十二本目:毛玉の帰る場所
何匹位が良いかな?というか、何匹位必要なのかな?
私は玄少年の手の上から、月蟲を覗き込んで思わず呻ってしまった。
「きゅぅ…」
眼下には光を失った月蟲。光は失っても、黄色い天道虫に似た容姿が何だか愛らしい。
そして迷っていたら、何とその月蟲が私の下に飛んできて、何匹かが身体や尻尾に降りてきたの。
以前の私だったら「虫!」と驚いて、月蟲を掃っていたかもしれない。
でも、今の私はそんなの気に成らないの…。月蟲自体が平べったい黄色い飴玉を連想させ、不思議と馴染んでしまっている気が…。
リアルな虫のブローチって感じ?実際、宝石みたいに綺麗な虫は存在しているし、虫モチーフの装飾品ってあるしね。
「…どうやら、十匹の月蟲が珠々を特に気に入ったみたいだね」
「きゅ!」
私を気に入ってくれたなら、この引っ付いている月蟲だけで十分かな?
尻尾に集まった月蟲を見ながら、私は何となくこの数で大丈夫な気になった。
そう、今の私はもう毛玉に戻ってしまっているの。
「おはよう」の挨拶は「きゅー」なの。
…まぁ、大体「きゅー」なのだけど…。
月蟲達はモソモソと私の尻尾に隠れたり、まわりを飛んだり好き勝手にしている。
私はそんな中、飛ぶ月蟲に目を奪われてたら急に玄少年に持ち上げられた。
彼は私を手の平に乗せたまま外へ出て、緩い坂を上り見晴らしの良い場所に出た。
風の撫で付けが少し強まった気がする…。
もしかして、"崖"的な場所が近いのかもしれない。
そして玄少年は私をとある方向へ手の平を突き出す様にしながら、話し掛けて来た。
私はと言えば、玄少年の声を聞きながら自分の前方に広がる景色に身を乗り出してしまった。
「…ねぇ、珠々…見える?あそこにあるお城…あそこに燕様はいらっしゃるんだよ」
「ッきゅぅ!??」
おっきい!ひろい!ごうせい!!
…今更だけど、私はあんなとても煌びやかそうな所に居たのね…。まるで別世界…。
私は玄少年の手の平の上で「きゅぃ~~」と感嘆の声を上げた。
それにしても私、微妙に距離の有る位置まで来てしまったのかぁ。
あの空中で漂っている時に、玄に捕まえられなかったらどこまで流されていたのか…。
正直…ゾッとした。
「…きゅ~きゅ~…」
「…どうしたの?不安?」
「きゅ…」
玄少年に答えながら、私は案内されて説明を受けた場所を再度見る。
見える範囲全面に広がっている大きな大きな宮城、そしてそれを取り囲む塀、その外側に大きく展開してる街。チラチラに緑も見える。
街中で何となく点状が動いて見えるのは、人?動物?それがたくさん、あちらにこちらにそちらにどちらに…、と動いている。
そんな手前の街から奥の宮城へ視線を移して見れば、人工的と思われる大きな池が…。
…あの睡蓮はまだ咲いているだろうか?
そして私はあの夜以来、斯季将軍の笛の音を聞いてない事に気が付いた。
こそっと…また、聞きたいし…踊りたいんだけどな…?
それに、斯季将軍の顔…こっそりとだけど…ゆっくり見たいし…。チャンスがあればの話だけど…。う、うん…。
顔と言えば、燕様の顔、早く見たいな。またおっきな怪我してないかな?………今の怪我はまだ治らないのかな…?
燕様に、月蟲と私の姿の変化の事、早く話したい…。それを慈美様やお爺ちゃん、絽花様にも話したい。
…私を優しく撫でてくれる、みんなに早く会いたい…。
「きゅ~…」
そこで考えが止まり、私は何気無く声を出して、玄少年の手の上でへちゃりと力を抜いた。
それからズリズリと尻尾を手繰り寄せて、ぎゅぅ…と抱きしめた。ホームシック全開…。
月蟲は僅かな羽音を出して私から飛び立ち、今度は玄少年の身体に止まったりしている。
玄少年は私の変化に身体を数度撫でてくれ、「もう少しだよ、珠々」と声を掛けてくれた。…優しいなぁ、少年…。
「…それじゃ、懐に入っていてね。準備が出来たら、僕があそこまで連れてってあげるから」
………え?そう言えば、玄…知り合いでも居るの?
「きゅーきゅー?」
「ん?何?…あ。向こうから馬が。…誰か来たから…珠々、早く服の中へ」
「ぅきゅ!?」
やっぱりこの姿で会話は無理があるわね!
そして私は"ポイ"と玄少年の服の中に放り込まれてしまった。
こ、ここは大人しくしといた方が良いよね!?ウン?
玄の服の中で私はドキドキと鼓動を早めていたのだけど、この玄少年…全く興奮も動揺してる風が無く、至って通常運転な心音具合。
…玄少年はどんな時に動揺したり、朔兄さんみたく叫ぶのか…。ちょっと、興味湧いてくる…。
私が余計な事を考えていると、直ぐに馬の"カポカポ"という蹄の音が聞こえてきてこのまま通り過ぎるのだと、私は思った。
しかし、その馬の足音が玄少年の目の前辺りで止まり、今度は馬上から人の声が…。
「…そこの少年。今、お前が懐に仕舞った物を見せてくれないか」
…え?あれ?…この声…は…?
そして私は玄少年の懐の中で動揺の余り、ブワと毛を膨張させてしまった。




