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我が家に悪魔がやってきた! いちがっき!  作者: 小麦
契約者たちと悪魔たち(番外編)
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悪魔たちの密会

「マーラさん、手はずは順調ですか?」

 ガイン・ティーナ・ラミアの3匹の悪魔見習いが人間界にやってくる少し前、魔界のとある建物にある3匹の悪魔の姿があった。1匹は美しい緑髪の女性、あとの2匹は本来の黒い悪魔の姿をしている。

「ええ。あなたが私に頼みごとなんて珍しいから何かと思ったけど。安心して。向こうの暴食の悪魔見習いさんにこっちから暴食の悪魔見習い候補たちを送ることは通知しておいたわよ」

 1匹はマーラ・グリタニア。前回サラたちがさらわれた時に救出作戦に一役買った何でも屋を経営する悪魔である。ちなみに本人は人間の姿の方を心底気に入っていて、普段の仕事の時でも人間の姿でいるために、悪魔の姿を見たことがあるのはごくわずかしかいないとか。

「むう……、しかし、妾はやはりこの計画には反対じゃ。前回サラは契約者の樹をきちんと連れた上で脱出してきたではないか」

 もう1匹はミルダ・ファルホーク。サラの母親であり、色欲の悪魔アスモデウスの名を持つ悪魔だ。

「そのくらいは当然です。私は不意を突かれて気絶させられたことや、今までの彼女の行いを全て見てきた上で、もう1度契約者を選び直したいと言っているんです」

 そして最後の悪魔はベルゼブブ。暴食の悪魔であり、サラ直属の責任者でもある。サラに人間界での試験許可を降ろしたのも彼と言うことになる。

「じゃから、それは妾が見てきたと言っておるではないか」

「身内の言うことを全て信用できると思っているんですか? いくらあなたが娘に厳しいことで有名でも、自己申告では信用できませんね」

「ぐっ……」

 ミルダはベルゼブブの言葉に反論できずに黙ってしまう。

「まあまあお姉さま、落ち着いてください」

 マーラは水を持ってくると、ミルダに差し出した。

「すまぬマーラ」

 ミルダはもらった水を一気に飲み干すと、ふうとため息をついた。

「それに、反対とは言いましたけど、これは既に魔界会議で決まったことです。そのためにマーラさんにも会議に来ていただいたんですから」

「そんなことは分かっておる」

 ミルダは毅然とした態度の中にどこか不安をのぞかせながら、ベルゼブブに反論する。

「憤怒の悪魔見習いの補充と暴食の悪魔見習い選出の再試験を同時に行うこと。これが前回の魔界会議で決まったことです。そこにあなたの一存で待ったはかけられませんよ」

「分かっておると言っておろうに!」

 思わず声を荒らげるミルダ。その時の会議は今思い出してもあまり気分のいいものではなかったが、投票権のないマーラが見守る中、ミルダを除く満場一致で暴食の悪魔見習いの再試験については可決されたのだった。

「だから落ち着いてってばお姉さま。ゼノも不必要に煽らないの」

 マーラはまた水を汲んでくると、ミルダに手渡した。

「……その呼び方はやめてくれませんかマーラさん」

 ベルゼブブは露骨な不快感を示した。

「やっぱり昔の呼び方は嫌なのね。ゼノってかっこいい名前だと思うんだけどなー」

 マーラはつん、とベルゼブブの胸をつつく。

「ゼノの意味の中には日本語訳で異質なものとか外来種とかそんな意味があるんです。大罪の中でも異質な存在みたいな言われ方に聞こえるのはどうにも気に食わないんですよ。半ば日本で試験を受けてしまったばっかりにね」

 ベルゼブブはその手を払うと、ミルダの方に向き直った。

「それに、自分の娘がもう1度厳しい試験を受け直すだけです。あなたが言うように今まで厳しい教育を施してきたというのであれば、また娘を信じてあげればいいだけではないですか。何をそこまで怒る必要があるんです?」

「妾が気にしているのはサラもじゃが、それより契約者の樹の方じゃ」

 ミルダはそんなことを言う。

「……ほう、意外ですね。まさか人間の方を気にしているとは」

「まあ、お姉さまの気持ちも分からなくはないけどね。樹君はちょっと私たちの試験の事情に振り回され過ぎているから」

 マーラはそんな補足をする。その言葉にベルゼブブはほう、と興味深そうな声を上げる。

「おや、あなたが普通に名前を呼べるということは、相当気に入っているってことですね。男性嫌いのあなたにしては珍しい」

「別に私は男を毛嫌いしたりはしてないわ。単純にベルとか樹君みたいに私が話したいと思う男が少ないだけよ」

 今度はきちんと通称で呼ぶと、マーラはミルダに話しかける。

「確かに樹君はずいぶん大変な思いをしていると思うけど、あの子は弱い子じゃないわ。それはお姉さまも分かってるんでしょ?」

「もちろんじゃ。サラを探すために知恵を絞った樹を弱いと思うはずがなかろう」

 ミルダは少し前の樹の行動を思い出して頷く。あそこまで肝の座った行動のできる人間はそうはいないだろう。

「なら、その樹君に一番ふさわしい悪魔見習いを契約させてあげるのもまた私たちの務めでしょ。今後のためを考えれば、それが一番じゃない?」

「そうですよ。別に私はサラさんを契約者から外すと言っているわけではないんですから」

「……うむ。そうじゃな。少し娘が関係しているのもあって口調に熱が入りすぎたかもしれん」

 2人の説得もあり、ミルダはどうにか落ち着きを取り戻した。

「でも、どうなるんですかねこの試験の結果」

「それは、サラちゃんたち次第でしょ」

 今更ながらにそうしみじみと言ったベルゼブブに、マーラはそう返すのだった。

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