樹と桜の学生生活②
今回のお話と前回のお話は潮干狩りから2日後を描いたものです。
私の小説の登場人物がゲスト出演しますのでお楽しみに。
「おかえりタツッキー」
戻ってきた俺を迎えたのは片桐さつきだった。
「どうしたんだ?」
「いや、ね。ゴシップキラーとしては血が騒ぐのよ」
さつきは笑みを浮かべる。
「……何が?」
「これよこれ」
彼女は一枚の写真を俺に見せる。
「なあっ!」
俺は思わず声を上げる。そこに映っていたのは俺が沙良に柏餅を手渡していた最初の散歩の時の写真だった。
「驚くのはまだ早いわよ?」
彼女はその後さらに2枚の写真を出す。
「これはまさか……」
さらに俺は驚く。2枚目の写真はケンがいなくなった時に桜と2人で探していた時の写真、3枚目は俺が倉庫に閉じ込められていた時にアリーと2人でいた写真……っておいちょっと待て?
「お前この場にいたなら俺のこと助けろよ!」
この時俺はケンに半ば監禁状態にされていて、半分意識を失いかけている状態だったのだ。
「いや、ほらスクープ写真を撮るならある程度の我慢は必要って言うか?」
「お前のせいで俺は死にかけてんだよ!」
俺はクラス中に響く大声でさつきに抗議する。
「まあまあ。それで、さっきさくには聞いたんだけど、一体タツッキーは誰が本命なのかな?」
「はぁ?」
俺は彼女の問いに首を傾げる。
「だってこれだけの美女3人と2人っきりで行動してるとかモテ気街道まっしぐらじゃない?」
「いや、えっと……」
彼女に説明はできないが、彼女が撮った写真のうち2人は悪魔なのだ。誰を選ぶのかとかそういう次元で話を進めていいわけがない。
「で、結局誰が一番好きなの?」
「だから、こいつらはそういうんじゃないっていうか……」
俺は言葉を濁す。
「えー、目の前に張本人もいるのにそういうあいまいな答えは良くないんじゃないのー? 実際はどうなのよ?」
見ると、いつの間にか目の前に桜もいる。気のせいか俺の方をじーっと見ているような気もする。
(考えろ、考えるんだ俺)
俺は自分に必死に言い聞かせながら思考を進める。まず、ここでアリーか沙良と答えた場合、クラスの女子の黄色い声に加えて桜にショックを与えかねない。この案は却下だ。では次に桜と答えた場合だが、今度はクラスの女子だけでなくクラスの男子にまで囃し立てられてしまうだろう。こちらもできることなら避けたい。
(……あれ? これって詰んでるんじゃ?)
町村樹15歳、こんなところで人生を終わらせたくはない。気のせいかクラス中の男子の視線までもが俺に向かってきているような気がする。
「ほら、黙ってちゃ分からないじゃん。男らしくスパーっといこ?」
さつきは他人事のように俺に促してくるが、俺の高校生活までスパーっと終わらせるのだけは本当にやめてほしいので、俺は冷や汗をかきながら黙秘を貫き通す。
(何かないか何か……)
俺は目玉をきょろきょろと動かしながら打開策を探す。とそこであるものが目に入った。
(……そうか)
俺はそれを見て、勝利の笑みを浮かべた。
「その顔は決まったのかなタツッキー?」
さつきが聞いてくるが、俺は笑みを崩さない。とその時だった。
(キーンコーンカーンコーン)
「予鈴? まさかタツッキー、これを狙って……」
さつきが言いかけた頃には教室のドアからこの時間を担当する教師が入ってくる。
「ほら皆席に着けー」
やる気のなさそうな声が響くと、クラス全員がしぶしぶ目線を前に戻したり席に着いたりする。
「ほら片桐、お前も早く」
「……はーい」
さつきは面白くない、といった様子でゆっくり自分の席に戻っていった。
(た、助かった……)
俺は気が抜けたように自分の席に座り込んだ。
そこから先は特にいつもと変わることなく、そのまま放課後を迎えた。
「今日は災難だったわね樹君」
「……まあな」
俺はため息をつく。
「ちょっとは助けてくれても良かったんだぜ?」
「いや、あんなに焦った樹君を見たのは久しぶりだったから」
桜は笑う。彼女曰く、俺があそこまで焦ったのは沙良たちに悪魔見習いの能力を紹介してもらった時以来だと言う。俺としてはあの時の数倍焦っていたのだが、この話をこれ以上広げるのはやめておこう。
「でも、本当のところは誰か大切な人とかいたりするの?」
彼女はそういたずらっぽく微笑む。
「えっ?」
俺が彼女にその真意を問おうとした時には既に校門の前を過ぎようとしていた。
「なーんてね。それじゃ、また明日」
桜はそう言って手を振る。
「あ、ああ……」
俺は桜の言葉の意味を測りかねたまま、彼女に手を振り返した。
「おかえりなさい。朝の宣言通り早かったですね」
俺が玄関を開けると沙良が出迎えてくれた。
「まあな……」
「……何か疲れてますけど大丈夫ですか?」
俺の様子を見て何かを悟ったのか、沙良はそう心配してくる。
「今日いろいろあってな……」
話し始めるといろいろと面倒だと思った俺はそうごまかす。
「……? まあいいですけど。あ、ところで今日の晩御飯は何ですか?」
沙良は嬉々とした様子で聞いてくる。
「お前は食事のことしか頭にねーのか」
「当たり前じゃないですか。私は暴食の悪魔なんですから」
沙良は笑顔で答える。良くも悪くもこいつがいつも通りなのは良かったのかもしれない。きっと俺は沙良の前では昔のように笑えているのだろうし、楽しく毎日を過ごせているはずだ。
「見習い、だろ? まあいいや、今日はお前の好きなもん作ってやるよ。何がいい?」
「えっ本当ですか!? じゃあたこ焼きとお好み焼きとから揚げとそれから……」
「調子に乗るな」
俺はいろいろな食べ物を次から次へと紡ぎだす沙良を軽く小突いた。




