一癖も二癖もある味方
「……何の用なのタツッキー」
「おい随分不機嫌そうだなせっかく呼んでやったのに」
数分後、その相手は俺の呼び出した場所に現れた。その相手とは、ゴシップキラーとして悪名高い片桐さつきだった。彼女を呼んだ理由はいくつかある。1つは人脈の広さだ。彼女の名前は良くも悪くも学校中で知らない者はいないほどの知名度になっている。つまり、彼女の協力さえ仰ぐことができればこちらにとってこれほど都合のいいことはないのだ。
「あのねえ、あたし放課後は次の日話す噂話を収集するので忙しいのよ」
だが、当の本人はあまり機嫌が良さそうにない。
「お前そんなの日課にするなよ」
とはいえ、真面目にこいつに突っ込んでいては話が進まない。さっさと話を進めた方がいいだろう。後ろの方で立たされている沙良以外の悪魔2匹もややイライラした表情でこちらを見ている。
「この人が樹さんの呼んだ相手ですか?」
沙良がひょこっと顔を出す。
「……あら?」
沙良を見た瞬間、さつきの表情が変わった。
「あなたは確か写真の……」
「写真?」
「ああー! 何でもない何でもない!」
考え始めた沙良に俺は慌ててごまかす。こいつは沙良の存在を知る唯一の知り合いでもあるのだ。存在を知る者に説明した方が当然早いことだろう。それに説明すると言ってしまった手前、さっさと説明した方がいいだろうと考えたのも理由だ。
「ってことは、もしかして今日言ってた話のこと?」
「そうそう。ちょっとお前に協力してほしいんだよ」
「話の面白さによるわね」
彼女の表情が黒い笑みに変わった。
「なーんだ、そうならそうと早く言ってくれればいいのに」
俺から悪魔見習いの話を聞き終わったさつきの第一声はそれだった。
「……えっお前疑わないの?」
あまりに意外な反応に俺はぽかんとする。いくら途中で沙良たちに本当の姿を見せてもらったとは言え、こうまで理解が早いと説明しているこっちがあっけにとられてしまうくらいだ。
「いやー、確かにあたしは噂好きだしそれなりに尾ひれをつけて広めるのも好きだけど」
「そこは否定しとけよ」
俺は突っ込みを入れてしまう。まさかこいつわざとボケてるんじゃないだろうな?
「相手がウソかホントのどっちかを言ってることくらいの見分けはつくから。タツッキーは嘘をつくような人じゃないしね」
「お前……」
俺は感動したように彼女の方を見る。
「正確には嘘をつけないからついてもすぐばれる、の方が正しいけど」
「おい」
俺の表情が真顔に戻る。いいやつだったんだなって言おうとした一瞬の感動を返せ。あと後ろの沙良、こっそりうんうんと頷くな。少なくともお前に対して嘘をついたことはないぞ。
「ともかく、そういう創作物くらいならあたしも読んだことあるし、それがたまたま現実で起こったくらいなら疑わないわよ。それに、目の前で黒い羽を広げられたら信じるしかないんじゃない?」
「お前がそこまでこういうことに寛容だったとはな」
何だかんだ言ってもそこそこ仲良くしていた分、信頼してもらえるのは早かったようだ。持つべきものは友人と言うことなのかもしれない。
「で、あたしは何をすればいいの?」
「このティーナって悪魔見習いを預かってほしいんだよ。頼めるか?」
俺は後ろの悪魔見習いの1人を指差しながら聞く。
「よろしくお願いしたいですー」
ティーナも前に出てくる。
「そのくらいなら全然いいわよ」
「おおー助かる! サンキュー」
俺は片桐に笑顔を見せる。
「ところでティーナさんのスペックを聞きたいんだけど」
「スペック?」
「ほら、悪魔ってくらいだから空飛んだりくらいはできるんでしょ?」
「ああ、なるほどな」
俺は今度は沙良を手招きする。
「沙良、軽く説明してやれ」
「えっ、時間かかるかもしれませんよ?」
「軽くって言っただろうが。空飛べるとかそんなもんでいいんだよ」
「はあ、まあそれなら」
沙良は納得すると、さつきに説明を始めた。
「つまり、空を飛べるのは能力というかみんな使えるから省略されるほどのもので、他は願いを叶えたり透明になったり人間に擬態したりできるってことでいいの? で、それとは別に7つの大罪固有の能力もあると」
「……そういうことですね」
「お前飲み込み早いな……」
説明していた沙良も横で聞いていた俺も唖然とする。
「このくらいの情報を瞬時に整理できないようじゃゴシップキラーは務まらないわよ」
「そこは務めなくてもいいんだぞ」
「とりあえずそれだけ分かれば十分ね。それじゃ、この子の契約者探しも私が請け負ってあげるわ」
(こいつスルーしやがったな)
小声で言ったのだがスルーされてしまったので、俺は心の中でそう毒づく。それに、それ以上に1つ気になることもあった。
「お前は契約者になってくれないのか?」
「私は噂話を集めるのが好きなだけであって、当事者になりたいわけじゃないのよ。まあ、心配しないで。ちゃんと契約者は見つけてあげるから。それに、この事に関しては変な噂を広めたりもしないでおいてあげる。不確かな噂を広めるのは双方にとってデメリットしかないし」
「それは本気で助かる」
さつきを味方につけられたのは良かったのかもしれないと思った俺だったが、
「まあ、タツッキーハーレムの方は事実だって分かったしね。目の前に3人の女の子まで連れてきてたら物証としては十分だし、確かな噂は積極的に広めていかないとね。それじゃ、そういうことで。行きましょうティーナさん」
どうやら俺はさつきを買いかぶりすぎたらしい。彼女の本質は俺がどうこうできるようなものではなかったのだ。
「おいふざけんな!」
俺の言葉など聞くこともなく、さつきはティーナの飛行能力を使ってさっさとその場からいなくなってしまった。
「……追いかけましょうか樹さん?」
沙良が困ったように俺に声をかける。
「いや、もう……いいや」
何かに疲れて諦めたように、俺はその場で頭を抱えるのだった。




