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おや、リモコンの様子が……

「ぐだー……」

 高梨沙良たかなしさらはいつものようにボーっとしていた。

「お前いつもボーっとしてんな。もう7月だぜ? 5月病を引きずるにしても長過ぎねーか?」

 俺、町村樹まちむらたつきはそう彼女に突っ込みを入れる。

「仕方ないじゃないですか。いろいろあって疲れたんですよこないだ」

 沙良はそう口をとがらせる。こないだ、というのはもちろん沙良のお母さんであるミルダ・ファルホークが訪ねてきたときのいくつかの騒動のことである。あの後アリーを通してミルダからもらった連絡によると、俺の昔の友人である成島翔なりしまかけるは悪魔見習いのことを知らない状態に記憶を操作された後人間界へと送り返され、その契約悪魔見習いであるジョー・マクロイドは魔界に連れ帰された後、悪魔見習いの権利を剥奪されたらしい。起こした事件が事件だったので、これだけの重い処分を下さざるを得なかったようだ。

「そりゃそうだけどなー。あんまりそうやってぐだぐだしてると牛になっちまうぞ?」

「……むー。嫌な言い方しないでくださいよ」

 沙良は頬を膨らませる。自分でも動かないといけないことは分かっているのだろう。

「それじゃ、散歩にでも行こうぜ。お前のシラベールとリモコンがあれば余裕だろ?」

 俺はそう提案する。彼女のスペックもそれなりに高いが、それ以上に俺が重宝しているのは彼女の所持しているリモコンとシラベールと呼ばれるタブレット型の端末なのである。

「そうですねー。そういえば最近散歩もしてませんでしたし、ちょうどいいかもしれませんね。あ、これ樹さんの私利私欲の願いってことで大丈夫ですか?」

 沙良は聞く。私利私欲かそうでないかによって彼女の存在が消滅するかどうかという問題に発展してしまうことを知ったのはつい先日のことだ。

「……散歩に行くだけでそのカウントはすっげー嫌なんだがまあしょうがねーな。それでいいよ」

 俺はしぶしぶ承諾する。

「というか、もしかして私が樹さんのしてほしいことを聞いて、それを私利私欲かどうか聞いとけば、もう少しスムーズにいったんじゃないですかね?」

「今気付くことかそれ?」

 もっと早く気付けよ、と突っ込みを入れる。

「いや、だって居候当時の樹さんは意地でも私に願いを願わないようにしてたじゃないですか」

「そりゃ悪魔って言われたっていいイメージなかったからなあ」

 俺はそう答える。悪魔と言えば人間の欲望を利用することで生きている生物だ。もちろん沙良も含めて俺たちが出会ってきた悪魔や悪魔見習いがそうではないことはすでに分かっているのだが。

「それに、少なからずこないだの翔さんの一件もあったんでしょう?」

「……まあな」

 それは否定できない。一応勝つことはできたとはいえ、翔の本質は何も変えることはできなかったし、もう彼と会うことはないのだろうから。俺の中できっと永遠にしこりとして残り続けるのだろう。

「でも、人間に限らず私たちはそういう辛い思い出もきっと乗り越えていかないといけないんだと思います。そういう意味で今回もう1度本音でぶつかりあえたことは決してマイナスなことではなかったと思いますよ」

「……そうだな」

 確かに分かりあうことはできなかったが、今度はきちんと自分の意見を伝えることはできたのだ。それだけでも大きな進歩だったと言えるのかもしれない。

「さて、それじゃそろそろ行きますか、お散歩」

「そうするか」

 沙良が俺を気遣って話を切り上げたことが分かったので俺も彼女に合わせて立ち上がる。

「じゃあ着替えるので待っててくださいね」

 彼女はそう言ってリモコンを取り出した。

「着替えっているのか?」

「前も言いましたけど、このゴスロリはお仕事している時用なので、出かけるときはきちんと違う服にしたいんですよ。何よりもう夏で暑いですし」

 彼女はそう言ってリモコンの赤ボタンを押した。

「そんなもんか」

 本音は絶対後半だろうな、と思いながら俺はそう返す。

「……あれ?」

 だが、彼女は突然間抜けな声を上げる。

「何だどうしたんだ?」

「いえ、リモコンが動かなくて」

「リモコンが?」

 俺は沙良に近づくと、リモコンを彼女から借りる。

「特におかしなところはなさそうだけど……。試しに俺にメールを送ってみろよ」

「分かりました」

 沙良は今度は緑ボタンを押し、その後赤ボタンを押しながら俺にメールを送信する。やはり俺の携帯には何の反応もなかった。

「ダメみたいだな。他のボタンはどうなんだ?」

「ちょっとやってみます」

 次に沙良は俺に青ボタンを押しながら電話をかける。が、繋がらない。

「青もダメみたいですね」

 そのまま黄色ボタンを押すと、パシャッという音がした。シャッター音らしいので、カメラは使えるようだ。

「……黄色は大丈夫みたいだな。で、黄色が使えたってことは緑も大丈夫ってことか」

「……何でどうでもいいボタンだけ使えるんでしょうか。青がダメなんじゃシラベールも取り出せないじゃないですか」

 沙良はため息をつく。

「黄色が使えるってことは魔界には行けると思うんですけど、距離を考えると魔界のリモコン修理屋さんまで出向くのはだるいんですよね……」

「まあ確かにな。ちょっとそこまでって距離じゃねーし……」

 俺も頷く。前回魔界に行くのにも帰るのにもそれなりの時間を要している。まして修理ともなれば時間がどれだけかかるか分からない。

「何かいい方法はないもんか……待てよ? あるぞ1つ方法が」

 その時俺はある方法を思いついたのだった。

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