銀と赤の墓標
その情景はあまりにも残酷で美しい、一枚の絵画のようだった。
流れる銀の髪の間から、何本もの剣を伝い落ちる血の雫。
串刺しにされているにもかかわらず、その表情はまるで聖母のように穏やかな美しい人。
銀と赤の美しい絵画……。
(俺の……堕天使……)
それは幾度と無く夢に見る、あの時の場景。
その時、ドンドンと乱暴にドアを叩く音が夢を断ち切った。
「マグナ様、ここにいらっしゃいますか! マグナ様!」
ガバッとベッドに起き上がり、現実を凝視する。
マグナはこめかみに手をやり目を閉じた。
「やかましい。ここにいると聞いたから来たんだろうが! ただし、今そのドアを開けたら命は無いと思え」
そう凄むと、ドアの外が一変して静かになる。
「あの……領主様から伝令が……」
今度は蚊の鳴くような声だった。
「そこで言え。……全く、こんな所まで押しかけてきて何なんだ」
ここは彼の隠れ家の一つ。とある森の中の小さな小屋だ。
現実から逃れ、静かに時を過したい時に決まって訪れる場所。
だが現実の方が彼を追いかけてくる。
「今回は自分が動くから、マグナ様は待機しているようにと……」
マグナは片眉をあげた。
(手を出すなという事か? いよいよ詰めに入って、じっとしてはいられないというところか)
「わかった。……健闘を祈ると伝えろ」
はい、と返事がして気配は消えた。
うまくいけばこれで終わりだ。
あの悪夢からも開放されるだろうか。
マグナが自分の傍らで眠る女に目を落とす。
薄暗い部屋の中で白くつややかに光るその肩に、マグナはそっと唇を押し当てた。