十一本目:月使と兄弟
「ダレ?」
「わ、私は、あの毛玉…。燕様の月使、"珠々"」
私は地面に座り、月を背に質問してきた玄少年を戸惑いを含んだ瞳で見上げた。
「ふ~ん?…珠々、って名前だったんだ」
え!?何だか淡白な反応…?ま、まぁ、盛大に驚いて欲しいって事では無いけど、この玄少年は妙に落ち着いているというか…。
お陰でか何だか、私も案外冷静な対応が出来てると…。
私は玄から視線を放し、自分の手を見た。五本指の…人の手。私は確かに間違いなく人化している。
「……でも、何で私はこの姿に…?満月の月明かりを一定量浴びないと、この姿には成らない筈なのに」
「それは…多分、月蟲が関係してるんじゃないかな?」
「え?それはどう言う…?」
「それはさ、月蟲が月光を溜め込む習性があって、その溜め込んだ月光をさっき囲まれた時に珠々が取り込んだから…じゃないかな?」
…なるほど?
それにしても、私、言葉を発する雰囲気が以前より滑らか!そこがちょっと嬉しい。
「珠々は…誰かの物、なの?」
「…物、と言うか…私の仕えているご主人様は"燕"様と言う名前の………方、なの」
燕様の事、どれくらい話して良いのかな?
…と言っても、私もたいして燕様の事を知らないけど…。
「…なら、僕が珠々を"燕"様の下に届けてあげる。燕様が居る場所も分かるよ」
「燕様を知ってるの!?」
私は反射的に玄少年の腕を掴み、思わず力を込めてしまった。
だってだってだって!彼に大して説明をしなくとも、燕様の下に帰れるかもしれないじゃない!?
そんな淡い期待の下、私は彼の腕を掴む手に益々力を込めてしまう。
玄少年はと言えば、一切変化無くマイペースな視線で私を見つめ、そして喋り出した。
「…知ってるも何も、燕様は…この国の第一皇子だよ。国民なら、誰もが知っていると思うよ…?」
「えええ!?」
「珠々は…知らなかったの?」
「知らなかった…。正直、あまり気にしてなかったの。…燕様が皇子様だってことは分かってたけど…」
「ふ~~~ん…」
な、何?そのちょっと含みの有る感じは?私が世間知らずだと、そう思っているの?
そ、そりゃぁ…そうかもしれないけど、私…この世界に来てまだ間もないし…、自分がどう動けば良いのか正直分からない。
「ね、珠々…。燕様は見えないけど、燕様が居る場所を後で見せてあげる」
「…?」
「だから、もう家に一旦帰ろう?僕、もう眠い…」
「あ、うん。戻ろう…」
って、私はこの姿のままかい!?
驚いて玄を見れば、彼は少し船を漕ぐ様なカクカク状態…。
うん、これはいけない。
私はそんな玄少年の手を取り、彼と部屋に戻る事にした。
多分、私のこの姿は朝になれば元の毛玉の筈だから、彼の寝具の隅にでも横になっていれば大丈夫…。
問題は朔兄さんにこの姿を見られる事の方がやっか…
「ああああああああああ!?君ッ!玄をどこに連れて行く気だい!?可愛いからって、僕は許さないよ!!」
「…………」
…早速、やかっかい事になりました。
大体…"可愛いからって、僕は許さない"発言が意味分からない。
私がどんな容姿だろうと、ダメなのはダメでしょ…?
…で、でも、可愛いって…のは、気が動転しているからだろうけど嬉しい…かも…。
「…朔兄さん、うるさい。この人は…あの"月使"だよ。ある条件下で、こうして人になれるみたいなんだ…。ふぁ…」
「ナンダッテー!?」
…こうしてみても、温度差が激しい兄弟ね…。
私、正直…一人っ子だから、兄弟の感覚が分からないけど、この二人は面白い…かも。
でも、怖い。朔兄さんは正直、強そうじゃないけど、男の人が怖いのは変わりない事実。
そして朔兄さんはまだ威圧感が少ないから、私も何とか止まれるのかもしれない…。た、多分ね?
とりあず私は玄少年の後ろに回り、彼を盾にして後方から朔兄さんと会話を試みてみた。
「あの…」
「わ!しゃべった!」
そ、そりゃぁ、喋りますよ?
「わ、私は月使の"珠々"。今はこの姿ですが、朝には毛玉に戻ります」
「え?戻っちゃうの?…もっと話、したいな~…」
「…………」
毛玉で居るのは、正直に言って"楽"。
だけど、私だってこうした姿の方が意思の疎通が楽な点で、こちらの姿でも居たい…。
何か良い方法は無いかな?
私はそこで自分がこの姿に変化した時の事を思い出した。
そう、"月蟲"!これが必要なだけあれば、私はある程度毛玉から人の姿に変化出来るのでは?
―…その為にも玄に月蟲を少し譲ってもらえないか、お願いしてみよう!
私も月蟲を使えるようになれば、いくらか人の身体へ変化するのをコントロール出来るかもしれない。
そこで私は思い付いた事を玄少年に話した。
「え?…月蟲を?…ふぁ…」
「うん」
「…良いけど…後で良い?」
「うん、良いよ。眠いもんね?玄、ありがとう」
「…ん…」
そして私との、のんびりした会話の後、玄少年はやや放置気味となっている朔兄さんに声を掛けたのだけど…。
「…ところで朔兄さんは何で夜中にこんな所を歩いていたの…?見回りなわけないよね?」
「え?ああ、見回りじゃない。僕は厠に…か、かわや!!そうだよ…!………それじゃ、僕はこれで…!!!」
玄少年の質問に答えながら、朔兄さんは"シュタ!"っと手を上げて爽やかにに去って行った…。
…つもりだろうけど、実際は赤青の点滅顔で物凄い勢いで私達の前から去って行ったの。
厠…トイレに行く途中だったのね…。
「…うん、間に合うと良いね…、兄さん、頑張れ…」
「………」
そして朔兄さんの後姿を見ながら、私も思わずこんな事を祈ってしまったのであった…。
―…月使の幸運が、朔兄さんに味方しますように…!
…間に合えっ!!




