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アリーと麻梨乃

 その後も王様ゲームはつつがなく進行し、いつしか時は夕方になっていた。

「私たちはそろそろ帰りましょうか」

「分かった」

 最初に麻梨乃とアリーが立ち上がる。

「あ、じゃあ私たちも帰るわね」

「そうだな。あんまりここに長居するのもあれだし」

 次に桜とケンも立ち上がった。

「あ、それなら送っていきますよ」

 そして今度はそう言った沙良も立ち上がる。

「別に気を遣わなくてもいいのよ?」

「いえ、こういう時でもなければ外出できないので。私は例外を除いて樹さんと一緒の時しか外出できないんですよ」

 沙良は樹と契約したときの条件の話を全員に説明する。

「……そういえば樹は最初沙良を悪魔にしないように頑張ってたんだったっけ」

 アリーが思い出したように言う。

「でももうその前提が崩れてる以上はこの契約も意味を成してないってことじゃない?」

 麻梨乃もアリーに同調する。

「そうだなあ、さすがにこの条件だとちょっとサラっちが不便すぎる気がするぜ」

「外出くらいは許可してあげてもいいんじゃない樹君?」

 ケンや桜にもそう言われ、俺も考える。

「確かに沙良をここに縛り付けとくのはちょっとやりすぎだよな。もう沙良に危険がないのは2か月暮らして来て十分分かったことだし、この条件は破棄しておこうと思う」

 たまに怖いことはあるが、と心の中で呟いておきながら俺はそう言った。

「本当ですか! やった!」

 沙良は飛び上がって喜ぶ。

「ちなみに他にはどんな条件を出されたんだ?」

「えっとですねー、ご飯は1日3食ってのと、他の人の願いを勝手に叶えないことですかね」

「なるほど。前半はともかく、後半は理にかなってる。でも、傍から見たら束縛が好きなストーカー男にしか見えない契約だけど」

「仕方ないだろ。あの時はあんまり詳しい説明も聞かなかったんだから」

 俺はそう反論する。もっとも、今でもあまり詳しく聞いたとは言えない状況なので、今度詳しく聞いてみるのがいいのかもしれない。

「でも、1日3食はサラっちらしいな。この条件はあって正解だったと思うぜタツッキー」

『確かに』

 ケンの言葉にこの場にいる全員がしみじみと頷く。

「ほら、私は暴食の悪魔見習いですから」

「開き直るな」

 俺は彼女の肩に軽く突っ込みを入れた。



 結局全員を送ってから買い出しに行くことになったので、俺も家から出ることにした。

「じゃあまずは桜の家か?」

 距離を考えると桜の家に行った方がいいだろうと思った俺はそう言うが、

「私麻梨乃さんの家行ってみたい」

桜はそんな希望を出した。

「私の家?」

 麻梨乃は意外そうな顔をする。

「ほら、何かあった時に家を知っておけたらすぐに行けるじゃない?」

「……麻梨乃、教えてあげたら?」

 桜の言葉に反応したのはアリーだった。

「アリー?」

「せっかくのお友達の頼みだし、麻梨乃だけでしょ家教えてないの」

「……そういえばそうだったわね。それじゃ、2人ともついてきてくれる?」



「ねえ、麻梨乃さんとアリーってどうやって契約したの?」

 桜は麻梨乃に聞く。そういえばこの2人だけはどうやって契約したのか未だに分かっていなかった。

「あれは雪の降りしきる寒い日のこと……」

「おいお前らが来たの早くて5月くらいだろうが」

 ボケ始めたアリーに俺は鋭く突っ込みを入れる。

「私たちの契約は町村君とほとんど一緒ね。私の家のチャイムを鳴らしてきたアリーから自己紹介をされて、詳しい事情説明を聞いて、契約完了。結構早く済んだわよ」

「最初訪問販売かと思われて麻梨乃の親にものすごく警戒されたのはいい思い出」

 アリーはうんうんと思い出すように話す。

「そんなことあったのか?」

「ううん、私の親はその日仕事でいなかったわね」

 麻梨乃も適当に流す。どうやら彼女は基本的に適当なことを言うことが多いようだ。

「アリーの嘘は妙に信憑性が高いから困るのよね」

「ほら、私気まぐれだから」

「自覚してるなら直せよ」

 俺は本日何度目かの突っ込みを入れる。

「タツッキー、こいつ大体こんな感じだからあんまり気にしないほうがいいと思うぜ」

「ケンに言われたらおしまいですね」

「サラっちまで……」

 脱力したケンを見て俺たちは笑い合った。



「ここが私の家よ。マンションの2階なんだけど」

「ここがねえ……」

 俺はそんな声を上げる。麻梨乃と知り合うことがなければきっとこんなところに来ることもなかっただろう。

「意外と普通のところなんだな」

 ケンはそんな反応をする。

「ケンは一体私がどんなところに居候させてもらってると思ってたの?」

「それこそ豪邸みたいなところかと」

「学生がそんな豪華なところに住んでるわけないでしょ。透翠高校は別にお嬢様学校でも何でもないんだから。お金持ちの生徒なんていても1人か2人くらい」

「そんなもんなのか」

 アリーの言葉にあっという間に納得したケンはそこで話題を打ち切った。

「じゃあ、私とアリーはここで。火曜日にその卵を桜さんのところに受け取りに来ればいいのね?」

「ああ。よろしく頼む」

 俺は麻梨乃にそう返事をすると、彼女の後ろ姿を見送った。

「……じゃあ、行きましょうか」

「そうだな」

 4人だけになった俺たちは今度は桜の家を目指して歩き出すのだった。

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