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桜の相談

「ねえ、樹君」

 しばらく無言で歩を進めてから最初に俺に話しかけたのは桜だった。後ろの方で沙良とケンが盛り上がり始めた頃に話しかけられたので、おそらく二人には聞かれたくない話なのだろう。

「ん、どうした?」

「樹君、最初に私に話してくれたこと覚えてる? ほら、沙良さんと契約した時のこと」

「……ああ、覚えてるよ」

 俺は思い出す。あの時の俺は沙良を悪魔にしないために、いい悪魔にするために契約したのだ。

「私もケンを悪い悪魔にしないためにって思って契約したけど、最近自信がないの」

「自信?」

 俺は首を傾げる。彼女の口からそんな言葉が出てくるとは意外だった。

「私、実はケンと契約してから一度も願いを叶えてもらってないのよ」

「……そういえば前に悪魔見習いの説明を聞きに行った時もまだ叶えてもらってないって言ってたけど」

 まさかあの時からもう1月以上も経っているというのに、以前の俺と同じ状況が現在進行形で続いているとは思わなかった。これは俺の責任でもあるし、きちんと相談に乗ってあげた方がいいだろう。

「俺も沙良から聞いたんだけど、あんまりないようなら何かしたいってケンに頼むだけでも私利私欲の願いにカウントしてもらえるらしいぞ。俺なんか今日散歩に行きたいって言っただけでカウントされてるし」

 結局行かなかったことは伏せながら俺は桜に説明する。

「実はその話はマーラさんからも聞いたんだけどね」

「え? マーラさん?」

 俺は聞き返す。桜がマーラさんのことを知っていたことに驚いたのだ。

「ああ、ちょっとこないだ訳あって人間界に来る用事があったみたいで。その時に私にも用事があっていろいろお話を聞かせてもらったの。手伝いとかもしたんだけど、ちょっとスキンシップの激しい人だったわね」

 桜はそう言った。

(人間悪魔関係ないのかあの人は)

 俺は心の中でそう突っ込みを入れる。と同時に、さっき会ったマーラさんが1週間も経たないうちに、と言っていた理由も分かった。

「それで、その時にケンのことも聞いたんだけど。どうも沙良さんだけじゃなくて、ケンの方も消滅の危機にあるって言われて、あんまり酷いようなら親玉みたいな人がこっちの世界に来ないといけなくなるって」

「そりゃ、昔の俺と同じ状況だったらそうなるだろうな……」

 こないだ沙良の母親であるミルダ・ファルホークが人間界に来たのは単に事件解決のためというのが本来の目的だったのであって、沙良の方はついでだったのだ。おかげで俺の方は何とかなったとも言えるが、どうも桜の方が俺と同じ状況に陥ってしまったらしい。彼女が契約した責任は半分俺にもあるようなものなので、できるなら相談に乗ってあげたいところなのだが……。

「なあ桜、俺最近思うんだけど、悪魔見習いって願いを叶え続けたら悪い悪魔になるのかな?」

「……どういうこと?」

 桜は聞き返す。

「いや、俺も桜も私利私欲の願いを叶えなければ悪魔見習いは悪い悪魔にならない、を前提にこれまで行動してきた訳だろ? でも、実際は悪魔っていうのは俺たちが願った私利私欲の願いを叶えないと消滅する危険性があるんだよな、アリーとかミルダさんとかケンの方の悪魔いわく」

「そうね……」

「ってことは、もしかして前提っていうのは願いを願わなければ悪魔になれないが正しいのであって、別に願いを叶えたって悪い悪魔にはならないんじゃないかって思ったんだよ」

「……今の話だけだとそう言い切るには少し弱い気がするんだけど、他にも何か根拠みたいなのってある?」

 少し悩んだ彼女は俺にそう聞いてくる。

「そうだなあ。根拠かどうかは分からないけど、桜もミルダさんとかマーラさんと話したんだろ? あの2人が悪い悪魔に見えたか?」

「……ううん、あの2人が悪い悪魔だとは思えないわ」

「だろ? じゃあアリーはどうだ?」

「アリーさんだって同じよ。悪い悪魔見習いには見えないわ。麻梨乃さんと私を助けるために一生懸命頑張ってくれたんだから」

 桜はそう返す。

「だよな。ってことは、この沙良たちが受けてる試験ってのは、たぶん俺たちの世界で言う卒業試験とかだと思うんだよ。だから、沙良たちの性格は俺たちと同じで生まれ育った環境によって変化するものであって、願いを叶えたからって変化するものじゃないと思ったんだ。どうだろう?」

「……言われてみるとそうね。確かに樹君が願いを叶え始めてからも沙良さんに何か変化があったようには見えないわ」

 桜はふむふむと頷く。

「分かった。私ももう少しケンを頼るようにしてみる。ケンが私のせいで消滅するようなことになったら申し訳ないもの」

「ああ。また何かあったら相談してくれればいつでも相談乗るからさ」

 そんな話をしていると、桜の家が見えてきた。どうやらそろそろお別れのようだ。

「それじゃ、また明日学校でね。沙良さんもまた今度」

 桜は手を振る。

「おう、また明日な」

「はい、またぜひ遊びましょう」

 俺と沙良も同様に手を振り返した。

「じゃ、俺も帰るぜタツッキー。また今度な」

 沙良とあいさつを済ませた様子のケンも俺にそう言ってくる。

「ああ、また今度な」

 その返事を聞いたケンは大急ぎで桜に駆け寄る。

「で、タツッキーと何か進展はあったのか?」

「進展って何のよ!」

 そんな声が遠くの方から聞こえてくる。

「私たちも家に戻りましょうか」

「そうだな」

 そんな二人の様子を見て平和だなと思いつつ、俺たちも帰宅することにするのだった。

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