十五本目:毛玉の帰還
クネクネいた道順を辿り、コロリと袋から出された私はすぐさま体勢を整えた。
袋の闇から、外の光は正直少し眩しいけど、私は何とか変化に耐えて辺りを見回した。
足元の布は白。この白い布は、敷き布なのかな?なら、もはやここは…
「珠々、戻ってきたか!」
「きゅぅ!」
床の上で上半身を起して座っている燕様に気が付いた私は、すぐさま飛びついた。
燕様は柔らかく私を手の平に受け止めてくれ、少し厳しい声で私に話しかけ始めたの。
その際、身体をガッチリと掴まれてホールドされてしまった。逃走防止ね、これは…。
掴まれた五指から、燕様に視線を向ければ、お、怒っている…燕様が…。
「…元気が良いのは構わないが、あまり俺も含めて皆に心配を掛けさせるな…」
「……ぅ…きゅぅ…。きゅぅ…きゅ~~~!」
燕様の言葉に反省!そうだよね。うん…!
私はそんな言葉を受けて燕様の手からモゾモゾ動いて飛び降り、お腹辺りにグリグリと毛玉を擦り付けた。燕様、ごめんなさい~。
「きゅぅ!きゅぅう~~~」
「っは、何だ珠々、くすぐったい…」
…あれれ?燕様…あんなに酷そうな怪我だったのに、もう包帯を取っても良いんだ?
燕様は私が行方不明になった昨日の間に包帯を取るまで回復したらしく、何となくな鍛えた肌の弾力と微かな薬草めいた香りを私は服の上から感じた。
そんな私のグリグリ攻撃を受けた燕様は「いたずら好きな毛玉だな」と言って、私を摘み上げて手の平に乗せて撫で始めてくれたの。
燕様に撫でられるのが好きな私は「きゅい~。きゅー、きゅー」と声を上げて、燕様に更なる"撫で"を要求した。
このねー、撫でられると少し身体が持っていかれる感が、何だか良いのだよねー。
…そうだ!兄弟で、お兄さんを持つなら、燕様みたいな人が良いな!
そうして私を撫でながら、燕様は今度は斯季将軍の傍らに立っている玄の方へと視線を移して口を開いた。
「それで、そこの少年は?」
「はい。彼は"鵬玄"と申しまして、飛んで行った珠々殿を保護していたのです」
「そうか」
「それに、珠々殿がとても懐いている様なので、こうして連れて来ました」
「なるほど?宜しくな、鵬玄…。俺の事は"燕"と…」
「燕様、僕の方こそ宜しくお願いします。僕は"鵬玄"です。僕の事は"玄"で構いません」
「そうか。分かった、玄」
「きゅ!きゅ!」
そうなの!ああ、燕様に"月蟲"の事や、私の変化を早く話したい!
二人とも、自己紹介が終わったから、良いよね?良いよね?…何が良いのか分からないけど、良いよね!?
話したい事が多過ぎなのと、興奮から私は燕様から玄少年へ飛び移り、彼の肩を左右に移動したりした。
ああ~!何だか色々持て余してる!?
そして私は少年の肩から再び燕様の下へと戻り、彼の肩で動きを止めた。
「…確かに良く懐いているな。うン?」
「きゅ?」
私を肩から掴み、撫でながら燕様は僅かに考える素振りを見せ、そして
「…そうだなァ…。では、俺が珠々を構ってやれない部分は…玄に任せても良いかな?」
「え、燕、様!?」
この発言に斯季様が驚いた声を上げた。
驚き過ぎて直立の体勢が前屈みになっている。
しかし燕様は相変わらずな雰囲気で、斯季様に話し掛け始めた。
「何…斯季、驚くな。俺だってお前と共に戦に政に…と色々動くだろ?
珠々は可愛いし、邪魔にはならないが、危険な場所には連れて行きたくない。
そんな時、珠々を一人にしておくわけにはかないし、珠々も懐いている相手が良いだろうと。
…だから、そういうところを懐いている玄に頼みたいんだ。斯季、分かるな?」
「…まぁ、そう…ですな…。はい。分かります…が…」
何とも歯切れの悪い返答を斯季将軍から受けた燕様だけど、自分の決定を変えるつもりは無いみたい。
私はグリグリと撫でる燕様の手を感じながら、燕様が遠くや…戦に行ってしまう事を想像していた。
今までに体験したことが無い想像事は、どこか非現実的だ。
私が大人しく想像に飛んだ辺りで、燕様は斯季将軍から玄に視線を移して、そこで思い出した様な声を出した。
「そうだ…。慈美に珠々が帰ってきたら教えて欲しいと頼まれていたんだ」
慈美様に?この流れだと、慈美様に会える?
私が燕様の言葉に反応して「きゅ」と鳴いたのを燕様は見逃さず、「慈美をここへ…。玄も紹介しよう」と女官さんを一人、慈美様の下へ向かわせた。
ドンドン新しい展開が広がっていくなぁ…。
そうだ。慈美様が来たら、今度は慈美様に撫でて貰おう~。
「きゅ!きゅ!きゅ!」
私は扉の方を向いて、早く慈美様、そして御付きの絽花様が現れないかと「早く!早く!早く!」と鳴いた。
すると、どうだろう?
都合の良い感じで、一つの足音が聞こえた…けど、これは…?
―タッタッタッタッタッタッタッタッタッ……
この静か過ぎる宮中に似つかわしくない忙しい足音は…この部屋へと向かってきている?
段々と近づいてくる軽い足音に、私は何となくユラユラと身体を左右に揺らした。
そして足音はやはり燕様の部屋へ向かってきていた様で、足音のスピードを落とす事無くこの部屋の扉を開いてきた。
―…ばぁん!!
「…慈美のしたかった役割を担った方はどなた!?」
…そう…。燕様の部屋に息荒く駆け込んできたのは…うるりと涙目の怒った顔の慈美様だった。




