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謎の少年 成島翔

「でも、そもそも1人だけを選ぶってことからして、1人はこの場から追い出そうとしているはず。つまり、やっぱりケンを……」

「やめろアリー。その考えは意図的に消してるんだから」

「だったらもう俺に全員で投票すればいいだろ……」

 アリーと俺の軽口を聞いてケンは軽くいじけ気味になっていた。

「冗談。とはいえ、この投票でうまく票をばらけさせる方法なんてあるの?」

「そうじゃな。この課題を突破する方法があるとは思えぬが」

 アリーとミルダは俺に聞いてくるが、俺は無言のままだった。

(そうなんだよな。そう簡単に全員の票をばらけさせることなんてできないしな……。かといって投票しないって方法も使えない……いや、待てよ?)

 そこで俺は気付く。

「あった……!」

『!?』

 全員が声にならない驚きを上げる。

(でも、全員がこの方法に気付けるか……?)

 それは無理だろう。相談もなしにこの方法に全員が気付けるとは思えない。ならば、ここは俺が全員の意見として代弁するしかないだろう。

「マーラさん。他の人の票を俺がまとめてあなたに渡すことは可能ですか?」

「構わないわよ。その方が回収するときに楽だし」

「分かりました」

 マーラの返答を聞いた俺は、全員の紙を回収した。

「お、おい」

 ケンだけがそんな言葉を言いかけるが、俺はそのままマーラにその紙を手渡した。

「これが俺たちの答えです」

 俺は何も書いていない4枚の紙をそのままマーラにつき返す。

「どういうこと? 名前を書いてくださいって言わなかったかしら? 投票を諦めたって解釈で言いの?」

 マーラはそう俺に聞く。

「いえ、これも立派な投票ですよ。選挙にはいくつか投票の種類があります。あなたの言った名前を書くこともそうですけど、その条件に適する人がいないから名前を書かない、いわゆる白票って投票の仕方だって世の中にはあるんです」

『!』

 マーラも含めた全員が気付く。

「たぶんあなたの解答には他の正しい答えがあったんだと思います。でも、それをこの3分で俺たちがその答えに辿り着くには時間が足りなかった。だから俺は投票の裏をかく、いわゆるひねくれた解答をしたんです」

「……君、なかなかいい子ね。ふふふ、惚れちゃいそう」

 恍惚の表情で俺を見るマーラ。俺は背中にうすら寒いものを感じた。

「いいわ。この3分であなたの出したこの解答を私は正しいものとして認めます。約束通り、全員に情報を教えるわ」

 とうとうマーラは俺たちを認め、情報を教える約束をしてくれるのだった。



 一方、悪魔界の某所では。

「……ここは?」

「気付きましたか桜さん」

 捕らえられた沙良が目覚めた様子の桜に声をかける。その隣ではまだ麻梨乃が意識を失ったまま横たわっている。

「確か私たち、樹君を助けるために暗号を解いて、樹君の場所を見つけて、そこに向かおうとして、そのまま……」

 意識を失ったときのことを思い出す桜。

「って沙良さん、何でそんな鎖に縛られて……」

 閉じ込められただけの桜と違い、錆びついた鎖に縛られて動けない様子の沙良。

「その理由は分かりませんけど、1つだけ言えることがあります」

 両手両足を縛られたまま、沙良は力なく呟く。

「どうやら私たち3人は魔界に連れて来られてしまったようです」

「魔界って……、あの沙良さんの故郷の?」

 桜は聞く。

「はい。この独特の感じは人間界ではあり得ませんし、それに何よりこの私を縛っている鎖は人間界にあるものだけでは作れないものですから」

「さすが唯一人間界に降りることを認められた暴食の悪魔見習いだね。頭はすごく回るみたいで安心したよ。説明の手間が省けるからね」

 沙良の説明に反応する声、それも声変わりしていないやや高めの少年の声が響いた。

「!? 誰ですか?」

「僕の名前は成島翔なりしまかける。君をここに誘拐してきた悪魔見習いの契約者さ」

 姿は見えないものの、そう答える少年。多少音質が悪いことを踏まえると、おそらく通信機器か何かを利用しているのだろう。

「契約者……? ってことは、まさかあなたは人間ですか?」

「ご名答。今僕たちはある計画のために様々な準備をしていてね。君もその計画に必要なピースの1つなんだ。だから、悪いけどそこで大人しくしていてもらうよ」

 少年はそんなことを言った。

「計画? 何のことですか?」

「君に言う義理はないね」

 少年が沙良の問いに答える様子はなかった。

「詳しく答える気はなさそうなので、別の質問をさせていただきます。私はともかく、どうして桜さんと麻梨乃さんまでさらったんですか?」

「ああ、それはね」

 そう少年が言った直後だった。それまで無言だった桜が突然立ち上がる。それどころか気を失ったままの麻梨乃までもが目を閉じたまま立ち上がった。

「……桜さん? 麻梨乃さん?」

「こっちは私用でね。君のよく知る人物にちょっとした復讐も兼ねて挨拶するのに使うのさ」

「私の知り合いですって?」

 沙良は聞き返す。この少年の意図が全く読めない。そうしている間にも桜と麻梨乃の2人はゾンビのような歩き方で扉の入り口に近づいていた

「まあ、君は何も考えずにそこで大人しく捕まっているといいよ。君は僕の契約した悪魔見習いが必要としてるだけで、正直僕にはどうでもいいしね。それじゃ、また近いうちに連絡するよ」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 まるで昔からの旧友に挨拶するかのような気楽さで通信を切る少年。沙良の声は少年にはすでに届いていなかった。そして、入り口の桜と麻梨乃の前にある扉は、2人に反応するかのように開き、2人はふらふらと扉から出ていく。

「桜さん! 麻梨乃さん!」

 沙良は目いっぱいの声で叫ぶが、2人にその声は届くことなくそのまま出て行ってしまう。そして、目の前の扉は2人が出ていくと同時に閉じ、部屋には沙良1人だけが残された。

「そんな……」

 沙良は絶望の表情で目の前の扉を見つめるのだった。

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