十九本目:大きな桃の試練
『お爺ちゃんに、相談事があります』
「それは何ですか? 珠々」
犀お爺ちゃんの言葉に、私は紙の上に書かれた文字の上を一つ一つ移動して言葉を紡ぐ。
そう…私は成人男性が苦手な理由を、どう伝えた方が良いのか、お爺ちゃんに相談したいのだ。
あ。ちなみに玄は今は同じ部屋だけど、お爺ちゃんとは別な机で朔兄さんと友達に手紙を書いている。
朔兄さんんは、ここに留まるという事とちゃんと犀お爺ちゃんに果実の砂糖漬けを渡したという文。
そして、友達の方も似たような事だが、私を触らせていない侘びも含んだものらしい。
まぁ…サクサクとここまで戻ってきちゃったからね。
いつか玄と朔兄さんの屋敷に戻った時にでも、その友達に私を触らせると良いよ!
その時は黙ってさせて上げましょう! ええ!
そして私はお爺ちゃんに自分の悩みを、また文字上を一つ一つ移動して何とか胸の内を伝えた。
『燕様や、他の人達に成人した男性が怖いとやんわりと説明しようと思うのですが、どうしたら良いですか?』
伝え終わり、「きゅ」と言いながら身体を曲げてみれば、お爺ちゃんが「ふぅむ?」と考え出してくれた。
「……そうですね。では、この様に説明されては?」
「きゅ?」
私はお爺ちゃんが答えを口にしてくれる事に、緊張が走った。
そして、それは…………
「―……以前、成人男性に無理矢理に毛を全部むしり取られそうになったのがトラウマに変化して、ダメになったそうです」
……何となく、ちゃんと駄目になった理由を踏んでいる様な理由ですね、犀お爺ちゃん……。
『毛 = 服』と考えれば、まさにその通りです……。
「そんな事があったのか……」
まぁ、ありました。微妙にズレてますが。
「きゅむ~~……」
私は燕様の手の平でコロリとその場で一回転しながら、答えた。
未だに囚われいる、その内容に私は無意識に鳥肌がゾワゾワと生まれた。
「ぅきゅ~~~」
「珠々?」
……でもでも燕様! 珠々は斯季様と"特訓"をするのです! そして、見事、成人男性恐怖症を克服するのですよッ!!?
「きゅ!」
「何だ? 珠々?」
そして私は"テテテー!" と燕様の腕を登り、肩に陣取ると鋭い鳴き声を上げた。
「きゅ―――――――――――――――――!!!!!」
一年後、成人を迎えた燕様の傍に安全・確実・忠実に居る事が出来る様に、珠々は……珠々は……
全力で取り組みますよ――――!!!!
―……と、意気込んでいた時代が私にもありますた。
その夜、斯季様の横笛に誘われて、私は毛玉のままで例の蓮の池にやって来た。
そして現れた私気が付くと、斯季様は笛を吹くのを止めて笑顔をくれたの。
正直、笛の音が終わってしまったのは残念だけど、斯季様が笑顔をくれたから、毛玉の私は遠巻きに悦びにはしゃいで転がり捲くってしまったわ……。
斯季様はそんな私に「珠々殿、珠々殿……」と声を掛けて来たので、私はその回転のまま彼の近くまで行き、とある存在に気が付いた。
斯季様の手には、とってもとっても美味しそうな大きな桃が……。じゅるり……。
ああン! そ、その場に置くか、"ポイ"とこちらへ投げて下さい!
そんな意味を込めて、「きゅ! きゅ!」と尾で地面を"タシン! タシン!"と叩いたり、大きく口を開けてウロウロしたりして意思表示をしたのだけど、斯季様は桃を持ったまま、笑顔を崩さずにいた……。
……きゅぅ……。桃、食べたいです……。
そして今度は私は黙って動かずに、一定の距離を保って斯季様を"じっ……"と見た。
お互い見つめ合って、どの位、時が経ったか……案外、長くは無いその時を経て、やっと斯季様に次の動きが……。
「……さ、桃を食べさせてやろう。珠々殿、こちらへ」
……え。突然、ハードル超高くないですか!? 斯季様!?
だって、何で"手"から、なの…………!?
「さぁ、早く。この桃はとても美味いぞ?」
「……………………」(汗)
で、でしょうね!? だってフリフリすると、甘い芳香が……! 超、熟れ時!! 食べるのにはベストな頃合!
案の定、私は動きたくても、上手く動けない……。 タシタシと、足を伸ばしたり下ろしたり……そんな怪しい上下運動を繰り返していた。
そして、斯季様の次なる言葉がスルリと、"当然"の色を孕んで私に投げ掛けられた。
「良いか、これは、"特訓"、だぞ? だから……、さぁ!」
「……………………」(滝汗)
"特訓"! "特訓"! "特訓"! "特訓"! "特訓"! "特訓"! (エコー)
「珠々殿?」
「……………~~~きゅぅ!!!」(滝汗&涙)
―……どーしてこ――――なった――――――!?




