十七本目:毛玉です。人型です。
―…今思えば、確かに似ている雰囲気である…のかもしれない。
「驚いた」
夜、目の前の玄少年に私は第一声にそう呟いた。
月光を浴びて、月蟲で月光ブーストした私は、今は人の姿だ。
玄の為にと急遽用意された部屋には、私の他に部屋の主の玄と犀お爺ちゃん。
「僕も珠々とお爺ちゃんが知った仲だったなんて、知らなかった」
まぁ、確かにそうよね。
そしてこの姿を燕様に見てもらおうと言う事で意見が固まり、私達は早速燕様の部屋へ向かった。
…そうそう、慈美様と絽花様には後日という事にしたの。
実は道中で女官さんや護衛兵さん達とすれ違う度に二度見どころか、五度見位された気がしたけど、そこはこちらがスルーしておいた。
見慣れない私が珍しかったのではないかと…。
だって、黒髪が大多数のこの中で、薄蜜色の髪の毛な私ですから!
容姿はどうしようもないじゃない…。服装は皆の中でも馴染める中華風のヒラヒラした物なのに、フワフワの長い髪は流石に違う。
でも、これが私だからしょうがない…。第一、女の月使は毛が"薄蜜色"なのだ。だから、自分の長い髪がこの色をしているのは凄く当然。
まぁ…視線は慣れなさそうだけど、この姿がここに馴染めばまた変わるよね?
そんな事を考えながら歩いていたら、いつの間にか燕様の部屋に辿り着いた。
そして燕様の第一声は…
「凄い変わり様だな。……本当に珠々か?」
む?燕様ったら、そんな言い方をー。
「珠々ですよ、燕様!人型の時はこうなのです!」
言いながら、燕様相手に腰に手を当て余り無い胸を張って主張!ドヤァ!!
「毛玉も愛らしいけど、こっちも可愛いな、珠々」
「ぐはッ…!」
何だ、この破壊力は!ええ、私の中の何かが破壊されましたよ!?
「う~~ん?その姿では撫でるのは難しいが、会話が楽しめるか」
「そうですね!会話!燕様、いっぱいしましょうね?そして、頭を撫でて下さい!"撫で"も忘れないで下さい!」
「そうだな。珠々は会話や撫でられるのが好きか?」
「え?会話?…分からないですけど、燕様の事をちゃんと知りたいです。私のご主人様ですもん。
それと…撫でられるのは…。好きです。私は、私をそうして構ってくれる人が好きです」
だって私を"たくさん可愛がって撫でてくれる人"募集で、こうしてこの世界に毛玉転生したもので!
燕様相手だと、案外ハッキリ言えるなー。言い易いのかな?
「そうか。なら、頭を撫でるのは重要だな。珠々の事も色々聞かせてくれな」
「はい、燕様!」
結構スンナリと私のこの姿を燕様は受け入れてるけど、何だか本当に大丈夫?
玄と犀お爺ちゃんは私の後ろに立って、私と燕様の会話を静かに聴いているみたい。
そして燕様は結局、毛玉の時の様に私の頭をナデナデしてくれた。えへへ~。
こうして燕様と会話して色々聞けたら、燕様の好きな物を持ってここに遊びに来れる日もあるよね。楽しみ!
それから少しの間だけど、私は燕様と会話を楽しんで別れた。
会話から分かった事は、燕様は『遠乗り』が好きな様だ。
今度どこかに連れて行ってくれる約束をし、私は大満足だ。
別れ際に燕様は私の頭を撫でてくれた。
そして最終的には玄や犀お爺ちゃんとも別れ、私は新たに用意された自室に入った。
私がこうした姿になれると分かったからね。どうやら燕様と会話している間に用意された模様。仕事速い!
そして私の部屋には、大きな窓がある。
これは月光浴をし易くする為にお願いした事で、満足の大きな窓に私は一番最初に近づいて月を見上げた。
月は少し欠けた形をしていたけど、光の量は十分!
ではでは、蟲達に月光浴をさせますか。
この月蟲は燕様から飼っても良いし、増やしても良いと先ほど許可を得ている。
だから私は蟲を玄にお願いして、ここで増やしたいと考えているのだ。
丸い月蟲を置いたクッションの様な物の上に一匹一匹乗せ、月光浴を開始さえる。
正直、"虫"は苦手だけど、この月蟲は大丈夫なんだよね。
そしてこの蟲は大人しいもので、私が置いた位置から動かずに月明かりをその身に受け、ジワジワと発光し始めている。
…もしかして、充電中、って事?
