十八本目:毛玉乙女と将軍
―…えーと、えーと…会話会話…。
「私、"蓮華の精"だなんて可憐そうな存在じゃないです…」
「そう、か…?」
ええ、生身なんです。実体しているんです。触れるんです。
「では、その…?何だ…?」
「私は燕様のあの毛玉の"珠々"です…」
そう、毛玉なんです。
「あ、の、ですね?将軍を嫌っている訳では無いのです…!わ、私…成人した男の人がとても苦手で…。元は、大丈夫だったのですが!…あの、その、ごめんな…さい…」
「…………」
ああー!私は突然、何を説明し辛い事を口走っているんだ!将軍、固まっちゃったよ!?
…前世…?のあの襲われそうになった体験だって、自意識過剰な事かもと思っていても、身体が反応しちゃうんだよー!
将軍、お願いですからこの事を深くは聞かないで下さい…!変に言い辛いですんでっ…。
あ。そうだ。この事を玄少年や燕様や…慈美様や絽花様にも話さなきゃ!?
だって、この真実を知っているのは犀お爺ちゃんだけなんだもの…!
「それなら、……俺、で…、"特訓"しないか!?」
「…?」
―…今、何と?
「燕様は来年で成人なされる」
知ってる。私より一つ上。
私より、将軍の方が展開が速い…。
将軍は一体何を…?
「…だから、それまでに…成人男性も元の様に大丈夫に成る様に、俺で訓練、していかないか?…珠々殿…」
ぇえええ!?
そーいう展開に持っていくのですか、しょうぐーん!
で、でも!…私だって、ずっとこのままではけないと思う。
燕様はどんどん成長して、私が燕様にくっ付いて行く先々で妙な行動で手を煩わせない為にも、訓練…して乗り越えるのは大事…。
……必要な事、ではないのか?…な?
それに将軍がわざわざ相手役してくれるの?私は…正直、嬉しいけど…。
「…良いのですか?将軍は…お忙しいのでは?」
「大丈夫だ!」
おおっ…。私の言葉に即答して下さるのですか、将軍って良い人ですね!
ならばと私は「宜しくお願いします、将軍」と直ぐに頭を下げた。
だって、元々将軍の事は嫌いじゃないし、仲良くなれるなら仲良くなりたいじゃないですか!
距離は当然まだまだだけど、行く行くは隣りで普通にお喋りしてみたいなぁ…。
それに毛玉の時は、他の人みたいに撫でられたいし構って欲しい。ちょっと、欲張りになりそうです…将軍…。
私がそんな妄想の中、じっと将軍を見ていたら、将軍は「コホンコホン」と二度程咳払いをしてから私に話し掛けてくれた。
「…"将軍"など、役職では無く…"斯季"と、そう呼んで欲しいのだが…」
「は、はい!」
ええ!?名前!?
「さ、珠々殿」
「ぅ、ううう…」
「俺の名前を呼んで…」
「…はぅ!」
そんな斯季…様の、切なげな雰囲気に…クラクラしてきた…!これは"色気"?ねぇ、色気なの!?
急に変なダメージをくらっている私に、斯季様は「さぁさぁ!」と今度は畳み込みを始めて…私は腹に力を入れた。
「し、し、し、しししし、き、しき、斯季…っ、さま…!しッ、斯季様、ししし、し、斯季さまぁ!はー、はー、はー、はー…!!」
「…呼び捨てでも良いのだが…」
「…は!?ぇ!?な、何か…おっちゃいまちたきゅあぁッ!???」
…おーい!私、緊張でカミカミ過ぎだろう!?
深呼吸!しんこきゅうぅうぅ!!!
「…ぁ、あの、改めて、宜しく、お願いしますね?…し、し、斯季様!」
「しゅ…」
「あ!それ以上は…!ごめんなさい、もう帰ります……!」
こちらに来ると分かる斯季様の脚の動きを見て、私は思わずそう叫んで用意された自分の部屋へと走った。
そして、床に入り、頭から布団をかぶって走った事と、斯季将軍とでの事に全身が心臓になってしまった。
私はどこから息をしているのだろうか?
ドキドキしながら、斯季様との特訓の約束を思い出して、私は事の重大さに布団に頭を"ボフボフ"と打ち付けた。
「し、斯季、さまぁ…っ、ししし斯季さま、し、斯季、様…ぅぅう…」
そうして最早涙声になりながら、私は彼の名前を何度も呼ぶ練習をした。
次に会う時は、ちゃんと名前を呼べる様に…
"斯季"様
と…!




