アリーの本当の目的
桜の家のチャイムを鳴らした人物が誰なのかはすぐに分かることとなった。
「戻って来たかタツッキー、それにサラっちも」
ケンは二人を見てそう言う。
「ああ。いろいろ面倒かけたなケン」
「おかげさまで戻ってきましたよ。樹さんは人使いが荒いので困ったもんです」
というのも部屋に沙良と俺が入ってきたからである。麻梨乃はもちろんアリーも俺たちを見て驚いていた。
「……なるほど。サラの能力なら確かに記憶操作も簡単。2人の仲直りもできるし、ケンにしてはよく考えた方」
「俺にしてはは余計だっての」
せっかくの活躍の場なのにそんな扱いをされてふてくされるケン。
「記憶操作?」
「簡単に言うと、サラの能力の1つ。この子は暴食の悪魔見習いで、吸収の能力を持つの」
聞き返す麻梨乃にアリーがサラの能力を説明する。
「へー……」
麻梨乃は感心するばかりだ。
「ただ、麻梨乃さんに1つ忠告しておきますが、基本的に一度悪印象になった場合、そこから好印象に持っていくことははるかに難しいです。今回は私の能力を使用したので関係の悪化は避けられましたけど、今度からは見知らぬ人に対する人間関係にももう少し気を付けて生活することをお勧めしますよ」
「……そうね。あの時の私は自分が一番偉いと思ってたからそんな態度を取っちゃったのよね。今度はもうそんなことをしないように気を付けるわ」
麻梨乃のその答えに沙良は頷いた。
「ただ、分からないのはあなたたち2人がこんなに早く元の関係に戻ったこと。あなたたち2人の間に何があったの?」
アリーはそこだけがいまだに分からないと言う。
「……ま、半分お前のおかげだな。お前が沙良のことを教えてくれなかったら、きっと俺たちはずっとこのままの関係だったと思うし。アリーがあそこで動いてくれたから、俺たちは本当の契約者同士になれたような、そんな気がする」
「……別に褒めても何も出ない。私だって自分の目的があって動いただけだし」
アリーは顔を赤くしてそっぽを向く。照れていると考えるのが良さそうだ。
「それと、ケン。お前にはいろいろ助けられてると思う。本当にありがとう」
「ま、このケン・ゾークラス様にかかれば簡単なことよ。なんてな」
ケンは笑顔で俺に返す。
「本音を言うならお前たち2人が喧嘩してるところを見たくなかったんだよ。前に一度桜と俺が喧嘩してたときも、お前らがいたから俺たちは仲直りして契約できたんだからな。今度は俺が仲直りさせる番だって、そう思っただけさ」
「いろいろとありがとな。まあ、こないだの潮干狩りのことはまだ許してないけど」
「そ、それはそろそろ許してくれても……」
途端に焦ったような声になったケンを見て、俺たちは全員笑いあった。
「それじゃ、大したものじゃないけどどうぞ」
そんな話をした数十分後、桜から呼ばれた俺たちは彼女の家のカレーをごちそうしてもらうことになった。
「いただきまーす!」
沙良はそう言うや否や、ものの数秒でカレーを平らげてしまう。
「桜さん、おかわりいいですか?」
そのペースに全員があっけにとられる。
「は、早いのね沙良さん……」
「ほら、私暴食の悪魔見習いですから」
笑顔で答える彼女に全員が苦笑いを浮かべるしかなかった。
「それじゃ、お邪魔しましたー」
桜たちと別れた俺と沙良、そしてアリーと麻梨乃は途中まで同じ方向だと言うので一緒に帰ることとなった。
「結局サラあの後5杯もカレー食べてたけど。あなたの胃袋の広さは変わってないみたいで安心した」
アリーはそんなことを言う。
「まあ、今まで樹さんの家で大分我慢してたところはありますから」
沙良はそう答える。
「ところで、そんなことよりアリーに1つ聞きたいことがあります」
「……何?」
アリーは雰囲気の変わった沙良を見て身構える。
「そろそろ教えていただけませんか?」
「……何を?」
アリーはあくまでとぼけるつもりのようだ。
「私を監視していた理由です。確かに担任の先生に言われたなら一見筋が通っているようにも見えますが、あなたがそれだけの理由で私を監視していたとは思えないんですよ。何より、樹さんの考えを無理やりに変える必要まではないはずだと思いまして。それに、先ほど自分の目的みたいな言葉も口走ってましたしね」
沙良のその言葉を聞いたアリーはため息をつく。
「……言ってもいいけど、たぶんあなたの嫌いな面倒事になる。それでもいいなら話すけど、どうする?」
「構いません。私も樹さんも、そのくらいの覚悟はできていますから」
沙良の言葉に俺も頷く。
「私もアリーがどうして二人をずっと見てたのかは気になるわね」
麻梨乃もそんな言い方をする。
「なら教える。どのみちもうそんなに時間はないし」
「それってどういう……」
そう言いかけた俺を今から説明するから、と制止するアリー。
「私がサラたちを監視していた理由は2つ。1つは担任の先生から頼まれたから。ただ、これはあなたたちの行動を監視するものじゃなくて、見かけたら元気かどうかを知らせてくれってだけのもの」
「じゃあ、もう1つは……」
俺が聞く。
「もう1つは、あなたの母親。現色欲の悪魔、アスモデウスの名を持つミルダ・ファルホーク様からの指令」
「私の……お母様?」
沙良は驚いたように聞き返す。
「そして、私からあなたの様子を聞いた彼女からの返信はこう」
そこで一拍置いたアリーは衝撃の事実を突きつける。
「妾の娘がそんなにふがいないのであれば、一度近いうちに見に行く必要がありそうじゃ、だって」
その言葉に驚く俺だが、それ以上に沙良の血の気が引いて行くのが分かる。
「そんな……」
一難去ってまた一難、どうやら俺たちに襲い掛かる問題はまだまだ全て解決することはなさそうだった。




