サラと樹のために 立ち上がるケン
「……で、ここを指定したのはどういうことだアリー?」
5分後、ケンはアリーの指定した場所にやってきていた。その場所はケンがつい最近利用した場所であり、アリーが樹を助けに行った場所でもある倉庫の中だった。
「別に深い意味はないけど。ここが一番指定しやすかっただけ。あなたと私の唯一の接点だし」
既に到着していたアリーがケンの声を聞き振り向く。
「それで、私に聞きたいことって何?」
「……今ので確信が持てた。単刀直入に聞く。お前、ひょっとして嫉妬の悪魔見習いでもあるんじゃねーのか?」
ケンはそう聞く。
「……っ、どうしてあなたがそれを」
アリーは明らかに動揺していた。
「なるほど。サラの言葉でもしかしてとは思ってたけどやっぱりか。嫉妬の悪魔見習いの能力は監視。色欲の悪魔見習いのお前がこんなに俺たちの動向を知ってるわけねーと思ったんでな。俺の情報網をなめてもらっちゃ困るんだよ」
ケンは自信たっぷりにそう言う。
「……そこまで知ってるとは。やっぱりあなたと知り合ったのは良くなかった」
「それで、一体何が目的なんだよ。俺も監視対象に入ってたみたいだし、7つの大罪の中でも嫉妬の悪魔見習いに関する話でいい話はあんまり聞かないぜ? 場合によってはお前を問い詰めなきゃいけなくなる」
ケンはアリーを鋭い目で見る。
「……あなたにできるの? 私の能力だって把握し切れてないあなたが」
「できないかもしれないな」
言い返すかと思われたケンは一変、そんな風に返す。
「それでも私にそこまでする理由は何?」
「……サラの」
「?」
アリーは首を傾げてケンの方を見る。
「サラたちのあんなに悲しそうな顔を見たくないだけだ。それだけでも俺がお前に立ち向かう理由としては充分だろ?」
ケンの表情が自信に満ちたものになった。
「あなたも怠惰の悪魔見習いとしては落第点ね」
「それでもいいさ。ただ、俺が勝ったらお前の目的、教えてもらうぜ」
「分かった。あなたの友人のアリー・サンタモニカとして、それは約束してあげる。ただし、あなたの知らないアリー・サンタモニカを攻略できればの話だけどね」
そう言ったアリーは一瞬でケンのところまで間合いを詰める。
(ゲームスタートか)
ケンは接近してきたアリーから少し離れ、即座に間合いを取る。そして、次の瞬間、両雄は激突することとなった。
「ここが町村君に呼ばれた家か」
一方、吉永麻梨乃は樹に呼ばれ、桜の家へとやってきていた。
(アリーはケンとかいう悪魔見習いに呼ばれてどこかに行っちゃうし、いったい今日はどうしたのかしら)
麻梨乃は少し考えるが、考えても分からないことだと判断し、目の前の家のチャイムを鳴らす。
「はーい、どうぞ……」
女の子の声がすると共に、高校生くらいの女の子が姿を現す。おそらく彼女が樋口桜だろう。
「お邪魔しま……」
そう言いかけた麻梨乃が目の前を向いた瞬間だった。
「……あなた、確か潮干狩りの」
「……まさか、あなたが吉永麻梨乃さん?」
お互い嫌そうな顔をする。桜は麻梨乃に追い払われていい気持ちがしなかったし、麻梨乃は以前にしてしまった反応から気まずさが先に来てしまっていた。
「とりあえず上がってください」
「ありがとう」
表面上の挨拶だけをして、麻梨乃も桜もファーストコンタクトを終えた。
(……空気が重い)
俺はため息をつく。確か前にもこんなことがあった気がするのだが、あの時は沙良がいた。だが、今回は俺以外の二人が険悪になっている状態である。
(俺は沙良のことについてケンに相談しに来たはずだったよな? 何で桜と吉永さんがこんな険悪な関係になってんだ……?)
本来であればこんな場所からはとっとと退散するところなのだが、自宅に帰るのも気まずい以上、動くことすら許されないそんな状況だった。だが、この空間からは何としても抜け出したかった。
「あの、俺帰っても……」
そう言いだしてみる。だが、
『絶対ダメ!』
2人にここまではっきりと拒否されてしまっては、帰るに帰れなかった。
(どうすればいいんだよこれ……)
俺は八方塞がりのまま、その場に居続けるしかなかった。
「……くそっ」
その頃ケンは追い詰められていた。と言っても酷い攻撃を食らったわけではない。彼女の変身能力に翻弄され、精神的に疲労させられただけだ。例えば幽霊であったり、例えばケンの母親であったり、例えば猛獣であったり。そんな状態が続いた結果、変身能力をフルに使ったアリーが優勢に立っていたのだ。
「どう? 私の得た監視能力と変身能力を使えば、あなたの弱点をついて精神的に疲れさせるくらいは簡単なこと。私は暴力的なことは好きじゃないし、ここで負けを認めるなら、私はこれ以上あなたに危害を加えない」
「誰が負けなんか認めるかよ」
ケンは気力を振り絞り、アリーに相対する。
「……どうしてそこまで頑張るの? あなたは怠惰の悪魔見習い、そこまで活力を持ち合わせてはいないはず。何があなたをそこまで奮い立たせるの?」
「お前には分からないかもな。それじゃ俺も本気、出させてもらうぜ」
ケンはそう言うとにやっと笑った。
 




