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我が家に悪魔がやってきた! いちがっき!  作者: 小麦
アリーとサラ 樹が知る悪魔見習いの真実
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サラの真実

「まずサラ。学校で聞いたこの試験のこと覚えてる?」

「当たり前じゃないですか。私利私欲の願いをできるだけ多く叶えること、それが条件でしたよね。それで7つの大罪の名前の1つを冠することができると」

 アリーは頷く。

「じゃあ実際、あなたは今この契約者にどのくらい私利私欲の願いを頼まれてる?」

「……まだ0ですね」

 沙良は小さくなる。

「次、契約者のあなた」

「俺か?」

 今度は俺に水が向けられる。

「単刀直入に聞く。あなた、沙良に願いを願う気がないと思うんだけど、どう?」

「そうなんですか?」

 沙良は俺の方を向く。

「えっ、い、いや、それは……」

「隠さないでほしい。隠そうとしなくてもさっきの会話であなたが願いを叶えることに乗り気じゃないのは知ってるから」

 アリーのまっすぐな目を見て、俺は隠しきれないことを悟った。

「……ああ。俺はこいつに願いを願う気はない。私利私欲にまみれた行動で何が起こるのか、それは十分分かってるつもりだからな」

 俺は昔のある出来事を思い出しながらそう言う。俺が私利私欲の願いを極端に叶えようとしないのにも理由があるのだ。

「樹さん!」

「……やっぱり。サラがこの近所にいるのは知ってたからしばらくあなたの家を観察してたんだけど、あなたがサラに願いを願おうとしたことは1度だってなかった」

 アリーはずっと俺たち2人のことを見ていたことを告げる。

「単刀直入に言う。サラ、このままだとあなたは多分暴食の悪魔になることはできない」

「そこまで言うことは……」

 沙良はアリーの考えを否定しようとするが、

「でも、今のままだと本当にそうなる。サラが何も話していないのは今日あなたたちと直接話してみてよく分かった。だから、私はサラの契約者に真実を伝えようと思う。この人はサラの価値を分かってないみたいだから」

「真実? 価値? どういうことだよ?」

 俺はアリーの発言を聞き返す。

「……実は、暴食の悪魔見習いで人間界に来ているのはサラしかいない」

「アリー!」

 沙良は叫ぶ。

「他の悪魔見習いは何人か候補が人間界に来ることになってるから問題ない。私以外にも色欲の悪魔見習いは人間界に来てる。でも、サラだけは他に代わりがいない」

「……それは他に優秀な悪魔見習いがいないってことになるのか?」

 俺のその疑問にアリーは頷く。

「暴食の悪魔見習いはいろいろなことを吸収できることが優秀であるための最低の条件。でも、今回の試験を行うに当たってその条件を満たしていた悪魔見習いは一人だけ」

「それが、沙良……」

 俺は神妙な面持ちで呟く。

「私がサラを監視していた理由は担任の先生から試験とは別にサラのことを見ておくように頼まれたから。1人しかいない貴重な能力を持つ悪魔見習いの存在を消す訳にはいかないから、試験を受ける生徒の中で一番距離の近い私に頼んだんだと思う。もちろん最優先は自分の試験だけど、それと一緒にサラの様子を報告することも私の使命。その報告をまとめると、サラは今のままだと魔界に帰ることすらできなくなる」

 つまり、俺の思惑通りに事が進んでいたことになるらしい。だが、俺はアリーの次の言葉で自分の考えがとんでもないことを引き起こそうとしていたことを知ることになる。

「もし魔界に帰れなくなった悪魔見習いはどうなるか。答えは簡単。その存在を抹消され、世界から消えることになる。2度と自らの形を取り戻すことはできない。はっきり言うなら、死ぬってこと」

「おい、何だよそれ! 沙良、お前そんなこと一言も……」

 俺は沙良の方を向くが、彼女は彼女でだんまりを決め込んでしまっていた。

「その様子だとやっぱりサラから何も聞いてなかったみたいだし、話してみて正解だった。私はサラに消えてほしいとは思ってない。だから、何か機会を作ってあなたに接触して考えを改めてもらおうと思ってた。今あなたがサラにしていることは暴食の逆の節制。サラの存在を消す方向にばかり向かっていることだけは頭に入れておいてほしい」

「……分かった」

 俺も何を話していいのか分からず、そう返すのだけで精一杯だった。

「それを分かった上であなたが今後どう行動するのか決めるといい。ここまで話してもまだ彼女の能力を使わないって言うなら、私は容赦なくあなたの敵に回る。サラを消さないために、あなたを全力でサラから排除する」

 アリーはそう言うと、今度は沙良に向き直る。

「サラも1度だけ使える契約者変更を考えることを勧めておく。今のままだとあなたは本当に消えかねない。友人であるあなたが消えてしまうのは困る」

「……」

 沙良は何も言わず、黙ったままだ。

「私から言いたいことはそれだけ。今日は私たちは帰るから、そこのところをもう少し考えてほしい。それじゃあ行こう、麻梨乃」

 アリーはそう言うと、俺たちを残して席を立つ。

「あの、町村君だっけ?」

 アリーに連れられ立ち上がった吉永さんは俺に話しかけてくる。

「はい」

「これあたしの連絡先。何か困ったら相談に乗ってあげるから連絡して」

「ありがとう」

 俺は麻梨乃から連絡先を受け取った。

「それじゃ、私たちは帰る。次会うまでにあなたが考えを改めてることを祈ってる」

 アリーは去り際にそんな言葉を残していった。



「ごめんね麻梨乃、こっちの話ばっかりで。それに、麻梨乃のことも結果的に利用することになっちゃったことも」

 帰り道、アリーは麻梨乃にそう謝る。

「それはもういいんだけど……。あなたがこの二人を観察してたのにもきちんとした理由があったのね。ごめんなさい、何も考えずにわがままばかり言って」

 麻梨乃は謝る。

「別に麻梨乃が気にすることじゃないから。むしろわがまま言ってくれる分には私としては好都合だし。ただ、傲慢になりすぎる麻梨乃が嫌だった、それだけだから」

 アリーはそう麻梨乃に告げる。

「ありがとう。またこれからあたしが暴走しそうになったらよろしくね」

「任せてほしい。私は麻梨乃の契約者だから」

 2人はそう笑い合った。

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