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我が家に悪魔がやってきた! いちがっき!  作者: 小麦
契約者たちの日常(番外編)
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予期せぬ出会い

「……で、結局私たち魔界がどんなところか分からずじまいのまま人間界に帰ってきちゃったってこと?」

 私、樋口桜は契約悪魔見習いであるケン・ゾークラスに尋ねる。どうやら私は知らないうちに魔界に誘拐され、そして知らないうちに人間界に戻ってきてしまったらしい。樹君や沙良さんのお母さん、さらには魔界の悪魔たちの協力もあって、何とか戻ってこられたのだとか。せっかくなら魔界巡りでもしたかったと私は口をとがらせているのだ。

「ま、そうなるな。今回はお前とか吉永麻梨乃も操られて大変だったんだぜ」

 ケンはさも自分が助け出したかのような口ぶりで私に説明する。

「あんた7つの大罪の悪魔の腰巾着やってたって聞いたけど。実際に私たちを助けるために頑張ってくれたのはアリーさんだったんじゃなかった?」

「……いや、それだって俺がアリーと交代してなかったらそういう展開にはならなかったんだぜ?」

 ケンは言葉に詰まりながらもそう返す。

「まあいいけど。それで、今日は私を連れ出して何をするつもりなの?」

 私はケンにそう聞く。

「いや、せっかくだから少し魔界のことについてお詫び程度に説明しようかと思ってな。実際今度桜のことは魔界に連れて行く予定があるんだけど、それなりに魔界については知っておきたいだろ?」

「……まあそういうことなら」

 私は戻ってきてから一週間後の休日である今日、理由も知らされることなくケンに勝手に外に連れ出されていたのだが、ケンから理由を聞くことができたのでようやく機嫌を直した。

「で、何から聞きたい?」

「そうね……。じゃあ、まずは7つの大罪の悪魔について聞いてもいい?」

 私は先ほど話に出した悪魔についてケンに聞くことにした。

「よし来た。まず大罪の名を冠する悪魔が7人いることは知ってるよな」

「怠惰・暴食・色欲・嫉妬・憤怒・傲慢・強欲よね」

 私はすらすらと暗唱する。

「そうそう。まあ一応桜は俺の契約者だから、この中だと怠惰の悪魔のトップと会うことになるんだ。名前はグラン・スナイデルって言うんだぜ」

「怠惰の悪魔ってどういう感じの方なの?」

 私は聞く。どうやら私が気絶しているときに1度会っているようなのだが、もちろん私が知る由はない。

「そうだな……。とりあえず俺には厳しいかな」

 ケンは目をそらしながら答える。この様子だとどうやらよほど厳しくされたのだろう。

「ただ、威厳があってかっこいい悪魔なんだぜ。こう、悪魔の親父って表現がしっくりくると思うな」

「へー……」

 ケンがそこまで言う悪魔なのだ、きっと素晴らしい悪魔なのだろう。

「せっかくだから他の悪魔も紹介しとくと、まずサラのお母さんのミルダ・ファルホーク。この人は色欲の悪魔を統括してる。だから、アリーたちが会いに行くのがサラのお母さんってことになるな」

「じゃあ、麻梨乃さんは一応顔見知りってことになるのね」

「って言ってもこないだ少し話しただけだから、仲がいいってほどにはなってないと思うけどな」

 ケンはそう説明する。

「次は暴食の悪魔だけど……あの悪魔はちょっと苦手なんだよな」

 ケンは少し顔をしかめながら言う。

「苦手? ケンにしては珍しいんじゃない?」

「いや、まあ嫌いって程ではないんだけど、丁寧すぎるのが腹の内が読めないって言うか……。ほら、沙良の言葉遣いってきれいな丁寧語だろ。あれはあの悪魔に仕込まれてああなったんだぜ。それまでは母親と同じで一人称は妾で語尾が○○じゃみたいな感じだったんだけどな」

「……ってことは結構厳しい人だったのね」

 私も少し顔を歪める。言葉遣いを変えさせてしまうほどの影響力を持った悪魔というのはかなりの実力者と見て良さそうだ。だが、ケンはそれは違うぜ、と前置きしてからこう説明した。

「いや、どうも沙良にだけだったみたいだぜ。口調が偉そうだからってさ。俺はそれを間近で見てるからその印象が強いんだろうな」

「あー……」

 私は納得する。確かに沙良の口調がお姫様口調なのはちょっと嫌かもしれない。

「他もとりあえず軽く紹介しとくと、まず嫉妬の悪魔が女性で一番口調が適当な悪魔だな。んで、憤怒の悪魔は無気力だけど仕事はきちんとこなすぜ! って悪魔。傲慢の悪魔は規律を何よりも重んじる悪魔で、口癖は疑わしきは罰せよだ。強欲の悪魔は……俺もよく知らねーな。とりあえず無口な悪魔だったことは間違いない」

「本当にざっくりね……」

 ケンが嘘をつくことはないとはいえ、宣言以上の適当さで呆れる私。

「まあこんなところだな。他に聞きたいことはねーか?」

「そうね……。じゃあ、魔界で変わった悪魔とかものってあるの?」

 以前に似たような質問をした気もするが、今度はケン個人に聞いてみる。

「ものはまあ桜が自分で判断した方がいいとは思うけど、悪魔ならいたぜ。とんでもなく変わり者が」

 ケンは再び目をそらす。

「いったいどんな悪魔なのそれって」

「それはだな……」

 ケンが答えようとしたその時だった。

「あら、君はこないだの悪魔見習いじゃない」

真後ろにいつの間にか女性が立っていた。モスグリーンのロングヘアーにワインレッドのロングワンピースといった格好だ

「げっ、あんたは」

 ケンの顔が青ざめる。どうやらこの様子だとケンの知り合いのようだが……。

「……この人は?」

 私は訳も分からぬままケンに尋ねる。

「あらー! 人間の女の子にもかわいい子がいるじゃない! たぶん契約者よねあなた?」

 私は頷く。そして彼女が嬉々とした声を上げて抱きつこうとした時に私は2つのことを悟った。1つはこの人が悪魔だということ。もう1つはこの人にレズっ気があるということだ。

「あ、ごめんね。私は情報屋をやってる悪魔のマーラ・グリタニアっていうの。ちょっと今急用を頼まれて人間界に来てるんだけど、良かったら協力してもらえないかしら」

「おい桜、別にこの人の言うことを聞くことはモガゴッ」

「で、どう?」

 ケンの言葉が遮られたところを見ると、どうやらこの人は私と行動を共にしたいと考えているようだ。私は少し考え、

「いいですよ。困ったときはお互い様ですもんね」

頷く。その瞬間ケンの口から手が離される。

「プハッ! おい桜お前な……」

「大体あんたの言いたいことは分かってるわよ。でも、困った人はやっぱり見過ごせないでしょ?」

 私はウインクする。

「……しょうがねーな」

 ケンは諦めたようにため息をついた。

「ふふっ、じゃあ決まりね。女の子とお使いができるなんて私も運がいいわ♪」

 私はその発言で背中に寒気を覚え、さっきの発言を後悔し始めていた。

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