃って美形。美形で溢れかえっている。すごいな。壮観!
そんな中、私は器の隣りに立ってる猛禽的美形なお爺ちゃんを見上げた。そう…鷹の様な鋭い眼光…。何だか捕食されそうでムズムズする…。
「…………」
「…………」
そして何となく…無言。
変に見つめ合ってる?私達に大型犬的美形の陛下が話しかけてきた。陛下のイメージは"シェパード"かな?
「何が好みなのかな?…これはどうかな?」
「桃、ですか」
え?桃?
陛下の手にいつの間にか桃が存在していて…ほわんほわぁん…と甘い香りが…。
良い匂いだし、食べたい!!
匂いで一気に食欲をたきつけられた私は、大口を開けてその場で跳びはね、桃が欲しい事をアピールした。
あ~ん…!カムカム、カムヒア!!ぷりーず!ぷりーず!!
「…欲しい、って事でしょうか?私達の言葉や行動を理解してる…のですかね?」
「おお?そうならばかなり楽ではないか!犀、この桃を早く月使に与えてくれ」
「分かりました。では…」
陛下の言葉にお爺ちゃんは私から透明な器を取る際、「…桃をあげるので、逃げてはいけませんよ?」と話し掛けて来た。
合点!合点!お爺ちゃんなら、近くに居ても大丈夫だから!パニックにはなって逃げないよ!
私はその場で大口を開けてポンポン小さく飛び跳ねて、催促と承知を表現した。
そしてそんな私についに桃が迫ってきた。視界が桃に占領されてく!
私は頭上から迫ってきた良い感じに食べ頃感が出ている桃に、パン食い競争よろしく、下から飛び跳ねてかぶり付いた。
そして…"ちゅるん"と吸って丸呑みをし、桃を体内に一気に取り込んだ。
取り込んだ際、自分より大きい桃が"しゅるん!"と勢い良く収縮して無くなった…と、そんな感覚が私の中に広がった。
一瞬で無くなったにしては確かな「食べた」という、満足感があり、私はその場にへちゃり、と身体を弛緩させた。
「ま、丸呑みしたぞ!?」
「蛇みたいですね」
ああー…甘くって、ジューシーでヒンヤリしてて…大変美味しゅう御座いました~。
…あ。種や皮も食べちゃった。ま、皮は洗って直ぐにそのまま食べた事もあるから、多分だいじょーぶでしょ。…種は知らないけど。
桃を食べ終わっても動かない私に、お爺ちゃんは「ふぅむ…」とどこか感心を含んでそうな呻り声を上げてきた。
「やはり、言葉を理解してるのですな」
まーね。
「きゅ。きゅ。きゅ~♪」
「………」
美味しい大きな桃を食べた事でテンションが上がって、何となく声を出してパタパタと尾を動かしていたら…
―かぽ。
あれ!?また透明な器に閉じ込められちゃいました!??