我が家に悪魔見習いたちがやってきた!
朝方俺に届いたマーラからのメールによると、こちらの世界に関わる出来事が2つほど魔界で発生したらしい。まず1つ目が暴食の悪魔見習いがこちらの世界に2匹ほどやってくることだ。前回の一件もあり、沙良だけでは不安であると判断した沙良の母親たちも含む上層部が追加でこちらの世界に送り込んだらしい。マーラは詳しいことを話せる立場にはいないので、こちらに関してはこれ以上の情報提供はできない、と書かれていた。そしてもう1つは、この間のジョー・マクロイドの一件によって減ってしまった憤怒の悪魔見習いの補充である。ジョーの代わりの悪魔見習いがこちらの世界にやってくるのだそうだ。ちなみにまだ試験開始から2か月しか経ってないこともあり、試験自体はあくまで公平に行われるらしい。というのも、補充が決まった暴食の悪魔見習いも憤怒の悪魔見習いもどうやらあまり私利私欲の願いを叶えることはできなかったらしく、ハンデは特に必要ないだろう、という判断が下ったのだという。憤怒の悪魔見習いに関しては一番優秀な成績だったジョーが抜けてしまったというのが大きな所なのだろう、とマーラは推測していた。
(まさかこんなに早くこういう決定が下ることになるとはな)
こないだからまだ2週間も経っていないというのにこの対応の早さは舌を巻くところだろう。さすが悪魔の世界と言ったところか。のんびりしているとやって来た他の暴食の悪魔見習いたちにあっという間に追い抜かれてしまうことだろう。
(俺もうかうかしてられないな)
俺は改めて気を引き締め直すのだった。そして俺の頭に沙良の顔が浮かぶ。
(そういえばあいつちゃんと卵の様子見てるんだろうな?)
俺は携帯電話を取り出すと、今後のことを確認するために沙良に連絡を入れるのだった。
その頃の沙良はレトルトのハンバーグを温め、ご飯をおいしく食べているところだった。
「いやー、やっぱり一日の一番の楽しみはお食事時ですよね」
もぐもぐと口を動かしながら沙良はそう喋る。せめて飲み込んでから話せよ、と樹がいたら突っ込みが飛んできていたところだろう。
「……あれ?」
その時、沙良の手元のリモコンが突然バイブレーターによって振動を始めた。
「そういえばこれは代替機だからバイブレーター機能切ってませんでしたね」
沙良の持つリモコンの機能の1つに悪魔発見の機能がある。近くに悪魔かそれに準ずる存在が現れた時、強制的に振動を始めるのである。だが、この機能を鬱陶しいと思っていた沙良はバイブレーター機能を解除していたのだった。だが、こないだリモコンが壊れてしまったことで、手元のリモコンの代替機のバイブレーターを切り忘れていたのである。
(ピーンポーン)
「……誰ですかね」
食事時間を邪魔された時に沙良の怒りは頂点に達するのだが、今回はリモコンの反応を考えるとケン・ゾークラスかアリー・サンタモニカの可能性が高い。彼らなら仕方ないと思い直した沙良は、玄関のドアを開ける。
「サラ・ファルホークだな?」
だが、目の前に立っていたのは沙良の見たことのない人物が3人だった。赤髪のロングヘアーの女性が1人、茶髪の男性が1人、そして今口を開いたのは白いツインテールの女性だった。全員が沙良やアリー、ケンと同じくらいの年齢である。
「……失礼ですがどなたでしょうか?」
「ふむ、至極もっともな疑問だな」
その瞬間、話していた女性は悪魔へと変貌する。
「あなたたち、まさか悪魔見習いですか?」
「ご名答。だが、安心しろ。こないだのジョー・マクロイドのようにお前たちに危害を加えることはない。今日ここに来たのはお前にも事情を説明するためだ」
そう言った悪魔は再び人間の姿に戻る。
「……すみませんが食事の後でも構いませんかね?」
沙良は不機嫌そうにそう答える。
「お前、事の重大さが……」
白いツインテールの女性が怒ろうとした時だった。
「食事を疎かにするのは暴食の悪魔見習いとしては失格だもんねー」
「サラは変わらないようで安心したよ」
後ろの2人は沙良を擁護する。
「……くっ。お前たちがそれでいいというならそれでいいが。ならば私は少しこの辺りを散策させてもらうからな」
多数決では分が悪いと判断したのか、女性は譲歩することにしたようだ。
「分かった。それじゃあサラが食べ終わったら連絡するってことで」
「いいだろう」
ツインテールの女性はそう言って姿を消した。
「……で、あなたたちはどうするんですか?」
不機嫌そうな沙良は残った目の前の2人にそう尋ねる。
「サーラー、冷たくしないでよー。私サラの1つ下の成績だったんだからねー」
「それに、君より上に1人、成績上位者がいたことを忘れたわけじゃないよね?」
2人の悪魔見習いは変身を解く。その瞬間、沙良の顔が驚き混じりにぱあっと明るくなる。
「……ティーナ! それにガイン!?」
それは驚くべきことに彼女の同期の暴食の悪魔見習い2人だった。
「これが手のひら返しっていうのかなー?」
「まあまあ、彼女もここに僕たちが来るとは思ってなかったんだろうさ」
2人は正体を分かってもらえたと分かるとすぐ元の人間の姿に戻る。
「どうしてここに?」
沙良は驚きを隠せないままに尋ねる。
「話すと長くなる。とりあえずこの家に上がらせてもらってもいいかな?」
「はい! それはもちろん」
ガインの言葉に沙良は頷くと、2人を家の中へと招き入れるのだった。




