十六本目:おっとり世話役と、ちょこまか姫
そして現れた慈美様は開口一番…
「…私があんなに、あんなに、あんなに…珠々の世話をしたいと、日々お願いしてましたのに!兄上は将軍が突然連れて来られた、そこの少年に世話をさせるのは宜しいのですか!!?」
じ、慈美様!?
烈火のごとき怒った美少女は、それでも…………とても可愛い。
嗚呼!慈美様に怒られたい…ッて、違うな。ウン。
私がそんな想像をしてると、ワンテンポ後から絽花様が挨拶と共に燕様の部屋に入室してきて、「やっと追いついた…」と慈美様の左手を取った。
左手を握ったのは多分、慈美様のこれ以上の動きを止める為なんだろうけど…。
もしかしたら慈美様は素早っこいのだろうか?ちょこまか姫なのだろうか?
絽花様は「姫様…、落ち着いて下さい…」と少々荒んだ小声で彼女を諭そうとしているが、慈美様はそんなのドコ吹く風。馬耳東風…って使い方がずれている気がするが、絽花様の言葉を気にせずにすでに爆発してる感情を前傾姿勢で四散させてきた。
「納得…できッ!ま、せん、わ…っ!……ズルイんです、のっ!…ぅうっ…」
ああああ!!慈美様、泣いちゃう!?泣いちゃう!?いや~~~、モテル毛玉はツライなァ!…って、これも違うか。
激しい感情を吐露させ、大きな瞳を潤ませて慈美様は燕様を見てる。私なら、この瞳に即行で白旗陥落している。…カワイイは正義に近い。かも。
しかし燕様はそんな慈美様を見て、「う~~ん…」と渋っている。何でそこまで悩むのかな?
私が黙っていると、「生き物の世話は案外大変だから、慈美には、なぁ…?」とボソボソと燕様の呟きが聞こえてきた。
そっか!燕様はそんな心配をしていたのか。
…まぁ、そうだよね。こんな毛玉も生き物ですからー。呼吸、してますからー。
燕様と慈美様の間に沈黙が流れ、私も含めて他者も黙り込んでいるその中で、ふいに声が…。
「……それなら、一緒にお世話しましょう」
え!?玄少年!??
「この月使は女の子なので、僕が世話を出来ない部分を、あなたにお願いしたいです」
「…毛玉なのに性別があるの?」
慈美様が玄少年の言葉に興味を持った様だ。
少し鼻を啜りながら、玄少年に質問している。
「毛玉でも、性別はありますよ。僕は鵬玄。玄と、お呼び下さい。それで、あなたは?」
「わ、私は、慈美」
「では、慈美様、僕の提案…いかがされますか?」
「…っ!」
無表情の玄にしては大変珍しい笑顔を慈美様に向けて、彼はコテンと小首を傾げた。く…。これはこれでカワイイ…。
怒り顔の可愛いと笑い顔の可愛いの静かなぶつかり…。
そしてそんな笑顔攻撃を受けた慈美様の頬が、怒った時より赤く染まっている様に感じるのは気のせい?
「…い、いい、ですわ、玄…。特別にそれで構いませんわ」
「それでは、決まりですね、慈美様。僕とも仲良くして下さい」
「ええ、仲良く、しますわ…!」
玄少年の言葉に少し顔を背けながら、慈美様は彼の提案を受け入れた。
あれ?何だか解決モード?
そして玄は燕様の方を向き、ちょっと眉を八の字にして喋り始めた。
「あの、それで…燕様…」
「…しょうがないな。玄、…慈美、珠々の事を宜しく頼むな」
「きゅー!」
…や、やった!やった!やりました?
これで玄少年はここに居て、慈美様と一緒に私を構ってくれる事に!
燕様も「懐いてる」と言っていたけど、玄少年の落ち着いた雰囲気は隣に居て居易いから、正直こうなって嬉しい。
しかも、美少女な慈美様の手でも可愛がられる、この至福!
