悪魔見習いたちの自己紹介
「……大丈夫だったんだろうな沙良のやつ」
俺はホームルームを終えると急いで帰宅していた。あの後沙良から何の返事もなかったからである。その結果、結局桜とは一度家に帰ってから連絡し直すということで別れた。沙良が校門の前で落ち合う約束すら忘れているとは思いたくないが、かと言ってこないだのような事件に巻き込まれているとも考えにくい。おそらく忘れていると考えた方が自然だろう。
「……あれ?」
だが、家の前に着いた俺はどうも家の中が騒がしいことに気付き、首を傾げる。沙良の声だけではない。明らかに知らない人物が複数人いる感じだ。
(どうなってんだ?)
とりあえず玄関を開ける、足元には靴が沙良のもの以外に3足置いてあった。
「ただいま……」
「あ、おかえりなさい樹さん」
部屋を見ると、沙良を中心に3人の人物が取り囲むように座っていた。楽しく談笑している様子だ。ただ、白ツインテールの女性だけが何やら居心地悪そうに座っている。
「お前これは……」
「ああ、卵はきちんと見ていましたので心配しないでください」
「いや、そっちじゃなくて」
俺の目の前に見知らぬ人間が3人いた。沙良と親しげに話していることから考えると……。
「そいつら悪魔見習いか?」
「まだ何も言ってないんですけど……。そうです。3人とも悪魔見習いですよ」
沙良はやや不思議そうに答える。
「ってことはこいつらがマーラさんの言ってた悪魔見習いか」
「マーラさん? 何のことです?」
(……この様子だとこいつ朝のメールから1度も携帯見てないな)
「携帯にメールが入ったんだよ。俺もメール送ったんだがその様子だと見てねーだろ? しかもお前その様子だと約束まで忘れてやがったな」
俺は沙良に丁寧に説明する。
「えっ? ……あっ。忘れてましたしまったく気付いてませんでしたすみません」
「やっぱりか。軽く目を通してみろよ」
俺の言葉に沙良は代替機の赤ボタンを押しながら念じる。
「はい。あー、これさっき私が聞いた内容とほとんど同じですね。樹さんは今後のことを相談するのに私に連絡したんですね?」
「そうだ。で、まずこいつらの説明をしてほしいんだが」
そこまで言った時、白いツインテールの女性が立ち上がった。
「やっと私の出番のようだな。どこから話せばいい?」
「……待ってたところ悪いんだけどまずは自己紹介してくれないか?」
この様子だと沙良たちに振り回されて本来の自分の役目を果たすことができなかったのだろう。かわいそうに。
「私の名前はラミア。ラミア・ヴィオレットだ」
「ラミアか。よろしく」
俺は彼女にそう挨拶する。
「よ、よろしく」
彼女もやや緊張したように答える。髪の色と名前が釣り合ってないなとか考えたのはまた別の話だ。
「まずはそっちのことについて聞きたいんだが……。もしかして憤怒の悪魔見習いか?」
「おお、察しが早いな。お前がいれば私はもっと早く役目を果たすことができただろうに……」
「……今回は事前情報があったからな。1人だけ知らない場所に放り込まれたらその場の雰囲気にのまれそうだなと思って。それでこの場に1人取り残されたみたいになってたんだろ?」
「素晴らしい洞察力だな。いっそお前と契約したいくらいだ」
どうやら白ツインテールの女性には気に入られたようだ。ならばまずはこのまま彼女と話を進めてみよう。
「えっと、ラミアはジョーの代わりに派遣された悪魔見習いで良かったんだよな?」
「そ、そうだ。まさかあの優秀だったジョーがあのような反乱を起こすとは誰も予想していなかったようでな。代わりを派遣しない案もあったそうなんだが、他の憤怒の悪魔見習いがあまりに頼りないという理由で本来であれば基準に満たないはずの私も派遣されることになったのだ。もっとも私の場合は数合わせ的な側面も強いそうで、あまり期待はされていないそうだがな」
すらすらと自分の事情を話していくラミア。この様子だとどうやらよほど話せていなかったらしい。最初にどもったのが気になったが、今はそこは気にしないでおこう。
「なるほど。ラミアの事情は分かった。じゃあ、次は……」
「この先は私が説明しますね。ラミアさんは私も初めて会う悪魔見習いだったので少し仲間外れにしてしまっていたかもしれません。申し訳ないです」
沙良は後を引き継ぐと、ラミアに謝った。ラミアにさん付けしていることを見るとどうやら本当に初対面のようだ。
「い、いや、それは別に構わないのだが……」
すると急にラミアは顔を赤らめて座り込んだ。自分の存在を認められたことでやや気恥ずかしくなったのだろうか。沙良自体が優秀な悪魔見習いだというのもあるが、彼女は別に暴食の悪魔見習いでもないし、真実は闇の中だろう。それより今は沙良の説明だ。
「で、こちらの2人ですが、1人はティーナ・フレンディア。そこのラミアさんと同じく性格適性検査で一度不合格になってしまった悪魔見習いですが、今回基準が改正されたことでこちらの世界で試験を受ける権利をもらえたそうです」
「というわけでティーナですー。よろしくー」
「あ、ああよろしく」
のんびりとした感じの悪魔見習いでこっちが眠くなってしまいそうだ。ただ、割と親しみやすそうではあるので、そこは安心かもしれない。と考えていると、彼女はそっと耳打ちしてくる。
「絶対に勝ってみせますからー」
その瞬間俺の背筋がヒヤリとする。さすがは悪魔見習いと言ったところか。
「……で、もう1人。そこの男の人がガイン・ハルベルトです。ガインのことは樹さんも知ってましたよね?」
ティーナの自己紹介が終わったと判断し、沙良は俺にもう一人の男の紹介をする。
「ガイン……だと?」
俺は聞き返す。それは前回の事件の発端になった悪魔見習いの名前ではなかったのか。
「ガインです。よろしく」
彼は笑みを浮かべ、俺に握手を求めてきた。