そして月の光が良く浴びれる様に全部の月蟲を置いた時、とある澄んだ音が聴こえてきた。
―…♪…~~~…♪…
「あ…。この笛の音は…」
私は聞こえてきた音に瞳を閉じて、内側に斯季将軍の記憶を呼び覚ました。
じっくり見た事が無い為、実は朧気な記憶を集めて何とか将軍を私は作り出した。
「斯季…将軍…」
音色を聞いているだけで、切なくて、もどかしくて…窒息しそう…。
この僅かに聴こえてきた音だけで思考が停止して、聞き惚れてしまう。
「そうだ。せっかくだから、じっくり…観察に行こう」
私はそう決めて、以前と同じ様に音を辿って斯季将軍の下へ向かった。
前は毛玉だったけど、今は人の形をしている。
そっと見るつもりだけど、見つかって…名前を聞かれたら、今度は「珠々」と答えられる。
将軍も、私のこの姿に驚くだろうか?
それよりも私はちゃんと受け答えが出来るだろうか?
…何だろう。そう、なって欲しい様な…欲しくない様な変な気持ち。
怖いのに、近づきたい。
一定の距離が有れば、成人男性相手でも私は多分…受け答えは出来ると思う…。
その感覚は多分、"数歩離れていて、手の届かない範囲"。4メートル位?
そんな事を考えながら歩いていていたら、私はあの蓮の池に辿り着いた。
素早く辺りを確認して、距離感を保ちつつ、木の陰に隠れた。
そう、蓮の池の周りは計算された様な配置で木が植えられているのだ。
密集している訳ではないまばらな感じだけど、隠れるには十分だと思う。
木肌の独特な感触を手の平に感じながら、私は少し身体をずらして将軍を見始めた。
ドキドキした緊張が斯季将軍を盗み見る行為からなのか、斯季将軍の存在から発露しているのか…両方なのか分からないまま、私は彼を凝視した。
そして簡単に言えば、月明かりの下で将軍は瞳を閉じて横笛を吹いていた。
聞くのは二回目だけど、将軍は笛を吹くのが上手いのだと直感した。
曲名は分からない、分からないけど、綺麗な旋律に、私の脚がムズムズしてきた。
でも、我慢。我慢して、将軍を観察。だってその為に来たのだし!ちょっと遠いかなと思うけど、この距離なら!
そう決めて、私は木の陰から将軍観察を続けた。
「………」
マジマジと見た将軍はとても洗練されている感が半端無かった…。
黒い髪はちゃんと手入れされているのか艶があって、案外長い。あ。後ろで結んでいるのですかー。尻尾みたい。
そして背は高くて俊敏そうな肉体…。とにかく均整の取れた美丈夫って感じ。
……要するに、『メチャクチャ格好良い』。
年齢は良く分からないが、案外若そう…。
髪は黒、閉じて隠れている瞳は何色なのだろう?
この曲を吹き終えれば、その瞳の色が分かると思うけど、この音が終わるのが惜しい…。
ならば、その閉じている目蓋を吹きながらそのまま開いて、将軍…。
―…パキ…
マズイ!そんな思いに連動して、足が前に動いてしまった!
「―…誰か、居るのか…?」
「!!」
な、なんちゅーお約束展開を!…いや、こういう事は太古から脈々と継承されて期待されて使われているから、お約束展開とか認知されていて、ベタだけど結構期待しちゃうんだよねー、何て行き着いたりしてみて!?ぎゃー、私、何を言っているの!!!?
「…そこの木に居るのか?」
言いながら、将軍は笛を服の中に仕舞い、的確に私の方を向いて歩き出して…。 あ る き だ し て … ?
「…こ、こっちに来ないで、下さい…!お願いですから、そこで止まっていて下さい!で、出ます、から…!!」
ええ~い!将軍に来られる前に、自分から出て行けば良いんだよ!男は度胸なら、女だって愛嬌よりここは度胸じゃー!
そして、声には出さないけど、「えぃ、やぁー!」と木の脇に目を閉じながら自身を晒した。
瞬間、音が無くなった。
本当に無音だったのか、私が緊張し過ぎて自動的に音を消したのか分からないが、その世界を破ったのが将軍の驚いた声だった。
「……君は…あの時の…蓮華の精!?」
……私、斯季将軍の中で"蓮華の精"化してたのですね…。
でも何だかそれは…ムズ痒いです…。
はひー。




