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我が家に悪魔がやってきた! いちがっき!  作者: 小麦
脱出せよ! それぞれの戦い
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アリーvsジョー

 樹と沙良が轟音のした方へ向かっていた頃、ジョーとアリーは戦っていた。

「ところであなたはどうしてサラたちを誘拐したの?」

 正体を明かしたアリーはジョーに尋ねる。

「私だってこんなことをしたかったわけではなかったさ。ただ、私の友人の暴食の悪魔見習いが試験を受けられないというのがどうにも許せなかった。だから、人間を何人か誘拐することで、あいつの悪魔としての資格を取り戻す交渉をしようと考えたんだ。その途中でたまたま暴食の悪魔見習いを見つけたことで、暴食の悪魔見習いと交渉する計画に変更したんだ」

「暴食……それってガインのこと?」

 アリーは聞く。ガインならば沙良からも聞いたことがあった。彼女によると暴食の悪魔見習いの中でもトップクラスの成績で、まず間違いなく人間界の試験にも行くことができるだろうと噂されていた悪魔らしい。

「そうだ。私はそのガインと知り合いだった。私たちは2人で7つの大罪の悪魔として魔界を平和にするという目標を立てて頑張っていた。だがあの日、ガインは風邪で休んでしまった。魔界の規定により一度試験を受験できなかったものはその資格を剥奪されることになる。だから私はその権利を取り戻すためにこうすることに決めたのだ」

「そう。事情は把握した」

 アリーはジョーの言葉を聞いたことで、どうして彼がこのような行動をしたのかは理解することができた。

「ならば……」

「でも、それとこれとは話が別。やっぱり私はあなたを止めなきゃいけない」

「では今度は逆に私から聞こう。なぜ私を止めようとする? 私のしようとしていることは理解してくれたのだろう?」

 ジョー・マクロイドはアリー・サンタモニカに向かってこう叫びながら拳を突き出す。ジョーにとっては友人のために試験を受けさせてあげたい、というただその一心にための行動でもある。それが間違った方法だと分かっていても、止めることはできないのだ。

「確かに理解はできたけど。あなたのやり方は間違ってる。こんなことをしなくても他に出来ることはある。それに」

 彼女もまた変身の能力を使用する。彼女の能力は使い方によっては相手を精神的に疲弊させることもできるのだ。

「僕はこんなこと、望んじゃいない。今すぐサラを解放してあげるんだ」

 今回彼女が化けたのは事の発端となっているもう一人の暴食の悪魔見習いである。化けたと言っても悪魔の外見自体はそこまで変わらないので、実際は声だけが変化していることになる。

「くっ、その声で私に語りかけるな!」

 悪魔の翼で耳をふさぎ、自分自身に洗脳をかけながらもジョーは攻撃を続ける。それをひらりとかわしながら、アリーはジョーに説得を続ける。

「君だって分かっているんだろう。僕がそこまでされて得た暴食の悪魔の権利を欲しがらないってことだって」

「黙れ黙れ黙れ黙れっ!」

 ジョーはそれでも一心不乱に攻撃を続ける。自分のしてきたことが間違いだとは分かっている。だがここで自らの行動を止めてしまっては、今までしてきたことの全てが無意味になってしまう。それは絶対に避けなければならなかった。

「ねえジョー。君が僕のために頑張ってくれたことは分かってる。でも、もういいんだ。僕は諦めがついてるから」

「やめろ! これ以上ガインを汚すな!」

 拳を突き出すジョーだが、その攻撃はアリーには届かない。

「……汚すなって言ったけど、本当に汚しているのは誰なの? あなたは友人のためと言ってはいるけど、それが本当に友人のためになると思ってるの?」

 アリーは変身能力を解くと、今度はそのままの声でジョーに語りかける。

「……分かっている。そんなことは分かっている。だが、ガインはあれだけ頑張っていたし、事実暴食の悪魔見習いの中でも一番優秀だった。そんな奴がたった一度、試験の日に風邪を引いたという理由だけで試験を受けられないなんて、そんなことはあんまりじゃないか。こんなことをしたってどうにもならないことは分かっている。それでも私が今ここで動かなかったら、この仕組みはいつまでも変わらないままじゃないか!」

 ジョーは膝をつく。心が折れた瞬間だった。

「そこまで分かっていて、どうしてあなたはやり方を間違えたの。あなたが大罪に選ばれるように頑張って、その大罪の使用人としてガインを雇うなり何なりやり方は他にもあったはず」

「うるさい。お前に何が分かる。お前に何が……」

 ジョーは涙を流しながらがっくりとうなだれる。

「分からない。でもこれだけは言える。あなたのしたことは決して正しいことなんかじゃない。自分の欲望を通すためにただわがままを言ってるだけ。それじゃあ誰もあなたの言うことなんて聞いてくれない」

「うっ、ううっ……」

 ジョーはすっかり戦意を喪失した様子だった。

「分かったらこの2人の洗脳を解いて早くサラたちを……」

とその時だった。アリーの後ろのドアが大きな音を立てて吹き飛んだ。そのドアは流れ弾のごとくジョーに当たり、ジョーは気を失ってしまった。

「あれ? いっけなーい力入れすぎちゃったかしら」

 7匹の悪魔のうちの1匹がそんな間抜けな声を上げる。

「……メル、そなた中に人質がおるのを忘れておったのではなかろうな?」

 呆れたように声を出すミルダを見て、アリーの膝から力が抜ける。

(……ミルダ様、来てくれたんだ)

 アリーの中で1つの戦いが終わった瞬間だった。

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