逝かせない
「――――!!」
「リアン……?」
ダンとアミーナはそれぞれの部屋でリアンの悲鳴を聞きつけた。
慌ててベッドから飛び降りたダンが窓から下を見下ろすと、噴水の傍に横たわりぐったりと動かないロギが見える。
その背中から飛び出した棒状の物。
そして傍ではリアンが狂ったように泣き叫んでいる。
(矢!? それにしても全く動かないのはおかしい……まさか毒矢か!!)
ダンは二階の窓を乗り越え、中庭に飛び降りた。
治してもらったばかりの身体にはかなり響いたが、一刻を争う今そんなことも言っていられない。
「……きゃあ、ロギ!」
窓から悲鳴を上げるアミーナを見上げ、ダンが叫ぶ。
「アミーナ! 消毒薬と何か布……! シーツでいいから持って来い!」
アミーナはダンの声を聞き、窓から姿を消した。
すぐさまロギに駆け寄ったダンの腕をリアンが掴む。
「ダン! ダン、ロギが……! 私なんか放っておけばいいのに……!」
「リアンをかばって矢を受けたのか。全く、どこまでもカッコいい王子様だな!」
ダンはロギの上体を起こし、容赦なく両の頬を叩いた。
「ロギ、聞こえるか!? 今から矢を抜く。おそらく毒矢だと思うから一刻を争う。麻酔なんかしてる暇はないからな、気ぃしっかり持てよ!」
「リ……アン……は……?」
ロギの掠れた呟きに、リアンが息を飲む。
「リアンは無事だ。心配ない」
ダンがそう言うとロギは微かに微笑み、リアンの目にまた涙が溢れた。
「よし……リアン、前に回ってロギをしっかりと抱いてくれ」
ダンが自分のシャツの裾を引きちぎり、取り出したダガーの柄にぐるぐると巻きつける。
「起こしたままで……? 寝かせた方がいいんじゃ……!」
「ダメだ。麻酔も何もない状態で矢なんか抜くと、痛みのショックで心臓が止まる事がある。だから、何か意識を繋ぐものが必要なんだ。ロギ、リアンに身体を支えさせるからな。リアンの骨を折りたくなかったら堪えろ!」
弾かれたようにリアンはロギの前に回り込み、その身体を硬く抱きしめた。
そしてダンは先ほどシャツを巻きつけたダガーをロギの口にくわえさせる。
「しっかり噛めよ。これが無いと、食いしばる時歯が砕けちまう」
全ての準備を整え、ダンが深呼吸してしっかりと矢を握ぎる。
「いくぞ。……一、二、三!」
「う、ぐううっ……!!」
ダンが一気に矢を引き抜いた。
鮮血がほとばしり、ロギのリアンを抱く腕に力がこもる。
ねずみ返しになった矢尻が新たに筋肉を裂き、ダンの顔や身体にも血が飛び散った。
リアンは目をつぶったまま、必死でロギにしがみついている。
だが矢の刺さっている場所は、背中と言うより肩に近い。
幸いにも急所は外れているだろう。
「リアンまだだぞ。ロギ、毒を取り除く。傷口を少し切るからもう少し辛抱してくれ」
それを聞いてリアンが蒼白になる。
かまわずにダンは顔に浴びた血を腕で拭ってから、もう一本ダガーを取り出しロギの傷口に刃を入れた。
唸り声を上げて悶えるロギを、リアンが泣きながら支えている。
ダンが切った傷口から毒を吸出しては吐き捨て、何度か繰り返すたびにロギは苦痛に顔を歪めた。
ロギはリアンを抱きながら、彼女の身体を締め付けすぎないよう、堪える。
おかげで意識はかろうじて保っているようだ。
「……ダン、持ってきたわ」
いつのまにか傍にやってきていたアミーナが消毒薬のビンを差し出した。
ダンはそれを黙って受け取り、ジャバジャバと傷口にぶちまける。
薬がしみる痛みなどはましな方なのだろう、その頃になるとロギはくわえていたダガーを下へポトリと落とした。
「アミーナ、後はたのむ」
「はい」
ダンが後ろに下がり、アミーナがすでに用意していた手の光をロギの傷口に押し当てる。
強引に矢を抜き、さらに刃を入れた傷はかなり深く裂けていた。
アミーナの額にも汗が浮かぶ。
「どうだ……? 荒療治だが、手早く処置したからお前が塞いでくれさえすれば失血死もないと思うが……」
ダンがアミーナの隣で、一緒に傷の様子を診る。
「うん……かなり深いし裂傷も酷い。……でも必ずふさぐわ」
アミーナの手の光がさらにまばゆく増していく。
「絶対に助ける。こんな所でロギを失ってたまるもんですか……!」
「当たり前だ。俺たちがついてる以上、そう簡単には逝かせやしねえ!」
やがてリアンの腕の中、不規則だったロギの呼吸もだんだんと凪いでいった。




