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我が家に悪魔がやってきた! いちがっき!  作者: 小麦
脱出せよ! それぞれの戦い
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作戦開始! 渾身の一撃

 樹がさらわれた後、アリーはケンにある頼み事をしていた。

「……ケン、お願いがある」

 樹が連れ去られて数分後、アリーはケンにそう話しかけてきた。

「何だよ改まって」

 ケンは不思議そうな顔をする。

「少しだけ耳を貸して。実は、私と入れ替わってほしいの」

 アリーはひそひそとケンに耳打ちする。

「……お前、それ正気かよ。確かにできないことはねーけど……」

「このくらいしないと多分さっきの悪魔見習いは欺けない。今お願いできるのはケンしかいないの」

「……まあいいか。お前とはこっちに来てからいろいろ行動してるしな。引き受けてやるよ」

 ケンはアリーのその言葉に少し考え、頷いた。



「……というわけで、俺はケンなんです」

 変身を解きながら、ケンはミルダ・ファルホークにそう告げる。

「知っておったよ。そなたたちが入れ替わっていたことくらいはの。第一、色欲の悪魔である妾がアリーならともかく、独学のそなたごときの変身を見破れぬわけがなかろうて」

 だが、ミルダは意外にも驚きを示すことはなかった。よく考えると以前アリーにも変身を見破られていたことがあったので、このくらいは妥当なところだろう。

「じゃあ今までの説明は……」

「もう化けなくてもいいという妾からの合図のようなものじゃ。ではケン、改めて本当の作戦を指示する。今から一度マーラのところへ戻るが、そうしたら全員で奴らを拘束しにかかる。戦力はお主たちが戦った時点で既にたかが知れておるのでな」

「全員? 全員ってどういうことですか?」

 ケンはミルダのその意味深な言い方に首を傾げるが、

「行ってみれば分かることじゃ」

 ミルダは不気味な笑みを浮かべた。



「まったく、しかし余計なところで手間取ることになったもんだ」

 設置したカメラを監視できる部屋まで戻ってきた翔はそうため息をつく。ジョーとあの悪魔見習いを戦わせなければならなくなったことはかなりの想定外だった。

「さて、樹は……」

 モニターを確認する翔だったが、彼はすぐに言葉を失うこととなった。樹と悪魔見習いの2人がいたはずの部屋の監視カメラだけがきれいに壊されていたのである。

「……何をしたのか知らないけどこれじゃ樹たちのことを確認できないじゃないか。仕方ない、向こうまで戻って確認するか」

 翔は樹たちがいた部屋へと向かうため、部屋を後にする。だが、そのせいで彼は9人の侵入者に気付くことはなかった。



「なっ……」

 樹を監禁していた部屋に入る翔だが、樹どころかあの悪魔見習いの姿すらどこにもない。縛っていたはずの手錠は壁ごと壊されていて、2人は姿を消してしまったのだ。

「くそっ、あいつは何をしたんだ」

 翔は苛立つように足元を蹴る。

「……沙良」

 翔の頭上で一瞬そんな声が聞こえた気がした。

「そこか樹ぃ!」

 上を見上げる翔だが、そこに樹の姿はない。

「あぐっ!」

 そしてその数秒後、翔は首に鈍い痛みを感じ、そのまま気を失ってしまった。



「……サンキュー沙良。お前がいなかったら多分うまくはいってなかっただろうぜこの作戦」

 倒れた翔を見ながら、俺はそんな言葉を漏らす。

「いえいえ、樹さんの機転と作戦があったからこそですよ」

 翔に翼で手刀を見舞った沙良はそう言いながら抱えた俺と共に地に足をつけた。

「しかし、ヴァンパイアさながらでしたねえ天井に身をひそめるだなんて」

 沙良は俺を降ろしながらうっとりしたような表情をする。ヴァンパイアが好きなのか天井に身をひそめてみたかったのかは分からないが、この様子だとおそらく前者なのだろう。

「俺だってまさか生きてるうちに天井に足をつけることになるとは思ってなかったよ」

 俺はため息をつく。

「いやあ、いいですねえヴァンパイア……」

「感動してるのはいいけど、とりあえずこいつを縛るの手伝ってくれ。目を覚まされたら何されるか分かったもんじゃねーからな」

「あ、了解です。私もまた拘束されるのは嫌ですからね」

 沙良はリモコンの青ボタンを押すと、手際よく縄を取り出す。

「何で縄がそう都合よく出てくるんだよ」

 俺は呆れながら聞く。

「いや、ほら契約者の方が特殊なプレイとか好きな方かもしれないじゃないですか」

「縄使うプレイって何だよむしろ」

「女王様とお呼び! みたいな感じですかねえ」

 沙良はしみじみと答える。

「……お前のツボが分からん。とりあえず翔を縛るとするか」

「はい、それはもちろん」

 沙良は頷いた。



 時は数十分前に遡る。

「ところで、作戦を説明する前に、聞きたいんだが、もしかして、お前の吸収の能力って、俺の体の傷とかも、消せたりするのか?」

 手錠の拘束から解かれた俺は、言葉をやや途切れ途切れにさせながら沙良にこう聞く。

「ええ、まあ。一応形を問わず吸収できるのが私の能力なので、目に見える外傷だろうと、目に見えないトラウマのような心的外傷であろうと何でも吸収できますよ。言ってしまえば間接的に治すことも可能ですね。さすがに洗脳を解くことまではできませんけど。そっちはケンの領域ですね」

「……やっぱり、お前の能力は、他のやつに比べて、強すぎるんじゃねーか?」

 俺は若干引き気味に尋ねる。

「よく言われます。で、治して差し上げましょうか?」

「頼む。使える時にお前の能力は、使っておかねーとな」

 俺は少しでも沙良の助けとなるために、彼女に治してもらうことにした。

「ええ。私の存在意義は契約者の樹さんに酷使されることにありますからね。では、また目をつぶっていただけますか?」

「おう」

 俺は目をつぶると、今度は特に音もなく、俺の体の傷は消えていた。

「今度は音がしなかったな」

「さっきは質量のあるものを吸ったので、半分掃除機みたいな感じでしたからね。今回は今までの樹さんの疲れとかも同時に吸っておいたので、相当体の調子はいいはずですよ」

 言われてみると体がいつにも増して軽いような気がする。

「よし、これなら動けそうだな。じゃあ、今度こそ作戦を説明するからな」

「はい」

 沙良は頷いた。

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