トランプの暗号 ミルダの来訪理由
「そもそも悪魔見習いの能力ってどんなものがあるんですか?俺沙良以外の能力はまるで知らないんですけど」
俺はミルダにそう聞いてみる。
「それもそうじゃな。では……」
ミルダがそう話し始めようとしたその時だった。
「ちょっと待ったー! そいつは俺から説明させてもらうぜ!」
「……その登場の仕方がかっこいいと思ってるのケン?」
男性と女性の声が響くと同時に2人の人物が倉庫に入ってきた。それは俺のよく知る人物たちだった。
「ケンとアリーか。そなたたち、何の用じゃ?」
「いえ、実は私たちも少し気になることがあったんです。それで、そのことについて聞かせていただこうかと思いまして」
「……まあ良い。して、ケンはなぜここに?」
「俺の提案に乗ったアリーがここに来たんですよ」
「ふむ。まあそういうことなら能力の解説はそなたたちに任せておくとするか」
ミルダは宙に浮かぶと目を閉じる。
「というわけで、悪魔見習いの固有能力について説明するぜ!」
「ケン、暑苦しい」
アリーの的確な突っ込みをスルーすると、どこから持ち出したのかケンは模造紙を壁に張り付けた。
(暴食……吸収 形を問わず、あらゆるものを吸い込むことができる)
(怠惰……回復 肉体でも精神でもあらゆるものを回復することができる)
(色欲……変身 老若男女、動物や物などあらゆるものに変身することができる)
(傲慢……模倣 出会った相手の能力(勉強・運動・悪魔見習い固有の能力なども含む)を全て自分のものに出来る)
(嫉妬……監視 自分が望む者の動向を知ることができる。能力を使用していない場合でも、ぼんやりとその位置くらいなら分かる)
(憤怒……洗脳 指定した対象を操ることができる)
(強欲……絶命 どんな願いでも叶えることができる代わりに、願いを叶えた者の命を奪う)
「これが全悪魔見習いの固有能力だぜ」
「これは分かりやすいな……」
俺は感動する。めんどくさがり屋で気分屋のケンがまさかこんなに詳細に能力を示してくれるとは。
「まあ、これを作ったのは私だけど」
「お、おいアリー!」
前言を撤回しよう。やはりケンはケンだった。言われてみるとケンが書いたにしては字がきれいすぎるようにも見える。
「補足しとくと、俺の能力は死人には効果がない。代わりに催眠術にかかった相手を元に戻したりなんてこともできるんだぜ?」
「私の能力は悪魔見習いが元々持ってる変身の能力をさらに強化したものだから説明は省略する」
2人は自分の能力についてそんな説明をする。
「それでじゃが、今回問題となっておるのはこの憤怒の悪魔見習いの能力なのじゃ」
説明が終わったことが分かると、ミルダは目を開け地に足を付けた。
「憤怒の悪魔見習いと言うことは、洗脳ですか?」
俺の質問にミルダは頷く。そこでアリーが点と点が繋がったような顔をして聞く。
「ミルダ様、もしかしてこれは今人間界で発生している集団失踪事件と関係があるのではありませんか?」
「そなたもその事件を知っておったのか。その通り、妾たちが人間界に降り立っているのはその調査のためじゃ」
ミルダはそう俺たちに告げた。
「で、これは一体何なんでしょうか」
一方の沙良たち女性陣は復活した桜も含めた3人で暗号を解いていた。
「トランプの12 スペードの1の6 クラブの11の3 ダイヤの13の11 ハートの12の7かあ。まずはトランプの12が何なのかってところよね」
「そうね……。トランプの12は暗号にも出てきてるけど、スペード・ダイヤ・クラブ・ハートのどれかなのかしら」
麻梨乃はそんなことを言ってみるが、
「いや、たぶんトランプの方も暗号なんじゃないかしら。第一このままじゃどのマークなのかも分からないし」
「それに何よりお母様が作った暗号であることを考えると、多少捻ってあることを疑った方がいいかもしれません。今までのものがそうでしたし」
沙良はそう言うが、
(今まではこんなに難しくなかったと思うんだけど……。ここで話の腰を折るとまた時間かかりそうだし今はやめておいた方がいいわね)
桜は沙良の方を見てそんなことを考える。
「だとしたら、これを何かに変換してみるっていうのはどう? そういうのって暗号の鉄則じゃない? それに13と12の数字がひっくり返ってるのは、もしかしたらない文字を無理に当てはめようとしたからかもしれないし」
麻梨乃はそう提案する。
「例えばこれをローマ字表記にすると……」
麻梨乃は持っていたペンと髪をポーチから取り出すと、torannpu,supedonoroitinorokuといった具合に書き出していった。
「まあ、これはトランプの文字が12じゃないから違うみたいね」
「なるほど……。でも麻梨乃さんのこの発想は使えるかもしれないわね」
桜はそう言って考え込む。とここで沙良が何かひらめいたのか声を上げる。
「これ、もしかして英語なんじゃないでしょうか?」
「英語か……。それなら私に任せて」
麻梨乃は先ほどと同じようにサラサラと書き出していく。
「トランプは英語でPLAYING CARDSでしょ。残りはこんな感じで……」
数秒後には麻梨乃によってすべての英語が書き出されていた。
(Playing Cards Spades of Ace Clubs of Jack Diamonds of King Hearts of Queen)
「麻梨乃さん詳しいのね……」
桜は感嘆する。
「一応英語は苦手じゃなかったから。とりあえずこれで合ってるかどうか、確認してみましょう」
麻梨乃はあてはまる文字に丸を付けていく。1つ目はS、2つ目がO、3つ目はU、4つ目がK、最後の5つ目はO。
「これを繋げていくと……」
「そ……う……こ…倉庫ですね!」
沙良はそう叫ぶ。
「この辺りで倉庫って言ったら確かこないだ行った海の近くの倉庫しかないんじゃない?」
麻梨乃はそう言う。ちょうど最近行ったので覚えていたのだ。
「沙良さん時間は?」
桜が聞く。
「えっと……、まずいですあと5分くらいしかありません!」
「急ぎましょう」
桜と沙良は頷き合う。
「私も連れてってくれないかしら? せっかくだから最後まで付き合わせてほしいの」
麻梨乃は2人にそう提案する。
「もちろんです。みんなで行きましょう」
沙良は桜と麻梨乃を掴むと、飛行能力で倉庫へと向かうのだった。




