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我が家に悪魔がやってきた! いちがっき!  作者: 小麦
樹を救え! 母親からの挑戦状
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1つ目の暗号 サアブヌほうこ

「そんなめちゃくちゃな……」

 沙良は絶句する。

「これはそなたに悪魔見習いとしての自覚を持ってもらうためのものじゃ。これでもいつもよりは大分譲歩したつもりじゃが?」

 ミルダはそう沙良に言う。

(確かにいつものお母さまなら樹さんをさっさとさらって事後承諾でもおかしくはないはず。ここでわざわざ樹さんに事前承諾を得ている分、いつもよりは良心的だと考えていいのかもしれません)

「……分かりました。今から2時間以内ですね」

 沙良はそう考え頷いた。

「では、準備ができたとみなす」

「うわっ!」

 そう言ったミルダは俺を片手でひょいと抱え込んだ。

「樹よ、何か言うことはあるか?」

「はい」

 俺は抱え込まれた状態のまま、沙良の方を見る。

「沙良、何をしてもいい。この悪魔から安全に俺を救い出してくれ!」

「……はい!」

 俺の言葉を聞いた沙良は返事をする。

(この男……)

 ミルダは俺をチラッと見ると、

「それでは、ゲームスタートじゃ。このゲームは暗号に沿って進められるから、暗号をよく読むがよい」

そう言って俺の家から姿を消した。



「うわっ!」

 俺が姿を消してから数秒後、俺はミルダと共にある場所に放り出された。ミルダは俺の方を見る。

「先ほどのそなたの言葉、一件意味のない言葉のように見えるが、そなたのおかげで妾が無駄に条件を提示する必要がなくなった。サラが見つけただけあって、そなたもなかなかの切れ者と見える」

 ミルダは俺をそう評価した。どうやら気に入られはしたらしい。

「沙良が悪魔になるためには俺が私利私欲の願いをしなくちゃいけない。だったらあの場面でしか俺が沙良に願いを言うチャンスはない、そう判断したんです」

「良い判断じゃ」

 ミルダは頷く。

「しかし分からぬのはそなたのその無欲さじゃ。普通の人間ならば誰しもが何かの欲望に忠実に生きているもの。じゃがそなたからは欲望に対する貪欲さがまるで感じられぬ。そなたほどの切れ者ならば何かしらの願いがあっても良さそうなものじゃが、なぜそなたにはそれがないのか、参考程度に聞かせてもらえはしないかの?」

「俺に欲望がない理由ですか……。しいて言うなら、その怖さを知っているから、でしょうか。欲望を持った人間はその欲望に忠実に生きます。それは時に人間関係を破壊し、時に自分の人生を狂わせます。俺はそうはなりたくないって思ったんですよ」

 俺はそんな遠回しな言い方をする。

「そなた、前に何かあったのか?」

「……まあ、昔の話ですよ」

 俺はそれ以上は語らなかった。



 一方の沙良はと言うと、ミルダと樹の2人が消えた後に落ちていた1枚の紙に頭を悩ませていた。

「サアブヌほうこって何ですか……」

 どうやら暗号文のようなのだが、何を意味しているのかさっぱり分からなかった。

「……これは仕方ないですね。皆さんの力をお借りするしかないでしょう」

 沙良はある場所へと連絡をかけた。



数分後、

「で、俺たちを呼び寄せて目的は暗号解読だって?」

「サラ、最近私たちを頼ってばっかり」

 いつものように呼び出された悪魔見習いの2人、ケン・ゾークラスとアリー・サンタモニカはそう不満そうな顔をする。

「樹さんが私のお母様にさらわれてしまったんですよ!」

 必死に説得を試みる沙良だったが、

「話を聞く限り、あなたの契約者を殺すことはないってミルダ・ファルホーク様はおっしゃっていた。つまり、私たちがサラに協力してまであなたの契約者を助ける理由が見当たらない」

「それに、タツッキーがさらわれたのだってサラのことを考えてのことなんだろ。お前が助けに行ってやらなくてどうするんだよ」

「それはそうなんですけど……」

 2人に正論を言われてしまい、返す言葉もなくなってしまった。

「暗号が分からないなら、自分で調べる。そろそろ人に頼りすぎるのはやめた方がいいと思うぜサラっち。今のお前は俺より消滅する危険のある場所にいるんだから」

 一応手渡された暗号の両面を見て、それを沙良に返すケン。

「そろそろ自分が落ちこぼれてきている自覚を持つべき」

 アリーも同じように沙良に暗号を突き返した。

「……あーもう分かりました! だったら帰ってください!」

 あまりに文句を言われ過ぎていたたまれなくなった沙良は2人を家から追い出した。

「そんなに言うなら自分1人で解きますからいいですよまったく」

 ぶつぶつとひとりごとを言いながら、沙良は再び1人で暗号に立ち向かうことにした。



「でもあれで良かったのかよアリー」

 ケンはそう聞く。もちろんあの態度は2人の本心ではない。

「サラには自立してもらわないといけない。私たちがいないと何もできない子になってしまうのは今後いろいろと困るから」

「そりゃあそうなんだけどなあ……」

 ケンは頷きながらも同意しきれない様子だった。

「まああなたは怠惰の悪魔見習いだし、だらけている人を見ると居心地が良くなる気持ちは分かるけど」

「おいそれどういう意味だよ」

すかさず突っ込みを入れるケン。

「怠惰の悪魔見習いは相手が堕落していく様を見て快感を得られるように脳ができているところがある。それは助け合いと言う形で発揮されたりもするけど、その一方で主体性のない人間を量産してしまうところもあるってこと」

「詳しく説明されても言い返せないのがすごく悔しいんだが」

 ぐうの音も出ない返答に落ち込むケン。

「だから、今回は私たちの力抜きでサラには頑張ってもらう。来る前に見せたでしょ、ミルダ様からのメール」

 実はアリーが既にミルダから手助けするな、と連絡されていて、ケンにもその連絡がアリーを通して来ていたのである。手助けしてはいけない理由は2人が悪魔見習いだからで、ここで沙良に協力してしまうとあっという間に事が済んでしまうためだという。

「……分かったよ。俺から手助けするのは今回はやめてやる。でも、やっぱりあいつに協力はさせてもらうぜ」

 だが、ケンはいつも使っている多機能リモコンを取り出すと、そんなことを言った。

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