十本目:月光夜会
色んな意味で…ここはドコ、だろう?
「…ふっきゅ~~…」
捕まえられた布袋の中で不満気に声を上げれば、頭上に違和感が!!
幼い手が私に迫ってる!?
私は咄嗟に、袋の中に伸ばされた小さめな手に体当たりを決めた!
―ぽうん!
「…勢いは有るけど、いたくない…」
ああ!?やはり体当たりもムダ!?どこまで私はモチモチソフトボディなの…!イヤァン!
「なぁなぁ、玄、捕まえたのは何て生き物なんだ?俺にも見せてくれよ!」
「分からない。…朔兄さんに聞いてみようかと思う。興奮気味だから、もしかしたら………キケンかも…」
「キケン、なのか?なら、後で落ち着いてる時にでも見せてくれよ」
「うん、分かった」
…とりあえず声の感じから、外に居る人物は少年二人の様であるな。ふむむッ!
しかも、"玄"少年の会話内容から、私はどやら"朔兄さん"の所に連れて行かれる模様…。
そして玄少年はもう片方の少年に答えながらこの布袋の口を縛り、別れを告げて朔兄さんとやらの方向へ歩き出した。
トコトコとしたゆったりした足取りがどこかこの少年らしさに感じられ、私は緊張を緩めて袋の中で寝そべりながら考えた。
「…きゅ…」
…どうせこの袋から出られないのである。力技とか、絶対無理…。
なら、もう…このままでとりあえずチャンスを狙っていった方が良さそうだよね?
この私を捕まえた玄少年は、私を苛めたり乱暴しなさそうだし…。
「…………」
…ふぁ…。寝そべっていたら…眠く…。あ。私の尻尾、枕に丁度良い…。
果報は寝て待て?
…何ちって………………ぐぅ…。
―…そして私は袋に入れられたまま、朔兄さんの所に連れて行かれたのである。
どの位の距離を移動したか…正直、寝ていたから分からないが玄少年の歩く揺れは終わっており、「これだよ」と言う声がぼんやり聞こえてきた。
察するに、どうやら目的の朔兄さんの所に着いて、すでに私を見てもらう段階らしい。
布袋の口が開かれ、薄暗い袋に光りが入ったかと思ったら、直ぐにその光りは大きな影に遮られしまった。
私は袋の底で"きゅう"と自身の尻尾を掴み、それに顔を埋めてのんびり…いや、空を飛んだ事に疲れて寝ていたのを頭上からの上ずる男性の声に完全に起こされた。
「……げ、げ、玄くん、この生物…どこで捕まえたの!?」
「…空?」
「空?空…?………ま、まぁ?空…か…空…」
「それで、これは何?」
「……あのね、これは…月使…!月使だよ!!げっし―――!!!」
…お?見てみれば…この眼鏡のお兄さん…朔兄さんは私の正体を幾らか知っているみたいね…。
眼鏡の朔お兄さんに説明しながら、玄少年は私を机の上に出した。
私はコロコロ…と机の上を、おそらく四回転して、モソリと尻尾を放して顔を上げた。
「本当に居たんだ!」
「きゅ…!?」
おっと!近い!!お兄さんはこれ以上、私に近づかないで…下さい!怖い…!
いくら見た目が痩せ型文系好青年でも、私の年齢察知センサーが拒否反応を示しておるもので…!
そこで私は素早く後転を五回はして、玄少年に跳び移った。背中側に回り、肩からそっと毛玉を出して朔お兄さんを見た。
すると、そんな私の様子に玄少年が咎める様な声で喋り出した。
「…朔兄さんが怖がらせた。震えてる…」
「え!?」
「変態の波動を感じたんだ」
「ええッ!?玄くん、それ、酷くない!?」
今度は朔兄さんが玄少年に対して咎める様な声を…。
でも、この玄少年はそんな朔兄さんの声をまるっと無視して笑顔を作ったの。わお。
「……朔兄さん、"月使"だって教えてくれてありがとう。僕、もう行くね」
「え?もう?…玄くん、行くってどこへ…?」
「この子を一番丈夫で綺麗な鳥籠に入れてあげるの。そして、飼う」
「か、飼う!?」
「そう。いけない?」
「…いけなくない!それは…すごく素敵だ、玄くん!だから僕にもお世話を…」
「じゃ、僕、向こう行くね。朔兄さんはとりあえず、もう少し変態の穢れを落としてからだね。…涎、出てるから拭いた方が良いよ」
「ぅえっ!?」
「またね、朔兄さん」
朔兄さん、涎…。確かに…涎を落とされるのは…嫌だ…。
……お~~~う…。それにしてもワタシ、飼われちゃうんですか?燕様と言う御主人様がですね、…もう、居るのですが~~~…。
………でも!でもでもでもでもでもでも!!ここがどこだか全く分からないし…ちょっと様子見で、この玄少年に…飼わ…お世話になろうかな!!うん!