私は「きゅ~!きゅ~!」言いながら、燕様の床の上を壊れたバネ玩具の様に飛び跳ね捲くった。
「珠々…、よっぽど嬉しいのか。良かったな」
「きゅ!きゅ!…きゅ~ぅ、きゅ…ッ!きゅぅ~う~~」
ああ、燕様!嬉しいです!嬉しいですけど、私は燕様が一番ですから!
そういう思いを込めた身体の摺り寄せを燕様の頬にして、私は彼の肩で寄り添う様に動きを止めた。
燕様も流石に私の好意に気が付いらしく、「そうか、俺が一番か?可愛いヤツだな、珠々」と小声で褒めてくれた。
そしてナデナデと頭を撫でてくれ、私をそのままにしてくれた。優しい。
「そうだ。玄の事を一応、断りを入れておかないとな」
燕様がそう言い、視線を扉の付近に立っていた女官さんに再び向けると、「心得ました」と彼女は外へ出て行ってしまった。誰を呼びに行ったのかな?
私が出て行った女官さんを見ていたら、玄少年からこんな声が…。
「…"やる"と返事もしていないのを…つい、この場の流れの勢いで引き受けちゃった…」
あ!確かに玄は、ちゃんと燕様に答えてない…。
でも、流れで私の世話係と引き受けてくれたし、玄から言い出して慈美様も一緒だ!
私は「今更断らないよね?」という思いを込めて、燕様から飛び降りて玄少年を見上げた。
「きゅ、きゅ~?」
「ん?珠々?…大丈夫、断らないよ」
優しい眼差しの玄少年に今度は頭をナデナデされ、私はヘチャリと身体の力を緩めた。
よ、よかったぁ…。焦った…。
玄少年は月蟲の事やら、色々と話してみたい事あるしね。圧迫感の無い居易さは大事ですよ。ええ。
「玄、…慈美も…撫でたいですわ」
「はい、どうぞ。慈美様」
そして今度は慈美様の柔フワなナデナデ…。ああー!これこれ~~~!
「…絽花も、撫でて構いません?ソワソワしておりますの」
「きゅ…!」
おお~…。絽花様もカモーン。仮面美少女に優しくナデナデ…。力加減が絶妙…!クセになりそう…ふんにゃり…。
「……ソワソワなら、将軍もしてるよ。珠々、将軍も…」
「ぎゅ…!?」
おぉ~~~ッと!!ナデナデ連鎖タイムはお終いだ!撤退!撤収!か い さー ん!!
玄少年には、後で私が"男性が苦手"と説明しないと!…そして、将軍…ごめんなさい…。
やっぱ無理。
私は"ぴょいーん!"とその場で高く跳び上がって尻尾で浮き、誰の手も届かない位置でしばらく止まることにした。
「…そこまで…。どうして…」
「……珠々…。流石に斯季が可哀相だ…」
「…………」
「あら?将軍が真顔で固まってますわ?」
「将軍…お気を確かに…」
下からそれぞれの声が聞こえてきたけど、私はそれをまるっと無視して浮いていた…。本当、ごめんなさい…。
理由はあるんだけど、この姿では説明出来ない…。歯がゆい…。
私がモヤモヤと浮いていると、どうやら女官さんがとある人物を連れて戻ってきた様で下に新しい声が加わった。
「失礼します」
…あ、れ?この声は…犀お爺ちゃん…。そっか、犀お爺ちゃんが呼ばれたのか。
私は犀お爺ちゃんの出現には驚かなかった。だって元々ここでは相当身分が高そうだしね。それなりな決定権を持ってそうじゃない?
………けど、これには正直…驚いた。
「お爺ちゃん」
「おや?…玄?玄ではないですか?」
……この会話の流れだと、犀お爺ちゃんと玄少年は『祖父と孫』な関係!?
朔兄さんが指していた『爺さん』は…、『犀お爺ちゃん』!!?
……な、な、何ですと――!?




