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連れ去られた樹

「しかし洗脳か……。どうしたらいいんだろうなみんな」

 ケンは困ったように8人を見て俺たちに聞く。だが、俺も含めた他の3人は別のことに頭を悩ませていた。

「この操られてるのって……」

「明らかに人間。たぶん、これまでニュースになってきた誘拐事件の被害者だと思う。数もちょうど8人だし、十中八九間違いない」

「彼らをどうするかもよく考えないといけないということじゃな」

「あのー、もしもーし」

 ケンが完全にスルーされてることに気付き、声をかけてくる。

「気を失わせた状態で妾が人間界に送り届けても良いのじゃが、何分彼らの身元が分からぬしのう……」

「身元なら私が魔界に来る前に調べておきました。ニュースで報道されていたので」

 アリーはミルダにリストを手渡す。

「おお、さすがじゃな。仕事が早くて助かる」

「じゃあこれで大丈夫そうですね」

 3人は頷く。

「……おーい」

「何だよケンさっきから」

 そろそろ反応してあげないと可哀そうだと思った俺はケンの方を向く。

「いや、だから肝心の洗脳を解く方法はどうやるんだって」

「……お前、数時間前の自分の発言を思い出してみろよ」

「数時間前……あっ」

 ケンもようやく思い出したようだった。



「補足しとくと、俺の能力は死人には効果がない。代わりに催眠術にかかった相手を元に戻したりなんてこともできるんだぜ?」

「私の能力は悪魔見習いが元々持ってる変身の能力をさらに強化したものだから説明は省略する」



 ケンはこんな説明を俺にしていたのだった。

「お前の能力が催眠術を解けるんだったら、この洗脳だって原理は似たようなもんだろ? お前ができないって言うならまた考えないといけないけど」

「い、いや、たぶん何とかなるはずだ」

 ケンは彼らの目の前に近づいた。

「久しぶりだな、人の目を見るのも」

 そう言ったケンは全員の目を次々と1秒間隔で見ていく。すると、俺たちを通せんぼするように立っていた8人は次々と気を失って倒れていく。

「……ケンの能力は超回復にしろ洗脳解除にしろすごいんだけど、本人が時々抜けてるから周りが助けてあげないといけないのが玉に瑕」

「おいそれどういう意味だよ!」

 すべての洗脳を解き終わり戻ってきたケンがアリーに突っ込みを入れる。

「その辺りにしておけ。では、妾はこの8人を人間界まで気付かれぬようにそっと送り届けてくるから、少しの間待っておれ」

 そう言ったミルダは、8人を抱えて空間を開くと、その裂け目に飛び込んでいった。

「で、ミルダ様を待ってる間何してるかだけど……」

 アリーがそう言いかけた時だった。

「作戦通り、かな」

 目の前から突然悪意に満ちた声が響く。

「誰だ!」

 俺は叫ぶが、そこで気付く。

「誰とは失礼な挨拶だな。一応昔は友達だったじゃないか」

 木の陰からナイフを持ち姿を現したストレートのミディアムヘアの人物、その正体は俺たちがずっと探していた男であり、俺の知り合いだった男だった。

「翔……!」

「あなたの方から来てくれるとは思わなかった。さっさとあなたを確保してサラたちは返してもらう」

 アリーはすぐに間合いを詰める。だが、

「おっと、それ以上近づかないでよ。こいつらがどうなってもいいって言うのなら話は別だけどさ」

そう言って翔が両方の木の陰から呼び寄せた人物を見てアリーだけではなくケンの動きまで止まってしまう。

「麻梨乃……!」

「……桜もかよ」

 2人は翔の横に立つと微動だに動かなくなった。翔は2人の肩に手を回す。

「どうしたの? 僕を捕まえるんじゃなかったっけ?」

 ナイフを首筋に当てられている麻梨乃と桜を見て、ケンもアリーも一歩も動けなくなる。

「ケン、あなたの洗脳解除の能力は使えないの?」

「ダメだ。距離が遠くて使えない」

「そりゃそうだ。さっきの茶番は洗脳解除できる君の能力の間合いを測るためのもので、意味なんてなかったんだから。馬鹿正直に君たちがあいつらの洗脳を説いてくれて助かったよ。おかげで君の能力の底は知れた。そして君たちにあの色欲の悪魔のような空間移動の能力は使えない。これは僕の契約した悪魔見習いが言ってたんだ。間違いないだろ?」

 狂ったような声でケンとアリーの会話に割り込んでくる翔。こいつの性格はまるで昔と変わっていない。むしろ以前よりも悪くなっている。

「さて、手出しのできない悪魔見習いどもに用はない。僕が用事があるのは君だよ樹。僕と一緒に来てもらおうか?」

 手招きする翔。

「……桜と吉永さんの洗脳状態を解くって言うんならついて行ってやってもいい」

「それはできないな。彼女たちを解放したらそこの2人が僕を倒しに来るだろ」

「なら断る。自分の言い分がいつもいつも通ると思うなよ」

 俺は翔を睨み付けると、はっきりと断った。

「交渉決裂だな。ジョー、後は任せたよ」

「……仕方あるまい」

頭上から声がすると、黒い翼をはやした悪魔が突然俺の目の前に現れた。

「君に恨みはないが、私にも目的がある。ここは無理やりにでもついてきてもらおう」

 悪魔は両手を俺の顔の前に突き出す。

「だから断るって言って……ん……」

 だが、俺の言葉は途中で途切れてしまう。そのまま俺はその場に崩れ落ち、その体を目の前の悪魔に預けてしまった。



「樹!?」

 ケンが大声を上げるが、その声はもう樹に届くことはなかった。

「ジョーの洗脳の能力はね、相手の意識を刈り取る時にも使えるんだ。それじゃ、樹は預からせてもらうよ」

 翔はそう言うと、ジョーの傍に近寄った。

「分かってると思うけど、僕たちの後をつけてきたらこの3人の命は保障できなくなるからね。それと、君たちの知り合いの悪魔見習いも。それじゃ行くよ、ジョー」

「……分かった」

 ジョーは樹と桜を右に、麻梨乃と翔を左にそれぞれ抱えると、森を飛び立った。

「くそっ!」

「ここまで完璧に出し抜かれるなんて……!」

 アリーとケンはその場に立ち尽くすことしかできなかった。

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