…と、思った時が私にもありました。
「くきゅぅ…」
…燕さま~…珠々は玄少年にあれから鳥篭で無事保護されていますけど、早く帰りたいです…。
斯季様が来ても居ても、私、頑張って傍に居ます。浮いたり隠れたりはすると思いますけど、逃げたり…はしない様に努力、します…。
…します。…します。……します、から…!
「きゅ~きゅ~!きゅ~~~!!」
燕様の下に戻りたいよ~~!!
燕様に可愛がって貰った分…いや、それ以上、彼を幸せにしなければ!だってそう決めてるんだもの!
慈美様に撫でられたい!絽花様のスベスベお肌堪能したい!犀おじーちゃんにもっと色々教えてもらいたい!
そして…あの…斯季様の…笛、を…もっと聴きたい…。出来れば間近で…。あの、その…。矛盾してるの…!何だか、コレは説明が上手く出来ないけど…!
そうなの。そう言う事、なの…!
私は早くもそんな思いに駆られ、ぽんぽんと鳥籠の中を跳ね回った。ホームシック全開!!
それから窓から見える夜の景色に、無駄だと分かりながら「きゅ~きゅ~!」と啼き捲くった。
そしてポンポンと跳ね回った結果、鳥籠は私の飛び跳ねる力に浮き上がり、机の上から…
落ちた。
―ガタタン!
「きゅううう!?」
私はその衝撃から一番大きな声を出していた。パニック状態だ。
そして無事ながらも、落ちた鳥籠の中で震えていたら奥から玄少年が現れ、
「…寝れないの?なら、僕と夜の散歩に行こう?」
…お誘いを受けた。
それから玄少年は私に紐を着け様としたのだけど、私が嫌で逃げたり噛み付いたりした事で理解を示してくれた。え?良いんだ?
「―…逃げない?」
「きゅ!」
ふいに聞かれた言葉に即答すれば、玄少年が紐を仕舞って私を手の平に乗せると庭へ出た。
夜気は少し温く、不思議と私にふわふわとした春の気配を感じさせた。
「そうだ。今日は月が見える晴れた夜だし、僕が飼っている良いもの、見せてあげる」
「?」
少し得意気な雰囲気の玄少年に私が連れてこられたのは、蚊帳の様な大きなテント…の様な所だった。
でもね、このテント…発光してるの。何でだろう?
私が疑問に思っていると、玄少年が勝手に説明をし始めてくれた。ありがたや~。ありがたや~。
「…ほら、見て?今夜は"月蟲"が月光浴してるんだよ。あれは月の光りを体内に溜め込んで光る習性があるんだ」
つきむし?って言うの?でも、これって…蛍?っぽい?あ。でも、お尻じゃなくて、全体が発光してる…んだ!ふわ…綺麗…。幻想的で素敵…。
「きゅ~~~♪」
私は月蟲達の中で頭上を飛び交うその様に、感動して下ろされた地面のその場で何度も跳ねた。
そしてそうしてる内に、一匹、また一匹と月蟲が高度を私の位置まで落としてきたの!近くで見られる!
おお!これはコーフンしてくる~!!私より断然小さい!虫…なのに、くりくりお目目で何だか可愛い…。
このホワホワとした淡い光りが月光を集めた物だなんて、まるでソーラー電池ならぬ、ムーン電池ね!
「きゅ~♪きゅ~♪」
わぁ!すごいすごい!どんどん集まって…集まって…あつまって…?
「月蟲が…月使に群がってる…?」
……あれ?私、閉じ込められた…?
私が歓喜の声を上げて跳ね回ってる内に、月蟲のドームの中に閉じ込められてしまっていたの。
玄少年の声に周りを見れば、淡く発光する"月蟲"達が押し寄せて…って、私、埋まる!埋まる!埋まる!埋まる!埋まる~~~!?
「~~ぎゅぇえッ!!?」
そして私は月蟲達に大量に覆い被さられて、視界の全てを月の光りで満たされてしまった。
…でもね、その事により、私に何とも不思議な変化が…。
ぐねぐね、むにゅむにゅ…ぐにょんぐにょん、ぐるぐる…とした眩暈に似た感覚が私を襲い、五感の全てがそれに奪われた。
奪われた…けど、私はその事に不安を抱かず、ただこの変化が終わるのを…当然の様に受け入れていて…。
やがて蟲の重みと光りが無くなり、私は高い位置で新たに風を感じ始めた。
高い位置?それって…???
「―…おねーさん、ダレ…?」
―…わーお…私、人型に…なっちゃました?
「……てへっ…?」




